ベピオゲルとは?ニキビ治療における効果・使い方・副作用を皮膚科医が詳しく解説

ニキビは多くの方が経験する身近な肌トラブルですが、繰り返すニキビや炎症を起こした赤ニキビに悩まされている方も少なくありません。皮膚科を受診すると「ベピオゲル」というお薬を処方されることがありますが、「どんな薬なの?」「副作用は大丈夫?」と不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ベピオゲルは、過酸化ベンゾイルを主成分とするニキビ治療薬です。海外では50年以上の使用実績があり、2015年に日本でも保険適用となった医療用医薬品です。抗菌作用と角質を剥がす作用の両方を持ち、白ニキビから赤ニキビまで幅広いタイプのニキビに効果が期待できます。また、長期間使用しても耐性菌ができにくいという大きな特徴があり、日本皮膚科学会のガイドラインでも高く推奨されている治療薬です。

この記事では、ベピオゲルの効果や作用メカニズム、正しい使い方、副作用への対処法、他のニキビ治療薬との違いについて詳しく解説します。ベピオゲルでの治療を検討している方、すでに処方されている方はぜひ参考にしてください。


目次

  • ベピオゲルとは
  • 有効成分「過酸化ベンゾイル」について
  • ベピオゲルの2つの作用メカニズム
  • ベピオゲルが効果を発揮するニキビの種類
  • ベピオゲルの正しい使い方
  • 効果が現れるまでの期間
  • ベピオゲルの副作用と対処法
  • 使用時の注意点と禁忌
  • 他のニキビ治療薬との比較
  • ベピオシリーズの種類と特徴
  • 日本皮膚科学会ガイドラインにおける位置づけ
  • 維持療法としてのベピオゲル
  • よくある質問(Q&A)
  • まとめ
  • 参考文献

ベピオゲルとは

ベピオゲルは、過酸化ベンゾイル(BPO:Benzoyl Peroxide)を2.5%配合した白色透明のゲル状ニキビ治療薬です。マルホ株式会社が製造販売しており、2014年12月に日本で製造販売承認を取得し、2015年4月から保険適用となりました。

過酸化ベンゾイルを主成分とするニキビ治療薬は、欧米では1960年代から外用治療薬として広く使用されてきました。日本では長らく未承認でしたが、日本皮膚科学会からの要望もあり、ようやく国内でも使用できるようになりました。現在では、ニキビ治療の第一選択薬の一つとして広く処方されています。

ベピオゲルは医療用医薬品であるため、市販されておらず、皮膚科などの医療機関で診察を受けて処方してもらう必要があります。健康保険が適用されるため、3割負担の場合は15gチューブ1本あたり約400円程度で処方を受けることができます。

ベピオゲルの基本情報

ベピオゲルの製品規格は以下の通りです。

一般名は過酸化ベンゾイルゲルで、販売名はベピオゲル2.5%です。製造販売元はマルホ株式会社で、薬価は1gあたり87.1円となっています。規格は15gチューブで、性状は白色半透明のゲル剤です。効能・効果は尋常性ざ瘡(ニキビ)で、用法・用量は1日1回、洗顔後に患部に適量を塗布します。保管方法は凍結を避け、25℃以下で保存する必要があります。


有効成分「過酸化ベンゾイル」について

過酸化ベンゾイル(BPO)は、強力な酸化作用を持つ化学物質です。皮膚に塗布されると分解されて「フリーラジカル」と呼ばれる活性酸素を発生させ、これがニキビの原因菌であるアクネ菌(学名:Cutibacterium acnes、旧名:Propionibacterium acnes)を殺菌します。

過酸化ベンゾイルの歴史

過酸化ベンゾイルは、欧米では60年以上前からニキビ治療に使用されてきた実績のある成分です。アメリカやヨーロッパでは市販薬としても入手可能で、ニキビ治療の標準的な成分として広く認知されています。

日本では長らく承認されていませんでしたが、2010年に日本皮膚科学会から厚生労働省へ過酸化ベンゾイルの早期承認を求める要望書が提出され、その後の臨床試験を経て2014年に承認に至りました。現在では40カ国以上で販売されており、その安全性と有効性は世界的に確立されています。

耐性菌ができにくい理由

過酸化ベンゾイルの最大の特徴の一つが、長期間使用しても耐性菌ができにくいという点です。

従来の抗生物質(抗菌薬)は、細菌のタンパク質合成を阻害したり、細胞壁の合成を妨げたりすることで効果を発揮します。しかし、細菌は自らのDNAを変化させることで、これらの薬剤に対して抵抗力(耐性)を獲得することがあります。これが「薬剤耐性菌」の問題です。

一方、過酸化ベンゾイルは分解時に発生するフリーラジカルが、細菌の細胞膜、DNA、酵素など複数の部位を同時に物理的・化学的に破壊します。このような多面的な攻撃に対しては、細菌が耐性を獲得することが極めて困難です。実際、欧米で60年以上使用されてきた中で、過酸化ベンゾイルに対する耐性菌は1件も報告されていません。

この特性により、ベピオゲルは長期間にわたって安定した効果が期待でき、ニキビの維持療法(再発予防)にも適しています。

体内での代謝

過酸化ベンゾイルは皮膚に塗布されると、約10〜15分程度で皮膚に浸透します。皮膚内や血液中で速やかに「安息香酸」に変換され、さらに「馬尿酸」へと代謝されます。馬尿酸は体内で自然に存在する物質であり、最終的にほぼすべてが尿として体外に排泄されます。このため、体内に蓄積する心配はほとんどありません。


ベピオゲルの2つの作用メカニズム

ベピオゲルは、「抗菌作用」と「角層剥離作用(ピーリング作用)」という2つの異なるメカニズムでニキビに効果を発揮します。この2つの作用が相乗効果を発揮することで、既存のニキビの治療と新しいニキビの予防を同時に行えるのがベピオゲルの大きな特徴です。

抗菌作用

過酸化ベンゾイルは皮膚表面で分解される際、酸化ベンゾイルラジカルやフェニルラジカルなどのフリーラジカル(活性酸素)を発生させます。これらのフリーラジカルは強力な酸化力を持ち、ニキビの原因菌であるアクネ菌(Cutibacterium acnes)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に対して優れた殺菌作用を示します。

通常の抗生物質が「静菌的」(菌の増殖を抑制する)に作用するのに対し、過酸化ベンゾイルは「殺菌的」(直接菌を死滅させる)に作用します。この殺菌作用により、炎症を起こした赤ニキビや膿を持った黄ニキビの改善に特に効果を発揮します。

角層剥離作用(ピーリング作用)

ニキビは、毛穴の出口が角質で塞がれることから始まります。過酸化ベンゾイルには、皮膚表面の古い角質を取り除く「角層剥離作用」があります。

具体的には、過酸化ベンゾイルが角質細胞同士を結合している「デスモソーム」という構造に作用し、その結合を緩めます。これにより、古い角質が剥がれやすくなり、毛穴の詰まりが改善されます。

この作用は、美容皮膚科で行われる「ケミカルピーリング」と似たような効果をもたらします。毛穴詰まりを解消することで、白ニキビ(コメド)や黒ニキビの改善だけでなく、新しいニキビができるのを予防する効果も期待できます。


ベピオゲルが効果を発揮するニキビの種類

ベピオゲルは、ニキビの進行段階を問わず、幅広いタイプのニキビに効果を発揮します。

白ニキビ(閉鎖面皰・コメド)

毛穴に皮脂が詰まった初期段階のニキビです。皮膚表面が盛り上がり、白っぽく見えます。炎症はまだ起きていない状態で、この段階で適切に治療することで、赤ニキビへの進行を防ぐことができます。ベピオゲルの角層剥離作用により、毛穴の詰まりを改善して白ニキビを治療します。

黒ニキビ(開放面皰)

白ニキビの毛穴の入り口が開き、詰まった皮脂が空気に触れて酸化し、黒く見える状態です。まだ炎症は起きていません。白ニキビと同様に、角層剥離作用による効果が期待できます。

赤ニキビ(炎症性丘疹)

毛穴の中でアクネ菌が増殖し、炎症を起こして赤く腫れた状態です。痛みを伴うこともあります。ベピオゲルの抗菌作用と角層剥離作用の両方が効果を発揮し、炎症を鎮めながら毛穴詰まりを改善します。

黄ニキビ(膿疱)

炎症がさらに進行し、膿が溜まった状態です。ベピオゲルの殺菌作用により、原因菌を死滅させて炎症を鎮静化させます。

マイクロコメド(微小面皰)

目に見えない段階の毛穴の詰まりです。マイクロコメドは新しいニキビの「種」となるもので、これを放置すると白ニキビ、そして赤ニキビへと進行していきます。ベピオゲルをニキビができやすい部位全体に塗ることで、このマイクロコメドの段階から予防的に治療することができます。

体のニキビにも効果的

ベピオゲルは顔だけでなく、胸や背中など体のニキビ(体幹部ざ瘡)にも使用できます。体のニキビは顔よりも治りにくいことが多いですが、医師の指示のもとで適切に使用することで改善が期待できます。


ベピオゲルの正しい使い方

ベピオゲルの効果を最大限に引き出すためには、正しい使用方法を守ることが重要です。

基本的な使用方法

ベピオゲルは1日1回、洗顔後に使用します。紫外線に当たると乾燥や刺激感などの副作用が出やすくなるため、夜(就寝前)に使用することが推奨されています。

使用手順は以下の通りです。

まず、ぬるま湯で優しく洗顔します。洗顔料は低刺激性のものを使用し、スクラブ入りのものは避けましょう。次に、清潔なタオルで水分を優しく拭き取り、肌が完全に乾くのを待ちます。洗顔後すぐではなく、15〜30分程度おいてから塗ると刺激を抑えやすくなります。

化粧水や乳液などの保湿剤で肌を整えてから、ベピオゲルを塗布します。保湿剤を先に塗ることで、薬の刺激を軽減する効果があります。

ベピオゲルを人差し指の先端から第一関節までの長さ(1FTU:フィンガーチップユニット、約0.5g)を出し、おでこ、左右の頬、鼻、あごの6箇所に分けて置き、顔全体に薄く広げます。塗り終わったら、必ず手を洗いましょう。

塗布量の目安

顔全体に塗る場合、1FTU(人差し指の先から第一関節まで絞り出した量、約0.5g)が1回分の目安です。1本15gのチューブで約1ヶ月分となります。

額だけ、頬だけなど部分的に使用する場合は、その3分の1程度の量で十分です。

塗る範囲について

ベピオゲルは、ニキビができている部分だけでなく、ニキビができやすい部位全体に広く塗ることが推奨されています。これは、目に見えない段階のマイクロコメド(微小面皰)にも作用し、新しいニキビの発生を予防するためです。

ただし、以下の部位には塗らないよう注意してください。

目の周り、口唇、鼻翼(鼻の穴の周り)、粘膜部分には塗布を避けます。切り傷、すり傷、湿疹がある部位にも塗らないでください。万が一、目に入った場合は直ちに水で洗い流してください。

使い始めの注意点

ベピオゲルは、使い始めに赤みやヒリヒリ感などの刺激症状が出ることがあります。そのため、最初から顔全体に塗るのではなく、段階的に使用範囲を広げていくことが推奨されます。

使い始めは、額や頬の一部など狭い範囲に少量(米粒大〜あずき大程度)から始めます。3日程度様子を見て、赤みやかぶれなどの問題がなければ、少しずつ塗る範囲と量を増やしていきます。最終的には、1FTUの量を顔全体に塗ることを目指します。


効果が現れるまでの期間

ベピオゲルの効果を実感できるまでの期間には個人差がありますが、一般的な目安は以下の通りです。

使用開始から約2週間で効果を実感し始める方もいます。2〜3週間後には、毛穴の詰まりの改善や炎症の軽減が見られることが多くなります。2〜3ヶ月の継続使用で、多くの方がニキビの改善を実感します。

国内で行われた臨床試験では、12週間(約3ヶ月)の使用で炎症性皮疹(赤ニキビ)が約72.7%減少し、非炎症性皮疹(白ニキビ・黒ニキビ)が約56.5%減少したという結果が得られています。また、別のデータでは、3ヶ月の継続使用でニキビが62%減少したという報告もあります。

重要なのは、すぐに効果が見られなくても諦めずに継続することです。ベピオゲルは一定期間しっかり塗り続けることで効果を発揮する薬です。最低でも1〜3ヶ月は継続することが推奨されています。

また、効果が現れた後も継続することで、ニキビができにくい肌質への改善が期待できます。自己判断で使用を中止すると、ニキビが再び悪化する恐れがありますので、治療の方針については必ず医師の指示に従ってください。


ベピオゲルの副作用と対処法

ベピオゲルは安全性の高い薬ですが、一定の割合で副作用が生じることがあります。国内臨床試験では、12週間使用した患者の約37%に何らかの副作用が認められました。ただし、そのほとんどは軽度で一時的なものです。

主な副作用

皮膚剥脱(皮むけ、粉ふき)は約19%の方に見られ、最も多い副作用です。適用部位の紅斑(赤み)は約14%、刺激感・ヒリヒリ感は約8%、適用部位のそう痒感(かゆみ)は約3〜6%、乾燥は約7〜13%、接触皮膚炎(かぶれ)は約2.5〜3%の方に認められています。

これらの症状は、多くの場合、皮膚が薬の成分に慣れる過程で現れる「刺激性」の副作用です。1ヶ月程度継続すると、刺激を感じる頻度は減少していくのが一般的です。

副作用を軽減するための対策

副作用を軽減するためのポイントをいくつかご紹介します。

保湿を十分に行うことが重要です。ベピオゲルを塗る前に、化粧水や乳液でしっかり保湿しておくと刺激を軽減できます。できれば低刺激性でノンコメドジェニック(毛穴を詰まらせにくい)の保湿剤を選びましょう。

洗顔は優しく行います。洗浄力の強すぎる洗顔料やスクラブ入りの洗顔料は避け、たっぷりの泡で優しく洗いましょう。

段階的に使用量を増やすことも効果的です。使い始めは少量・狭い範囲から開始し、数日かけて徐々に量と範囲を増やしていきます。

ショートコンタクト療法という方法もあります。副作用がつらい場合は、薬を塗って10〜15分経ったら洗い流すという方法があります。過酸化ベンゾイルは10〜15分程度で皮膚に浸透するため、洗い流しても効果は得られます。

使用を中止すべき場合

以下のような場合は使用を中止し、医師に相談してください。

強い赤みや腫れが出て、顔全体や首にまで広がった場合は要注意です。アレルギー性のかぶれ(接触皮膚炎)が疑われる場合も使用を中止しましょう。アレルギー性のかぶれは、刺激性の副作用とは異なり、使用を続けても改善しません。かゆみが強い場合や水ぶくれができた場合も同様です。発熱や全身の発疹など全身症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。


使用時の注意点と禁忌

ベピオゲルを安全に使用するために、いくつかの重要な注意点があります。

漂白作用について

ベピオゲルには漂白作用があります。衣服、タオル、寝具、髪の毛などに付着すると、色が抜けて(脱色されて)しまうことがあります。

薬を塗った後は必ず手を洗いましょう。就寝時は枕にタオルを敷くなどの対策をとることをお勧めします。色のついた衣類やタオルへの付着に注意し、髪の毛に付かないよう気をつけてください。

紫外線への注意

ベピオゲルの使用中は、皮膚が紫外線に対して敏感になります。日中に外出する際は、帽子や日傘を使用したり、日焼け止めを塗るなどの紫外線対策を心がけましょう。また、日焼けランプの使用や紫外線療法は避けてください。

保管方法

ベピオゲルは凍結を避け、25℃以下で保存する必要があります。高温になる場所(車内や直射日光の当たる場所など)での保管は避けてください。

禁忌(使用してはいけない方)

過酸化ベンゾイルまたはベピオゲルの成分に対して過敏症(アレルギー)の既往歴がある方は使用できません。過去にベピオゲルやその成分でかぶれたことがある方は、必ず医師に伝えてください。

慎重投与が必要な方

妊娠中または妊娠している可能性のある方は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用します。ただし、ディフェリンゲル(アダパレン)と異なり、ベピオゲルは妊婦への使用が禁止されているわけではありません。

授乳中の方は、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討します。母乳中への移行は不明とされています。

12歳未満の小児については、臨床試験が実施されていないため、安全性が確立していません。

いずれの場合も、該当する方は必ず医師に相談の上で使用を判断してください。


他のニキビ治療薬との比較

ニキビ治療には様々な外用薬があります。ここでは、代表的な薬との違いを解説します。

ディフェリンゲル(アダパレン)との比較

ディフェリンゲルは、レチノイド(ビタミンA誘導体)の一種であるアダパレンを主成分とするニキビ治療薬です。2008年に日本で承認されました。

作用機序の違いとして、ディフェリンゲルは主に毛穴の角化異常を抑制し、毛穴詰まりを改善します(角化細胞の分化抑制)。一方、ベピオゲルは抗菌作用と角層剥離作用の両方を持ちます。

効果を発揮するニキビの種類も異なります。ディフェリンゲルは主に白ニキビ(面皰)に効果があります。ベピオゲルは白ニキビと赤ニキビの両方に効果があります。ただし、白ニキビに対してはディフェリンゲルの方がより強力とされています。

妊娠中の使用については、ディフェリンゲルは催奇形性の可能性があるため妊婦は禁忌です。ベピオゲルは禁忌ではありませんが、医師への相談が必要です。

副作用の経過にも違いがあります。ディフェリンゲルは使い始めに赤みやガサガサなどの刺激症状が出ますが、多くの場合2週間程度で軽減します。ベピオゲルの刺激症状は、継続使用しても軽減しにくい場合があります(ただし、慣れにより軽減することも多い)。また、ベピオゲルではアレルギー性のかぶれが起こる可能性があります。

色素沈着への効果については、ディフェリンゲルはレチノイドのためニキビ跡の色素沈着にも効果が期待できます。ベピオゲルには色素沈着への効果はありません。

抗生物質外用薬との比較

ダラシンTゲル(クリンダマイシン)やアクアチムクリーム(ナジフロキサシン)、ゼビアックスローション(オゼノキサシン)などの抗生物質外用薬は、アクネ菌に対する抗菌作用によりニキビを治療します。

これらの抗生物質は「静菌的」に作用し、菌の増殖を抑えます。一方、ベピオゲルは「殺菌的」に作用し、直接菌を死滅させます。

最大の違いは耐性菌の問題です。抗生物質は長期間使用すると耐性菌が出現するリスクがあります。そのため、日本皮膚科学会のガイドラインでは、抗生物質外用薬の使用は原則3ヶ月までとされています。ベピオゲルは耐性菌ができにくいため、長期間の維持療法にも使用できます。

配合剤について

複数の成分を組み合わせた配合剤も使用されています。

デュアック配合ゲルは、クリンダマイシン1%と過酸化ベンゾイル3%を配合した薬です。抗生物質の抗菌作用と過酸化ベンゾイルの殺菌・角層剥離作用を併せ持ち、炎症性ニキビが多い方に処方されます。ただし、クリンダマイシンを含むため長期使用には注意が必要です。

エピデュオゲルは、アダパレン0.1%と過酸化ベンゾイル2.5%を配合した薬です。ディフェリンゲルとベピオゲルの成分を1つにまとめた配合剤で、中等度以上のニキビに対して処方されます。どちらの成分も角層に作用するため、刺激症状が出やすいという側面があります。

配合剤は便利ですが、最初から使用すると副作用の原因が特定しにくくなるため、通常はまずディフェリンゲルまたはベピオゲルの単剤から治療を開始し、状態に応じて切り替えることが多いです。


ベピオシリーズの種類と特徴

過酸化ベンゾイルを主成分とする「ベピオシリーズ」には、現在3つの剤形があります。

ベピオゲル2.5%

2015年に発売された最初の製剤です。白色透明のゲル状で、ヒヤッとした塗り心地が特徴です。有効成分濃度は2.5%で、15gチューブで提供されています。

ベピオローション2.5%

2023年5月に発売された新しい剤形です。白色の乳剤性ローション(乳液タイプ)で、ゲルに比べてしっとりとした使用感で、塗り広げやすいという特徴があります。

ベピオローションには、マルホ株式会社独自の「HARMOWELL Moisture Technology」という製剤化技術が用いられています。油分の配合を最適化することで、製剤が乾いた後も油分が皮膚表面に残り、水分の蒸発を防いで乾燥を軽減します。

臨床試験では、ゲル剤と比較して刺激症状の発現頻度が大幅に改善されました。ゲルでは37.3%だった副作用発現率が、ローションでは11.9%と約3分の1に減少しています。ゲルで赤みや乾燥が気になっていた方には、ローションタイプがおすすめです。

ベピオウォッシュゲル5%

2025年に承認された最新の製剤です。これは洗い流すタイプのニキビ治療薬という新しいコンセプトの薬です。

使用方法は、1日1回、洗顔後に顔全体に塗布し、5〜10分置いてから洗い流します。石鹸を使わなくても、流水で15秒洗うだけで落とすことができます。

ベピオウォッシュゲルの有効成分濃度は5%とゲルやローションの2倍ですが、洗い流すため肌への刺激は抑えられています。臨床試験では、5分間の塗布後に洗い流す方法でも、ベピオローションを23時間塗布したのとほぼ同等のピーリング作用が得られることが示されています。

また、洗い流すため漂白作用の心配がほとんどなく、衣類や寝具への付着を気にする必要がありません。さらに、従来のベピオシリーズが12歳以上を対象としていたのに対し、ベピオウォッシュゲルは9歳から使用可能となっています。


日本皮膚科学会ガイドラインにおける位置づけ

日本皮膚科学会は「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン」を策定し、エビデンス(科学的根拠)に基づいたニキビ治療の指針を示しています。このガイドラインは2016年、2017年、そして2023年に改訂されています。

推奨度について

ガイドラインでは、各治療法に対して推奨度が設定されています。推奨度Aは「強く推奨する」、Bは「推奨する」、Cは「選択肢の一つ」を意味します。

ベピオゲルの位置づけ

ガイドラインでは、過酸化ベンゾイル2.5%ゲル(ベピオゲル)について以下のように位置づけられています。

炎症性皮疹(赤ニキビ)に対しては推奨度Aで「軽症から中等症の炎症性皮疹に過酸化ベンゾイル2.5%ゲルを強く推奨する」とされています。

面皰(白ニキビ・黒ニキビ)に対しても推奨度Aで強く推奨されています。

維持療法(炎症軽快後の再発予防)においても推奨度Aで強く推奨されています。

このように、ベピオゲルはニキビ治療の急性期から維持期まで、すべての段階で最高ランクの推奨度を得ており、ニキビ治療の中心的な薬剤として位置づけられています。

治療アルゴリズム

ガイドラインでは、ニキビ治療を「急性炎症期」と「維持期」に分けて考えています。

急性炎症期(原則3ヶ月まで)では、軽度の炎症性皮疹・面皰に対して、デュアック配合ゲル、エピデュオゲル、ディフェリンゲル、ベピオゲルのいずれかを選択します。中等症以上では、これらの外用薬に内服抗菌薬を併用します。

維持期(炎症軽快後)では、抗菌薬の使用を中止し、ディフェリンゲル、ベピオゲル、エピデュオゲルのいずれかを継続して使用します。耐性菌の問題を避けるため、維持期には抗菌薬は使用しません。


維持療法としてのベピオゲル

ニキビ治療において、急性期の治療だけでなく「維持療法」が非常に重要です。

なぜ維持療法が必要なのか

ニキビは慢性的に繰り返す病気です。一度良くなっても、治療をやめるとまた新しいニキビができてしまうことが多いです。これは、目に見えない段階の「マイクロコメド」(微小面皰)が常に存在しており、これが新たなニキビの「種」となるためです。

維持療法を続けることで、このマイクロコメドの形成を抑制し、新しいニキビの発生を予防することができます。また、国内の研究では、維持療法を継続することでニキビ跡(瘢痕)の形成が軽減されることも示されています。

ベピオゲルが維持療法に適している理由

ベピオゲルが維持療法に適している理由として、まず耐性菌ができないことが挙げられます。抗生物質と異なり、長期間使用しても効果が落ちる心配がありません。また、予防効果があり、角層剥離作用により毛穴詰まりを継続的に予防できます。さらに、安全性が確立されており、海外での60年以上の使用実績があり、長期使用の安全性が確認されています。

維持療法の期間

維持療法をいつまで続けるかは、患者さんの状態によって異なります。ニキビができやすい年齢・時期が過ぎるまで継続することが理想的です。症状が安定していても、自己判断で中止せず、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。


よくある質問(Q&A)

ベピオゲルに関してよく寄せられる質問にお答えします。

Q. ベピオゲルは市販で買えますか?

A. いいえ、ベピオゲルは医療用医薬品のため、市販では購入できません。皮膚科などの医療機関を受診し、医師の診察を受けて処方してもらう必要があります。

Q. ベピオゲルは朝と夜、どちらに塗ればいいですか?

A. 夜(就寝前)に塗ることが推奨されています。紫外線に当たると乾燥や刺激感などの副作用が出やすくなるためです。朝は日焼け止めなどで紫外線対策を行ってください。

Q. ベピオゲルと化粧品は併用できますか?

A. はい、併用できます。洗顔後、化粧水や乳液で保湿してからベピオゲルを塗布してください。保湿剤を先に塗ることで刺激を軽減できます。朝のメイクは、夜にベピオゲルを使用していれば問題ありません。

Q. ベピオゲルを塗った後、ヒリヒリします。使い続けて大丈夫ですか?

A. 使い始めの刺激感は多くの方に起こる一般的な反応で、1ヶ月程度で軽減することが多いです。ただし、強い赤みや腫れ、かゆみが出た場合は、アレルギー性のかぶれの可能性がありますので、使用を中止して医師に相談してください。

Q. ベピオゲルは何ヶ月くらい使えばいいですか?

A. 効果を実感するまでに2〜3ヶ月程度かかることが多いです。効果が出た後も、再発予防(維持療法)として継続使用することが推奨されています。具体的な期間は医師と相談して決めてください。

Q. ベピオゲルでニキビ跡は治りますか?

A. ベピオゲルは主に「今あるニキビ」の治療と「新しいニキビの予防」に効果があります。すでにできてしまったニキビ跡(色素沈着や凹み)に対する直接的な効果は限定的です。ニキビ跡の治療については、別途医師に相談することをお勧めします。

Q. 妊娠中ですが、ベピオゲルは使えますか?

A. ベピオゲルは妊婦への使用が禁止されているわけではありませんが、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用」とされています。妊娠中または妊娠の可能性がある方は、必ず医師に相談してください。

Q. ベピオゲルとディフェリンゲル、どちらがいいですか?

A. どちらが良いかは、ニキビの状態や肌質によって異なります。白ニキビが主体ならディフェリンゲル、赤ニキビも多いならベピオゲルが適していることが多いです。また、妊娠中・妊娠予定の方はディフェリンゲルは使用できませんので、ベピオゲルが選択されます。医師と相談の上、最適な薬を選んでもらいましょう。


まとめ

ベピオゲルは、過酸化ベンゾイルを主成分とするニキビ治療薬で、抗菌作用と角層剥離作用(ピーリング作用)の2つの働きによって、幅広いタイプのニキビに効果を発揮します。

この記事の重要なポイントをまとめると、以下のようになります。

ベピオゲルは白ニキビから赤ニキビまで幅広く効果があり、日本皮膚科学会のガイドラインでも推奨度Aで強く推奨されています。最大の特徴は耐性菌ができにくいことで、長期間の維持療法にも安心して使用できます。

使用は1日1回、夜の洗顔後に、ニキビができやすい部位全体に塗布します。使い始めは赤みやヒリヒリ感などの副作用が出ることがありますが、保湿をしっかり行い、少量から始めることで軽減できます。

効果を実感するまでに2〜3ヶ月程度かかることがあるため、根気強く継続することが大切です。効果が出た後も、再発予防のために維持療法として継続することが推奨されています。

漂白作用があるため、衣類や髪への付着に注意が必要です。2023年には刺激が軽減されたローションタイプも発売され、より使いやすくなりました。

ニキビは適切な治療を行うことで改善が期待できます。ベピオゲルの使用を検討している方、すでに処方されている方で不安や疑問がある方は、ぜひ専門医にご相談ください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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