花粉症や蕁麻疹、アトピー性皮膚炎など、アレルギー症状に悩まされている方にとって、抗ヒスタミン薬は身近な存在ではないでしょうか。ドラッグストアでも手軽に購入できるものから、医師の処方が必要なものまで、さまざまな種類が存在します。しかし、「どのような仕組みで効くのか」「眠くなりやすい薬とそうでない薬の違いは何か」「自分に合った薬をどう選べばよいのか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。この記事では、抗ヒスタミン薬の作用メカニズムから種類、副作用、正しい服用方法まで、医療の専門知識をわかりやすく解説いたします。アレルギー症状でお困りの方が、ご自身の症状に合った治療法を見つける一助となれば幸いです。

目次
- ヒスタミンとは何か?アレルギー反応のメカニズム
- 抗ヒスタミン薬の基本的な作用
- 第一世代と第二世代抗ヒスタミン薬の違い
- 主な抗ヒスタミン薬の種類と特徴
- 抗ヒスタミン薬が有効な疾患
- 副作用と注意すべきポイント
- インペアードパフォーマンスについて
- 正しい服用方法と飲み合わせ
- 妊娠中・授乳中の方への注意事項
- 市販薬と処方薬の違い
- 抗ヒスタミン薬の選び方
- 日常生活での注意点
- まとめ
1. ヒスタミンとは何か?アレルギー反応のメカニズム
抗ヒスタミン薬を理解するためには、まず「ヒスタミン」という物質について知ることが重要です。
ヒスタミンは、私たちの体内に存在する化学物質のひとつで、必須アミノ酸であるヒスチジンから合成される生理活性アミンです。体内のさまざまな組織に微量に含まれていますが、特に肥満細胞(マスト細胞)や好塩基球という免疫細胞の中に多く存在しています。
アレルギー反応が起こる仕組み
アレルギー反応は、私たちの体に備わっている免疫システムが、本来無害なはずの物質(アレルゲン)に対して過剰に反応してしまうことで起こります。このプロセスを詳しく見てみましょう。
まず、花粉やダニ、食べ物などのアレルゲンが体内に入ってくると、免疫システムがこれを「異物」として認識します。すると、IgE抗体という特殊な免疫物質が作られ、皮膚や粘膜に存在する肥満細胞の表面に結合して待機状態となります。
この状態で再びアレルゲンが体内に入ってくると、肥満細胞の表面にあるIgE抗体がアレルゲンをキャッチします。これが引き金となって、肥満細胞からヒスタミンをはじめとするさまざまな化学伝達物質が一気に放出されるのです。
ヒスタミンが引き起こす症状
放出されたヒスタミンは、体内のヒスタミンH1受容体という「鍵穴」に結合することで、以下のようなアレルギー症状を引き起こします。
鼻の粘膜では、ヒスタミンが神経を刺激することでくしゃみが誘発され、同時に鼻腺からの分泌が促進されて鼻水が出ます。また、血管が拡張することで鼻粘膜が腫れて鼻づまりが起こります。
目では、結膜の血管が拡張して充血が起こり、神経が刺激されることでかゆみを感じます。また、涙の分泌も増加します。
皮膚では、血管の拡張により赤みが生じ、血管から血漿成分が漏れ出すことで膨疹(ふくらみ)ができます。同時に、神経が刺激されることで強いかゆみを感じるようになります。
このように、ヒスタミンはアレルギー症状の主要な原因物質であり、これを抑えることがアレルギー治療の重要な柱となっているのです。
脳におけるヒスタミンの役割
ここで重要な点があります。ヒスタミンは実は脳内でも神経伝達物質として重要な役割を果たしています。脳内のヒスタミンは、覚醒状態の維持、集中力の向上、記憶や学習の強化などに関わっています。つまり、私たちが日中しっかりと目を覚まして活動できるのは、脳内のヒスタミンの働きによるところが大きいのです。
この点は、後述する抗ヒスタミン薬の副作用を理解する上で非常に重要なポイントとなります。
2. 抗ヒスタミン薬の基本的な作用
抗ヒスタミン薬は、その名前の通り、ヒスタミンの作用を抑える薬です。具体的には、ヒスタミンがH1受容体という「鍵穴」に結合するのを先回りしてブロックすることで、アレルギー症状を抑えます。
作用メカニズム
従来、抗ヒスタミン薬はヒスタミンと競合してH1受容体に結合し、ヒスタミンの作用を拮抗する(アンタゴニスト作用)と考えられてきました。しかし、近年の研究により、抗ヒスタミン薬にはもうひとつの作用メカニズムがあることが明らかになっています。
H1受容体には「活性型」と「不活性型」の2つの状態があり、通常は両者が動的な平衡状態を保っています。抗ヒスタミン薬の中には、不活性型のH1受容体を安定化させることで効果を発揮するものがあり、この作用は「インバースアゴニスト(逆作動薬)作用」と呼ばれています。
このインバースアゴニスト作用は、症状が出る前から薬を服用する「初期療法」の効果を説明するメカニズムのひとつと考えられています。不活性型の受容体が増えていれば、ヒスタミンが放出されても症状が出にくくなるというわけです。
抗ヒスタミン薬の効果
抗ヒスタミン薬は以下のような症状に効果を発揮します。
くしゃみや鼻水といった鼻炎症状は、ヒスタミンが直接関与する症状であるため、抗ヒスタミン薬が最も効果を発揮しやすい領域です。一方、鼻づまりに関しては、ヒスタミンだけでなくロイコトリエンなど他の化学伝達物質も関与しているため、抗ヒスタミン薬単独では効果が限定的な場合があります。
皮膚のかゆみや蕁麻疹に対しても、抗ヒスタミン薬は有効です。特に蕁麻疹の治療においては、抗ヒスタミン薬が第一選択薬として位置づけられています。
目のかゆみや充血といったアレルギー性結膜炎の症状にも効果があります。
効果発現までの時間
抗ヒスタミン薬は比較的即効性がある薬剤です。多くの第二世代抗ヒスタミン薬は、服用後1〜2時間で効果が現れ始めます。ただし、薬の効果には個人差があり、また継続して服用することで効果が高まる場合もあります。そのため、1つの抗ヒスタミン薬の効果は、1〜2週間程度継続して服用した上で判断することが推奨されています。
3. 第一世代と第二世代抗ヒスタミン薬の違い
抗ヒスタミン薬は大きく「第一世代」と「第二世代」に分類されます。この2つの違いを理解することは、自分に合った薬を選ぶ上で非常に重要です。
第一世代抗ヒスタミン薬
第一世代抗ヒスタミン薬は1940年代から開発され始めた薬で、抗ヒスタミン薬としての歴史は約80年にも及びます。
第一世代の特徴として、まず即効性が挙げられます。効果が現れるまでの時間が比較的短いため、症状が急に悪化したときなどに使用されることがあります。
しかし、大きな欠点があります。第一世代抗ヒスタミン薬は脂溶性が高く、血液脳関門を容易に通過して脳内に入り込んでしまいます。その結果、脳内のヒスタミンの働きもブロックしてしまい、強い眠気やだるさ、集中力の低下といった副作用が生じやすいのです。
また、第一世代抗ヒスタミン薬にはH1受容体への選択性が低いという問題もあります。つまり、ヒスタミン受容体だけでなく、アセチルコリンという神経伝達物質の受容体(ムスカリン受容体)にも作用してしまうのです。この「抗コリン作用」により、口の渇き、便秘、排尿困難、眼圧上昇といった副作用が起こることがあります。
代表的な第一世代抗ヒスタミン薬としては、クロルフェニラミン(ポララミン)、ジフェンヒドラミン(レスタミン)、ヒドロキシジン(アタラックス)などがあります。
第二世代抗ヒスタミン薬
1980年代以降に開発された第二世代抗ヒスタミン薬は、第一世代の欠点を克服するべく改良された薬です。
最大の特徴は、脳への移行性が低いことです。第二世代抗ヒスタミン薬は分子構造が工夫されており、血液脳関門を通過しにくくなっています。そのため、脳内のヒスタミンの働きに影響を与えにくく、眠気などの副作用が大幅に軽減されています。
また、H1受容体への選択性が高く、抗コリン作用も少ないため、口渇や便秘といった副作用も起こりにくくなっています。
さらに、第二世代抗ヒスタミン薬には、単にヒスタミンをブロックするだけでなく、肥満細胞からのヒスタミン放出自体を抑制する「抗アレルギー作用」を持つものもあります。この作用により、症状の予防効果も期待できます。
効果の持続時間も長くなっており、1日1〜2回の服用で済む薬が多いのも利点です。
現在、アレルギー性鼻炎や蕁麻疹の治療では、第二世代抗ヒスタミン薬が第一選択薬として推奨されています。
世代による違いのまとめ
| 項目 | 第一世代 | 第二世代 |
|---|---|---|
| 開発時期 | 1940年代〜 | 1980年代〜 |
| 脳への移行性 | 高い | 低い |
| 眠気 | 強い | 弱い〜ほとんどない |
| 抗コリン作用 | 強い | 弱い〜ない |
| 効果持続時間 | 短い | 長い |
| 服用回数 | 1日2〜3回 | 1日1〜2回 |
| 即効性 | あり | ややあり |
4. 主な抗ヒスタミン薬の種類と特徴
現在、日本で使用されている主な抗ヒスタミン薬について、その特徴をご紹介します。
第一世代抗ヒスタミン薬
クロルフェニラミン(商品名:ポララミンなど)は、古くから使用されている代表的な第一世代抗ヒスタミン薬です。即効性があり、効果も強いのですが、眠気が出やすいという欠点があります。市販の総合感冒薬にも配合されていることが多い成分です。
ジフェンヒドラミン(商品名:レスタミンなど)は、内服薬としてだけでなく、かゆみ止めの外用薬(塗り薬)にも配合されています。眠気が強く出るため、睡眠改善薬として販売されている製品もあります。
ヒドロキシジン(商品名:アタラックスなど)は、抗不安作用も持つ抗ヒスタミン薬で、蕁麻疹のほか、不安や緊張を伴う場合にも使用されることがあります。
第二世代抗ヒスタミン薬
第二世代抗ヒスタミン薬は多くの種類があり、それぞれに特徴があります。
フェキソフェナジン(商品名:アレグラなど)は、脳内移行率が非常に低く、眠気がほとんど出ない薬として知られています。添付文書上も自動車運転に関する注意の記載がなく、パイロットの航空機操縦能力にも影響しなかったという報告があります。1日2回服用が基本ですが、空腹時に服用すると吸収が良くなります。市販薬としても販売されており、アレルギー性鼻炎の方に広く使用されています。
ロラタジン(商品名:クラリチンなど)も、脳内移行率が低く眠気が出にくい薬です。1日1回の服用で効果が持続します。自動車運転への影響がない旨が添付文書に記載されている数少ない抗ヒスタミン薬のひとつです。
デスロラタジン(商品名:デザレックスなど)は、ロラタジンの活性代謝物で、いわばロラタジンの改良版です。1日1回の服用で効果が持続し、眠気も出にくいのが特徴です。食事の影響を受けないため、いつでも服用できる利便性があります。
ビラスチン(商品名:ビラノアなど)は、比較的新しい第二世代抗ヒスタミン薬で、脳内移行率が極めて低いことが特徴です。自動車運転に関する注意の記載がなく、効果も強いとされています。ただし、空腹時に服用する必要があり、食後の服用では吸収が低下します。
レボセチリジン(商品名:ザイザルなど)は、セチリジンの光学異性体で、より少ない量で効果を発揮できるように改良された薬です。1日1回就寝前の服用が基本で、効果は比較的強いとされていますが、人によっては眠気が出ることがあります。
オロパタジン(商品名:アレロックなど)は、効果の強さに定評のある薬ですが、第二世代の中では眠気が出やすい方に分類されます。また、一部の方で食欲増進の副作用が報告されています。
ルパタジン(商品名:ルパフィンなど)は、抗ヒスタミン作用に加えて抗PAF(血小板活性化因子)作用を持つのが特徴です。PAFは鼻づまりにも関与する物質であるため、鼻閉症状が強い方にも効果が期待できます。眠気はやや出やすい傾向があります。
エピナスチン(商品名:アレジオンなど)は、抗ヒスタミン作用と抗アレルギー作用を併せ持つ薬で、1日1回の服用で効果が持続します。眠気は比較的出にくいとされています。市販薬としても販売されています。
ベポタスチン(商品名:タリオンなど)は、比較的即効性があるとされる薬で、1日2回の服用が基本です。効果と眠気のバランスが良いとされています。
化学構造による分類
抗ヒスタミン薬は化学構造式によっても分類でき、大きく「三環系」「ピペリジン骨格系」「ピペラジン骨格系」の3つに分けられます。
三環系にはアゼプチン、アレジオン、クラリチン、デザレックス、アレロック、ルパフィンなどが含まれます。
ピペリジン骨格系にはエバステル、アレグラ、タリオン、ビラノアなどが含まれます。
ピペラジン骨格系にはセルテクト、ジルテック、ザイザルなどが含まれます。
ある化学構造の薬で効果が不十分な場合、異なる化学構造の薬に変更することで効果が得られることがあります。
5. 抗ヒスタミン薬が有効な疾患
抗ヒスタミン薬は、さまざまなアレルギー疾患の治療に用いられています。主な適応疾患について解説します。
アレルギー性鼻炎・花粉症
アレルギー性鼻炎は、抗ヒスタミン薬が最も広く使用されている疾患のひとつです。季節性のアレルギー性鼻炎(花粉症)でも、通年性のアレルギー性鼻炎(ダニやハウスダストなどが原因)でも、抗ヒスタミン薬は第一選択薬として位置づけられています。
特にくしゃみや鼻水といった症状には、抗ヒスタミン薬が高い効果を発揮します。一方、鼻づまりに対してはヒスタミン以外の化学伝達物質(ロイコトリエンなど)も関与しているため、抗ヒスタミン薬単独では効果が限定的な場合があります。鼻づまりが強い場合は、抗ロイコトリエン薬や点鼻ステロイド薬の併用が検討されます。
花粉症の治療では「初期療法」が重要とされています。花粉が飛び始める1〜2週間前から、あるいは症状が少しでも出始めた時点で抗ヒスタミン薬を開始することで、シーズン中の症状を軽減できることが報告されています。毎年花粉症の症状がひどい方は、早めの治療開始を心がけると良いでしょう。
蕁麻疹
蕁麻疹は、皮膚にかゆみを伴う膨疹(ふくらみ)が突然現れ、通常は数時間から1日以内に跡形もなく消えてしまう疾患です。蕁麻疹のほとんどのケースでは、最終的に肥満細胞から放出されたヒスタミンが症状を引き起こしているため、抗ヒスタミン薬が治療の中心となります。
日本皮膚科学会の蕁麻疹診療ガイドラインでは、特発性の蕁麻疹に対して、非鎮静性の第二世代抗ヒスタミン薬を第一選択薬として使用することが推奨されています。
通常量で効果が不十分な場合は、2倍量までの増量、または2種類の抗ヒスタミン薬の併用が検討されます。それでも効果が得られない場合は、H2拮抗薬(胃薬として使われるもの)や抗ロイコトリエン薬の追加、さらに難治性の場合はオマリズマブ(ゾレア)という注射薬の使用が検討されます。
蕁麻疹の治療では、症状が治まっても急に薬を中止せず、しばらく予防的に服用を続けることが重要です。急性蕁麻疹では症状消失後1週間程度、慢性蕁麻疹では症状消失後2か月程度を目安に、徐々に減量していくことが推奨されています。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎の治療の基本は、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症外用薬と保湿剤によるスキンケアです。抗ヒスタミン薬は、これらの外用療法を補助する目的で使用されます。
アトピー性皮膚炎のかゆみは、ヒスタミンだけでなく、インターロイキン31やロイコトリエンなどさまざまな物質が関与しているため、抗ヒスタミン薬だけでかゆみを完全に抑えることはできません。しかし、抗ヒスタミン薬によってかゆみが部分的に軽減できることが臨床試験で示されており、掻破(かきむしり)による症状悪化を防ぐ効果が期待できます。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021では、抗炎症外用薬と保湿外用薬による治療の補助療法として、非鎮静性の第二世代抗ヒスタミン薬の使用が提案されています。
アレルギー性結膜炎
目のかゆみ、充血、涙目といったアレルギー性結膜炎の症状にも、抗ヒスタミン薬は有効です。内服薬のほか、抗ヒスタミン成分を含む点眼薬も使用されます。
食物アレルギー
食物アレルギーによる皮膚症状(蕁麻疹、かゆみなど)や口腔内症状に対しては、抗ヒスタミン薬の内服が行われます。ただし、アナフィラキシーなどの重篤な症状の場合は、アドレナリン(エピペン)の投与が優先され、抗ヒスタミン薬は補助的な役割となります。
6. 副作用と注意すべきポイント
抗ヒスタミン薬は比較的安全性の高い薬ですが、いくつかの副作用があります。特に注意すべきポイントについて解説します。
眠気
抗ヒスタミン薬の最もよく知られた副作用は眠気です。これは、脳内でヒスタミンが覚醒状態の維持に関わっているためです。抗ヒスタミン薬が脳内に移行すると、脳のヒスタミンの働きがブロックされ、眠気が生じます。
眠気の程度は薬によって大きく異なります。第一世代抗ヒスタミン薬では、脳内への移行率が高いため強い眠気が生じやすく、脳内H1受容体占拠率は50%以上にもなります。一方、第二世代の中でも眠気の出にくい薬(フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン、ビラスチンなど)では、脳内H1受容体占拠率は20%未満と報告されています。
多くの抗ヒスタミン薬の添付文書には、「服用後は自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事しないこと」という注意喚起が記載されています。しかし、フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン、ビラスチンについては、このような記載がありません。これは、これらの薬が眠気を催すことが少なく、自動車運転能力への影響もないと考えられているためです。
仕事や学業に影響が出る可能性があるため、自分に合った眠気の少ない薬を選ぶことが重要です。
抗コリン作用による副作用
特に第一世代抗ヒスタミン薬では、ヒスタミン受容体だけでなくアセチルコリン受容体にも作用してしまうため、以下のような副作用が生じることがあります。
口の渇きは、唾液の分泌が抑制されることで起こります。便秘は、消化管の動きが抑制されることで起こります。排尿困難は、膀胱の収縮が抑制されることで起こります。そのため、前立腺肥大症のある方では特に注意が必要です。眼圧上昇も起こりうるため、閉塞隅角緑内障の方には禁忌(使用できない)となっています。
第二世代抗ヒスタミン薬ではこれらの副作用は大幅に軽減されていますが、完全になくなっているわけではありません。一部の第二世代抗ヒスタミン薬でも、抗コリン作用を持つものがあります。
使用を避けるべき場合
以下に該当する方は、抗ヒスタミン薬の使用に注意が必要であり、医師や薬剤師に相談する必要があります。
閉塞隅角緑内障の方は、抗コリン作用により眼圧が上昇する可能性があるため、第一世代抗ヒスタミン薬および一部の第二世代抗ヒスタミン薬は禁忌となっています。
前立腺肥大症など下部尿路に閉塞性疾患のある方は、排尿困難が悪化する可能性があります。
小児、特に2歳未満の乳幼児への投与は注意が必要です。一部の抗ヒスタミン薬は、熱性けいれんのリスクを高める可能性が報告されています。また、小児では眠気を自覚しにくいため、知らないうちに集中力や学習能力が低下している可能性があります。
高齢者では、抗コリン作用による副作用が出やすく、また転倒のリスクも高まる可能性があります。
肝臓や腎臓の機能が低下している方は、薬の代謝や排泄が遅れるため、副作用が出やすくなる可能性があります。
7. インペアードパフォーマンスについて
抗ヒスタミン薬の副作用として、近年特に注目されているのが「インペアードパフォーマンス」です。これは、眠気を自覚しているかどうかにかかわらず、集中力、判断力、作業効率が低下する現象を指します。「気づきにくい能力ダウン」あるいは「鈍脳」とも呼ばれます。
インペアードパフォーマンスとは
インペアードパフォーマンスが問題なのは、本人が気づかないうちに能力が低下している点です。眠気であれば「眠い」という自覚がありますが、インペアードパフォーマンスでは自覚症状がないまま、知らず知らずのうちに仕事の効率が落ちたり、ミスが増えたりしている可能性があるのです。
研究によると、第一世代抗ヒスタミン薬を服用した場合のパフォーマンス低下は、ビール1000ml(約ビール中ジョッキ2杯分)を飲んだときに相当するとも言われています。また、クロルフェニラミンという成分を最小用量の2mgで服用しただけでも、ウイスキーシングル3杯分に相当するパフォーマンス低下が起こるという報告もあります。
眠気とインペアードパフォーマンスの関係
ここで重要な点は、「眠気が出る薬=効果が強い薬」というのは錯覚であるということです。眠気やインペアードパフォーマンスは副作用であり、薬の効果(アレルギー症状を抑える力)とは関係ありません。
つまり、眠気が出にくい薬でも、十分な効果を持つ薬は存在します。わざわざ眠気の強い薬を選ぶ理由はなく、できるだけ眠気やインペアードパフォーマンスが少ない薬を選ぶことが推奨されています。
日常生活への影響
インペアードパフォーマンスは、日常生活のさまざまな場面で影響を及ぼす可能性があります。
自動車運転では、注意力や判断力の低下により事故のリスクが高まります。眠気を感じていなくても運転能力が低下している可能性があるため、特に注意が必要です。
仕事では、作業効率の低下、ミスの増加、判断力の低下などが起こる可能性があります。特に精密作業や危険を伴う作業に従事している方は注意が必要です。
学業では、集中力や記憶力の低下により、学習効率が落ちる可能性があります。受験生やテスト期間中の学生は、薬の選択に注意が必要です。
スポーツでは、反射神経や判断力の低下により、パフォーマンスが落ちたり、怪我のリスクが高まる可能性があります。
インペアードパフォーマンスを避けるには
インペアードパフォーマンスを避けるためには、脳内移行性の低い第二世代抗ヒスタミン薬を選ぶことが重要です。特に自動車運転に関する注意の記載がない薬(フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン、ビラスチン)を選ぶと、インペアードパフォーマンスのリスクを最小限に抑えることができます。
ただし、薬の効き方や副作用の出方には個人差があります。同じ薬でも、ある人には全く眠気が出なくても、別の人には眠気が出ることがあります。自分に合った薬を見つけるためには、医師と相談しながら試していくことが大切です。
8. 正しい服用方法と飲み合わせ
抗ヒスタミン薬の効果を最大限に発揮させ、副作用を最小限に抑えるためには、正しい服用方法を守ることが重要です。
服用のタイミング
抗ヒスタミン薬の服用タイミングは、薬によって異なります。
食事の影響を受けにくい薬(デスロラタジン、レボセチリジンなど)は、食事に関係なくいつでも服用できます。
空腹時に服用すべき薬(ビラスチン、フェキソフェナジンなど)は、食後に服用すると吸収が低下し、効果が弱まる可能性があります。これらの薬は、食前1時間以上前か、食後2時間以上経ってから服用することが推奨されます。
1日1回服用の薬は、多くの場合就寝前に服用することが推奨されています。これは、万が一眠気が出ても就寝時であれば問題にならないためです。ただし、眠気の出にくい薬であれば、朝に服用しても問題ありません。
継続して服用することの重要性
抗ヒスタミン薬は、症状が出たときだけ服用するのではなく、継続して服用することで効果が高まる場合があります。特に花粉症では、シーズン中は毎日服用を続けることで、症状のコントロールがより良くなることが知られています。
「症状が治まったから」といって自己判断で服用を中止すると、症状が再燃することがあります。薬の減量や中止については、必ず医師と相談してください。
飲み合わせの注意
アルコールとの併用は避けるべきです。アルコールと抗ヒスタミン薬を同時に摂取すると、眠気やインペアードパフォーマンスが増強されることがあります。抗ヒスタミン薬を服用している期間は、飲酒を控えるか、少量にとどめることが推奨されます。
グレープフルーツジュースとの相互作用が報告されている薬もあります。グレープフルーツジュースは、薬の代謝に関わる酵素を阻害するため、薬の血中濃度が上昇し、副作用が出やすくなる可能性があります。心配な場合は、薬剤師に確認してください。
他の眠気を催す薬(睡眠薬、抗不安薬、一部の抗うつ薬など)との併用は、眠気が増強される可能性があります。
一部の抗生物質(エリスロマイシンなど)や抗真菌薬との相互作用が報告されている抗ヒスタミン薬もあります。他に服用している薬がある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えてください。
9. 妊娠中・授乳中の方への注意事項
妊娠中や授乳中の方がアレルギー症状で困っている場合、抗ヒスタミン薬を使用してよいかどうかは気になるところです。
妊娠中の使用について
抗ヒスタミン薬の妊婦への使用については、「明らかに危険である」という証拠はありませんが、「積極的に安全である」と言い切るにも情報が不十分というのが現状です。
特に器官形成期である妊娠初期(受精後19日から妊娠4か月頃まで)は、胎児への影響が懸念される時期であり、可能な限り薬の使用を避けることが望ましいとされています。
蕁麻疹診療ガイドライン2018では、「妊婦、特に器官形成期である妊娠初期には使用しないことが望ましい。ただし、治療上の有益性が危険性を上回ると判断され、かつ十分な説明と同意がなされた場合には投与しても良い」とされています。
つまり、絶対に使用できないわけではなく、症状のつらさと薬のリスクを天秤にかけて判断することになります。妊娠中にアレルギー症状でお困りの場合は、必ず産婦人科医やアレルギー専門医に相談してください。
授乳中の使用について
授乳中の抗ヒスタミン薬使用についても、注意が必要です。経口で服用した抗ヒスタミン薬は、ごくわずかですが母乳中に移行します。
ただし、母乳中への移行量は非常に少ないと考えられており、特に乳児への直接投与が可能な薬剤(小児用の製剤がある薬)については、乳児への健康被害が生じる可能性はほとんどないと考えられています。
授乳中の薬の使用については、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」などで情報を得ることができます。不安な場合は、医師や薬剤師に相談してください。
10. 市販薬と処方薬の違い
抗ヒスタミン薬は、医師の処方が必要な処方薬だけでなく、ドラッグストアなどで購入できる市販薬(OTC医薬品)としても販売されています。
市販薬として購入できる主な抗ヒスタミン薬
現在、第二世代抗ヒスタミン薬で市販薬として購入できる主な成分は以下の通りです。
フェキソフェナジン(アレグラFX、アレルビなど)は、眠気が出にくく、処方薬と同じ成分・同じ量が配合されています。
ロラタジン(クラリチンEX、ロラタジンAGなど)も、眠気が出にくい成分で、処方薬と同等の製品が市販されています。
エピナスチン(アレジオン20など)は、1日1回の服用で効果が持続します。
セチリジン(コンタック鼻炎Zなど)は、効果が比較的強いとされていますが、やや眠気が出やすい傾向があります。
処方薬との違い
成分や含有量については、近年は処方薬と同じ成分・同じ量を含む市販薬も増えています。ただし、すべての抗ヒスタミン薬が市販されているわけではなく、ビラスチンやデスロラタジンなどの新しい薬は、現時点では処方薬のみとなっています。
適応症については、市販薬の多くは「アレルギー性鼻炎」を適応として販売されており、「蕁麻疹」や「アトピー性皮膚炎」への使用は適応外となっていることがあります。
価格については、一般的に処方薬は保険が適用されるため、市販薬より安くなることが多いです。ただし、診察料や処方料がかかるため、症状が軽い場合は市販薬の方が便利で経済的な場合もあります。
配合成分については、市販薬の中には抗ヒスタミン薬以外の成分(血管収縮剤、カフェインなど)が配合されているものがあります。これらの配合剤は、複数の症状に対応できる反面、不要な成分も同時に摂取してしまう可能性があります。
市販薬を使用する際の注意点
市販薬を使用する際は、以下の点に注意してください。
添付文書をよく読み、用法・用量を守って使用してください。特に、他の薬との飲み合わせや、使用してはいけない場合(禁忌)について確認してください。
2週間程度使用しても症状が改善しない場合は、自己判断で使い続けるのではなく、医療機関を受診することをお勧めします。
妊娠中や授乳中の方、小さなお子さんへの使用、持病のある方は、使用前に薬剤師や医師に相談してください。
11. 抗ヒスタミン薬の選び方
抗ヒスタミン薬は多くの種類があり、どれを選べばよいか迷う方も多いでしょう。選び方のポイントを解説します。
症状による選び方
くしゃみ・鼻水が主な症状の場合は、抗ヒスタミン薬の効果が期待しやすい領域です。第二世代抗ヒスタミン薬であれば、多くの薬で効果が期待できます。
鼻づまりが強い場合は、抗ヒスタミン薬単独では効果が限定的なことがあります。抗ロイコトリエン薬や点鼻ステロイド薬の併用、または抗PAF作用を持つルパタジンなどが検討されます。
皮膚のかゆみ・蕁麻疹には、抗ヒスタミン薬が第一選択です。効果が不十分な場合は増量や併用が検討されます。
目のかゆみには、内服の抗ヒスタミン薬に加えて、抗ヒスタミン成分を含む点眼薬の併用が効果的です。
生活スタイルによる選び方
自動車の運転をする方や危険を伴う機械を操作する方は、眠気やインペアードパフォーマンスの出にくい薬を選ぶことが重要です。フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン、ビラスチンなどが適しています。
受験生や仕事で集中力が必要な方も、同様に眠気の出にくい薬を選ぶことをお勧めします。
服用回数をできるだけ少なくしたい方は、1日1回服用の薬が便利です。
空腹時の服用が難しい方は、食事の影響を受けにくいデスロラタジンなどが適しています。
効果が得られない場合
抗ヒスタミン薬を服用しても効果が得られない場合、いくつかの対応が考えられます。
まず、1〜2週間は継続して様子を見てください。薬の効果は継続服用で高まることがあります。
それでも効果が不十分な場合は、薬の種類を変更してみることも一案です。同じ第二世代抗ヒスタミン薬でも、人によって効き方が異なります。また、化学構造の異なる薬に変更することで効果が得られることがあります。
薬の増量(添付文書の範囲内で)や、2種類の抗ヒスタミン薬の併用も検討されます。
それでも効果が不十分な場合は、他の治療法(点鼻ステロイド薬、抗ロイコトリエン薬、免疫療法など)の併用が検討されます。
いずれの場合も、自己判断ではなく医師と相談しながら治療を進めることが大切です。
12. 日常生活での注意点
抗ヒスタミン薬を服用している間、日常生活で気をつけるべきポイントがあります。
自動車運転について
多くの抗ヒスタミン薬の添付文書には、「服用後は自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事しないこと」という注意喚起が記載されています。これは、眠気だけでなくインペアードパフォーマンスによる事故リスクを考慮したものです。
フェキソフェナジン、ロラタジン、デスロラタジン、ビラスチンについては、このような記載がありません。自動車を運転する必要がある方は、これらの薬を選ぶことをお勧めします。
ただし、薬の効き方には個人差があります。眠気が出にくいとされる薬でも、人によっては眠気を感じることがあります。初めて服用する薬の場合は、運転前に自分への影響を確認することが大切です。
飲酒について
抗ヒスタミン薬とアルコールを併用すると、眠気やインペアードパフォーマンスが増強される可能性があります。抗ヒスタミン薬を服用している期間は、飲酒を控えるか、少量にとどめることをお勧めします。
仕事・学業への影響
眠気やインペアードパフォーマンスは、仕事の効率や学業成績に影響を及ぼす可能性があります。特に重要な会議や試験がある日は、眠気の出にくい薬を選ぶなどの配慮が必要です。
また、お子さんが抗ヒスタミン薬を服用している場合、眠気を自覚しにくいため、知らないうちに集中力や学習能力が低下している可能性があります。可能な限り眠気の出にくい第二世代抗ヒスタミン薬を選ぶことが推奨されます。
高齢者の注意点
高齢者では、抗ヒスタミン薬の副作用が出やすい傾向があります。特に以下の点に注意が必要です。
眠気やふらつきによる転倒のリスクが高まる可能性があります。抗コリン作用により、口渇、便秘、排尿困難などの症状が出やすくなります。また、認知機能への影響も懸念されます。
高齢者が抗ヒスタミン薬を使用する場合は、医師とよく相談の上、慎重に使用することが大切です。

13. まとめ
抗ヒスタミン薬は、アレルギー症状を抑える上で非常に有効な薬です。この記事の重要なポイントをまとめます。
抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応の主要な原因物質であるヒスタミンの働きをブロックすることで、くしゃみ、鼻水、かゆみなどの症状を抑えます。
抗ヒスタミン薬には第一世代と第二世代があり、第二世代は眠気などの副作用が軽減されています。現在は第二世代抗ヒスタミン薬が治療の主流となっています。
第二世代の中でも薬によって特徴が異なり、眠気の出やすさ、服用回数、食事の影響などが異なります。自分の症状や生活スタイルに合った薬を選ぶことが大切です。
眠気だけでなく、自覚しにくい「インペアードパフォーマンス」(集中力・判断力・作業効率の低下)にも注意が必要です。自動車運転や危険を伴う作業をする方は、特に眠気の出にくい薬を選ぶことが重要です。
抗ヒスタミン薬は、症状が出たときだけでなく継続して服用することで効果が高まる場合があります。花粉症の初期療法など、早めの治療開始が症状軽減に効果的です。
薬の効き方や副作用の出方には個人差があります。効果が不十分な場合や副作用が気になる場合は、医師と相談しながら自分に合った薬を見つけていくことが大切です。
参考文献
- 蕁麻疹(じんましん) Q13 – 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
- ヒスタミンによる食中毒について|厚生労働省
- アレルギーについて | アレルギーとは – アレルギーポータル
- ヒスタミン|食品安全委員会ファクトシート
- 抗ヒスタミン薬(内服薬・注射剤・貼付剤)の解説|日経メディカル処方薬事典
- アレルギー性鼻炎に対する対処法と特徴について|フルナーゼ
- インペアード・パフォーマンス – Wikipedia
- アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021 – Mindsガイドラインライブラリ
- 蕁麻疹診療ガイドライン | Mindsガイドラインライブラリ
- アレルギー性鼻炎(花粉症)の対策|くすりと健康の情報局
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務