お子さんの肌に、光沢のある小さなブツブツを見つけて心配になった経験はありませんか。それは「水いぼ」かもしれません。水いぼは正式には「伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)」と呼ばれる、主に小児に多くみられるウイルス性の皮膚感染症です。
水いぼは基本的に健康に大きな害をもたらすものではなく、多くの場合は自然治癒します。しかし、お子さんが保育園や幼稚園、学校に通っている場合は「プールに入れるのか」「他の子にうつしてしまうのではないか」といった不安を抱える保護者の方も少なくありません。また、治療をすべきかどうか、医師によって見解が異なることもあり、戸惑いを感じることもあるでしょう。
本記事では、水いぼの原因、症状、感染経路から、各種治療法、日常生活での注意点、プールへの参加について、そして予防法まで、保護者の皆様が知っておきたい情報を詳しく解説いたします。

目次
- 水いぼ(伝染性軟属腫)とは
- 水いぼの原因
- 水いぼの症状と特徴
- 水いぼの感染経路
- 水いぼになりやすい人
- 水いぼの診断方法
- 水いぼの治療法
- 水いぼとプール
- 水いぼの予防法
- 保育園・幼稚園・学校での対応
- 水いぼと間違えやすい疾患
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
- 参考文献
1. 水いぼ(伝染性軟属腫)とは
水いぼは、伝染性軟属腫ウイルス(Molluscum contagiosum virus:MCV)が皮膚に感染することで発症するウイルス性の皮膚感染症です。このウイルスはポックスウイルス科に属しており、人にのみ感染するウイルスです。
「水いぼ」という名前は、発疹が水っぽい光沢を持ち、いぼ状に盛り上がっていることに由来しています。しかし、見た目は水が入っているように見えるものの、実際の中身は液体ではありません。内部には「モルスクム小体」と呼ばれる、ウイルスと変性した表皮組織からなる白っぽい塊が含まれています。
水いぼは主に乳幼児から小学校低学年の子どもに多くみられ、特に1歳から6歳くらいの年齢層に好発します。成人でも発症することがありますが、健康な成人では比較的まれです。成人で多発する場合は、免疫機能の低下が関係していることがあるため、医療機関での精査が必要になる場合もあります。
水いぼは基本的には良性の皮膚感染症であり、放置していても健康な子どもであれば数か月から数年で自然に治癒することがほとんどです。しかし、自然治癒までの期間には個人差が大きく、6か月程度で治る場合もあれば、2〜3年かかることもあります。その間に数が増えたり、他の子どもに感染したりする可能性があるため、治療を行うかどうかは、お子さんの状態や生活環境、保護者の希望などを総合的に考慮して判断することになります。
2. 水いぼの原因
水いぼの直接的な原因は、伝染性軟属腫ウイルス(MCV)の感染です。このウイルスは皮膚表面の小さな傷や毛穴から侵入し、皮膚の表皮細胞に感染して増殖します。
ウイルスが皮膚に侵入してから実際に水いぼとして症状が現れるまでには、14日から50日程度の潜伏期間があります。この潜伏期間の存在により、いつ、どこで感染したのかを特定することは難しい場合が多いです。
伝染性軟属腫ウイルスは健康な皮膚には感染しにくいとされています。感染が成立しやすいのは、以下のような皮膚のバリア機能が低下している状態です。
ひっかき傷や微細な傷がある状態、乾燥肌で皮膚表面が荒れている状態、湿疹があり皮膚が傷ついている状態、アトピー性皮膚炎などで慢性的にバリア機能が低下している状態などが挙げられます。
乳幼児は成人と比較して皮膚が薄く柔らかいため、バリア機能がまだ十分に発達していません。また、ウイルスに対する免疫も獲得していないことが多いため、感染しやすく、いったん感染すると広がりやすい傾向があります。
3. 水いぼの症状と特徴
水いぼには、他の皮膚疾患と区別できるいくつかの特徴的な外観があります。
まず、発疹の大きさは直径1〜5mm程度で、大きいものでも1cm程度です。多くは2〜3mm程度の小さなものから始まり、徐々に大きくなっていきます。
発疹の形状はドーム状に盛り上がっており、表面はツルツルとして光沢があります。この水っぽい光沢が「水いぼ」という名前の由来です。大きくなった水いぼでは、中央部分が少し凹んでいるのが特徴的で、これを「中央臍窩(ちゅうおうさいか)」といいます。
色は周囲の皮膚とほぼ同じ色(常色)か、やや白っぽい色、または淡いピンク色をしています。
水いぼの中には白くて柔らかい物質が入っています。これがモルスクム小体と呼ばれるもので、ウイルスの塊です。水いぼをつぶすとこの白い粒のような物質が出てきますが、これがほかの皮膚に付着すると新たな感染を引き起こします。
発疹が生じやすい部位は、体幹(胸、腹、背中)、わきの下、腕の内側、太ももの内側、外陰部周辺など、皮膚が柔らかく擦れやすい部分です。顔や首にできることもあります。ただし、手のひらと足の裏には毛穴がないため、これらの部位に水いぼができることはありません。
発疹の数は、数個程度の場合もあれば、数十個、ときには百個以上に増えてしまうこともあります。一般的には、1個できると周囲にも次々と広がっていく傾向があります。
症状について重要な点は、水いぼ自体は通常、痛みやかゆみを伴わないということです。しかし、水いぼの周囲に湿疹が生じて「水いぼ反応」と呼ばれる状態になると、かゆみが出てきます。このかゆみによって引っかいてしまうと、水いぼが潰れて周囲に広がったり、細菌感染を併発して「とびひ」(伝染性膿痂疹)になったりすることがあります。
また、水いぼが自然に治る過程で一時的に赤く腫れたり、炎症を起こしたりすることがあります。これは体の免疫がウイルスを排除しようとしているサインであり、水いぼがまもなく消えることを示している場合もあります。
4. 水いぼの感染経路
水いぼは感染力が比較的強い皮膚感染症です。主な感染経路は「接触感染」であり、以下のような状況で感染が成立します。
直接接触による感染は、水いぼができている皮膚に直接触れることで起こります。子ども同士の遊びやスキンシップ、兄弟姉妹での接触などが典型的な例です。また、自分自身の水いぼを触った手で体の別の部位を触ることで、自己接種による感染拡大も起こります。これが水いぼが次々と増えていく主な原因です。
間接接触による感染は、水いぼに触れた手で触った物を介して感染する場合です。タオル、衣類、寝具などを共用することで感染が広がることがあります。また、プールでの活動においては、ビート板や浮き輪などの遊具の共用によって感染する可能性が指摘されています。
ここで重要なのは、プールの水そのものでは水いぼは感染しないということです。プールの水は塩素で消毒されており、水を介した感染は考えられていません。感染が起こりやすいのは、プールサイドでの肌の接触や、タオル・遊具の共用によるものです。
また、水いぼを引っかいて潰してしまうと、中のウイルスの塊(モルスクム小体)が飛び散り、周囲の皮膚や他の人に感染を広げる原因となります。そのため、水いぼは触らない、引っかかないことが感染拡大を防ぐ基本となります。
5. 水いぼになりやすい人
水いぼは主に乳幼児から小学校低学年の子どもに多くみられますが、なりやすさには個人差があります。以下のような特徴を持つお子さんは、特に注意が必要です。
アトピー性皮膚炎のあるお子さんは、皮膚のバリア機能が低下しているため、水いぼに感染しやすい傾向があります。また、いったん感染すると全身に広がりやすく、治りにくいこともあります。湿疹のかゆみで引っかいてしまうことで、さらに広がってしまうケースも少なくありません。
乾燥肌のお子さんも同様です。皮膚が乾燥していると、表面に細かいひび割れができ、そこからウイルスが侵入しやすくなります。特に秋から冬にかけて乾燥が進む時期は注意が必要です。
湿疹やかぶれなど、皮膚トラブルを抱えているお子さんも感染リスクが高まります。皮膚が傷ついている部分はウイルスの侵入口になりやすいためです。
免疫機能が低下しているお子さんでは、水いぼが重症化したり、なかなか治らなかったりすることがあります。何らかの基礎疾患がある場合や、免疫抑制剤を使用している場合などは、主治医に相談することをお勧めします。
なお、健康な成人で水いぼを発症することはまれですが、成人でも乾燥肌や皮膚トラブルがある場合は感染することがあります。成人では性感染症として陰部周辺に発症するケースもあります。成人で多数の水いぼが認められる場合は、HIV感染などの免疫不全の可能性も考慮する必要があるため、医療機関を受診することが重要です。
6. 水いぼの診断方法
水いぼの診断は、通常は皮膚科医や小児科医による視診(目で見ての診断)で行われます。水いぼには前述のような特徴的な外観があるため、典型的な症例では診断は比較的容易です。
診断のポイントとなるのは、ドーム状に盛り上がった発疹、表面の光沢、中央部のくぼみ(中央臍窩)、周囲の皮膚とほぼ同色であることなどです。
ただし、以下のような場合は診断が難しくなることがあります。
アトピー性皮膚炎などで皮膚を引っかく習慣があるお子さんでは、水いぼが潰れて形が崩れていたり、周囲の湿疹と混在していたりして、典型的な外観を呈さないことがあります。
水いぼがまだ小さく、表面にはっきりと現れていない初期段階では、見逃されることもあります。
診断に迷う場合には、発疹の内容物を顕微鏡で観察することで、モルスクム小体の存在を確認し、確定診断を行うこともあります。
水いぼと似た外観を呈する他の皮膚疾患もあるため、自己判断せずに医療機関を受診して正確な診断を受けることが大切です。
7. 水いぼの治療法
水いぼの治療については、医師や医療機関によって方針が異なることがあります。これは、水いぼが自然治癒する疾患であることと、治療に伴う痛みや精神的負担をどう考えるかという点で、さまざまな考え方があるためです。
ここでは、現在行われている主な治療法について詳しく解説します。
7-1. 経過観察(自然治癒を待つ)
水いぼは健康な子どもであれば、6か月から3年程度で自然に治癒するとされています。そのため、積極的な治療を行わずに経過を観察するという方針も、一つの有効な選択肢です。
経過観察を選択するメリットとしては、治療に伴う痛みや精神的ストレスを避けられること、自然治癒すれば免疫が獲得されること、瘢痕(きずあと)が残るリスクがないことなどが挙げられます。
一方、デメリットとしては、治癒までの期間が予測できないこと、その間に水いぼが増えたり周囲に感染を広げたりする可能性があること、保育園や幼稚園でプールに入れないなど社会生活上の制限を受ける可能性があることなどがあります。
経過観察を選択する場合でも、皮膚の保湿ケアをしっかり行い、水いぼを引っかかないよう注意することが重要です。また、定期的に医療機関を受診し、状態を確認してもらうことをお勧めします。
7-2. ピンセットによる摘除
水いぼの治療法として最も一般的に行われているのが、専用のピンセット(トラコーマ摂子)を使って水いぼをつまみ取る方法です。ピンセットの先端は輪になっており、水いぼの基部を挟んで中のモルスクム小体を押し出すようにして取り除きます。
この方法のメリットは、直接ウイルスの塊を除去するため効果が確実であること、比較的短期間で治療が完了することです。
デメリットは、痛みを伴うことです。特に小さなお子さんにとっては、この痛みは我慢しにくいものです。また、少量の出血があること、押さえつけて処置を行うとトラウマになる可能性があることも考慮が必要です。
7-3. 麻酔テープ(ペンレステープ)を使用した摘除
ピンセットによる摘除の痛みを軽減するために、局所麻酔薬が含まれたテープ(ペンレステープ)を事前に貼ってから処置を行う方法があります。ペンレステープは2012年から水いぼ治療への保険適用が認められています。
使用方法は、処置の約1時間前に水いぼの部分にテープを貼っておき、麻酔が効いた状態でピンセットによる摘除を行います。これにより、多くのお子さんでは痛みをかなり軽減することができます。
ただし、ペンレステープにはいくつかの注意点があります。まず、安全性の観点から、小児では1回に使用できるテープの枚数に制限があります(通常は1回2枚まで)。そのため、水いぼの数が多い場合は、複数回に分けて治療を行う必要があります。
また、ペンレステープに含まれる麻酔薬(リドカイン)に対してアレルギー反応を示す方がまれにいます。過去に局所麻酔でアレルギー反応を起こしたことがある場合は、使用前に医師に伝えてください。
痛みは軽減されても、処置に対する恐怖心から抵抗するお子さんもいます。そのような場合は無理に処置を続けず、別の方法を検討することも大切です。
7-4. 液体窒素による冷凍凝固療法
液体窒素(マイナス196度)を使って水いぼを凍結させ、壊死させる方法です。液体窒素をスプレーや綿棒で水いぼに当て、組織を凍結させます。
この方法は、ピンセットによる摘除と比較すると、出血が少なく、処置後の傷が小さいというメリットがあります。ただし、痛みについてはピンセットと同程度か、それ以上に感じることもあります。また、複数回の治療が必要になることが多いです。
7-5. 外用薬による治療
水いぼに対して外用薬(塗り薬)を使用する方法もあります。
銀イオン配合クリームは、殺菌効果のある銀イオンを含んだクリームを1日2回水いぼに塗布する方法です。約2か月の使用で効果が認められるというデータがあり、痛みを伴わない治療法として注目されています。ただし、保険適用外のため自費診療となります。
サリチル酸やその他の角質溶解剤を含む外用薬が使用されることもありますが、効果には個人差があります。
なお、水いぼにステロイド外用薬を使用すると、免疫を抑制してウイルスの増殖を促し、症状が悪化する可能性があります。自己判断でステロイド外用薬を使用しないよう注意してください。
7-6. 内服薬による治療
漢方薬のヨクイニン(薏苡仁)が補助的に処方されることがあります。ヨクイニンはハトムギの種子から作られる生薬で、古くから肌荒れやいぼの治療に用いられてきました。免疫調整作用があるとされ、水いぼの自然治癒を促す効果が期待されています。
ただし、ヨクイニンの水いぼに対する効果について、明確なエビデンス(科学的根拠)は十分ではありません。また、小さなお子さんに長期間服用させることは負担になることもあります。効果が現れるまでに数か月かかることもあるため、即効性は期待できません。
その他、シメチジン(胃薬として使われる薬剤)が免疫調整作用を期待して処方されることがありますが、こちらも効果についての確実なエビデンスはありません。
7-7. 治療法の選択について
水いぼの治療法を選択する際には、以下の点を考慮することが大切です。
水いぼの数と分布(少数なら摘除が有効、多数なら経過観察や外用薬も検討)、お子さんの年齢と性格(痛みへの耐性、恐怖心の程度)、アトピー性皮膚炎など基礎疾患の有無、保育園・幼稚園・学校での対応(プールに入れるかどうかなど)、保護者とお子さん本人の希望などです。
これらを総合的に考慮し、医師とよく相談して最適な治療法を選択してください。
8. 水いぼとプール
水いぼがあるお子さんがプールに入れるかどうかは、保護者の方々にとって大きな関心事です。この点について、日本臨床皮膚科医会、日本小児皮膚科学会、日本皮膚科学会は2013年に統一見解を発表しています。
その統一見解の内容は「プールの水ではうつりませんので、プールに入っても構いません。ただし、タオル、浮輪、ビート板などを介してうつることがありますから、これらを共用することはできるだけ避けて下さい。プールの後はシャワーで肌をきれいに洗いましょう」というものです。
つまり、医学的な観点からは、水いぼがあってもプールへの参加を一律に禁止する必要はないとされています。プールの水は塩素で消毒されており、プールの水を介した感染は考えられていません。感染の主な経路は肌と肌の直接的な接触や、タオルなどの共用によるものです。
また、学校保健安全法においても、水いぼは出席停止やプール禁止の対象となる感染症には指定されていません。
しかし、実際には保育園、幼稚園、スイミングスクールなどの施設によって対応が異なることがあります。施設独自のルールで水いぼがあるとプールに入れないとされている場合もあります。
プールに参加する際の対応としては、水いぼがある部分をラッシュガードや防水絆創膏で覆うこと、タオルやビート板、浮き輪などを共用しないこと、プール後はシャワーで体をきれいに洗い、保湿ケアを行うことなどが推奨されています。
具体的な対応については、通っている施設に確認し、必要に応じて医師に相談することをお勧めします。
9. 水いぼの予防法
水いぼの予防で最も重要なのは、皮膚のバリア機能を正常に保つことです。以下の予防対策を日常的に行うことで、感染リスクを下げることができます。
保湿ケアの徹底が基本となります。入浴後や乾燥が気になるときに保湿剤を塗り、皮膚の乾燥を防ぎましょう。保湿によってバリア機能が保たれていれば、ウイルスに接触しても感染が成立しにくくなります。
プール後の保湿も重要です。プールの水に含まれる塩素は、皮膚表面の皮脂を取り除いてしまいます。プール後は一時的にバリア機能が低下した状態になるため、シャワーで体を洗った後に保湿剤を塗ることが大切です。
湿疹やアトピー性皮膚炎がある場合は、適切な治療を行うことも予防につながります。湿疹のある部分はバリア機能が低下しており、感染しやすい状態です。また、かゆみで引っかくことで傷ができ、さらに感染リスクが高まります。
感染者との接触に注意することも大切です。兄弟姉妹や身近な友達に水いぼがある場合は、入浴を別々にする、タオルを共用しない、直接肌と肌が触れ合う機会を減らすなどの対策を取りましょう。
爪を短く切っておくことも有効です。爪が長いと引っかいたときに皮膚を傷つけやすく、水いぼを潰してしまうリスクも高まります。
すでに水いぼに感染している場合は、自分の体の他の部位や他の人への感染拡大を防ぐために、水いぼを触らない・引っかかないことが重要です。
10. 保育園・幼稚園・学校での対応
水いぼは学校保健安全法で定められた「学校において予防すべき感染症」には含まれていません。そのため、水いぼを理由に登園・登校を停止する法的な根拠はありません。
日本臨床皮膚科医会、日本小児皮膚科学会、日本皮膚科学会、日本小児感染症学会の4学会は2010年に統一見解を発表し、「この疾患のために、学校を休む必要はありません」と明記しています。
しかし、実際の対応は施設によって異なることがあります。特にプールへの参加については、施設独自のルールが設けられていることが少なくありません。
保護者の方へのアドバイスとしては、水いぼと診断されたら、まず通っている保育園・幼稚園・学校に確認し、その施設の対応方針を把握することが大切です。施設側から治療を求められた場合は、医師に相談して適切な対応を決めましょう。
施設への説明が必要な場合は、前述の学会統一見解を参考にすることができます。プールの水では感染しないこと、タオルなどの共用を避ければ感染リスクを下げられることなどを伝えるとよいでしょう。
11. 水いぼと間違えやすい疾患
水いぼと似た外観を呈する皮膚疾患がいくつかあります。正確な診断と適切な治療のために、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)は、一般的に「いぼ」と呼ばれるもので、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって生じます。水いぼとは異なるウイルスが原因です。尋常性疣贅は表面がザラザラしており、水いぼのような光沢や中央のくぼみはありません。
稗粒腫(はいりゅうしゅ・ひりゅうしゅ)は、皮膚の表面に小さな白い粒ができるもので、ウイルス感染ではなく、毛穴に角質が詰まって生じます。主に目の周りにできることが多いです。
汗疹(あせも)は、汗腺が詰まって生じる発疹で、夏場に多くみられます。水いぼとは異なり、かゆみを伴うことが多く、涼しくすると改善します。
毛孔性角化症(もうこうせいかくかしょう)は、毛穴に角質が詰まって小さなブツブツができる状態で、特に二の腕や太ももに多くみられます。ウイルス感染ではありません。
これらの疾患は治療法が異なるため、正確な診断を受けることが重要です。

12. よくある質問(Q&A)
健康な成人は水いぼに対する免疫を持っていることが多く、感染することはまれです。ただし、アトピー性皮膚炎がある方や、乾燥肌の方、免疫力が低下している方は感染する可能性があります。お子さんの水いぼのお世話をする際も、過度に心配する必要はありませんが、手洗いを心がけるとよいでしょう。
水いぼが治ると、ウイルスに対する免疫が獲得されます。そのため、同じウイルスへの再感染は起こりにくくなります。ただし、伝染性軟属腫ウイルスには複数の型があるため、異なる型のウイルスに感染する可能性はあります。また、治療後に見えていなかった潜伏期の水いぼが新たに現れることもあります。
Q3. 水いぼの治療は何歳から受けられますか?
年齢による制限は特にありません。ただし、治療法によってはお子さんの協力が必要なため、年齢や性格に応じて適切な方法を選択します。麻酔テープを使用したピンセットでの摘除は、ある程度じっとしていられるお子さんに適しています。
Q4. 水いぼを自分で取っても大丈夫ですか?
家庭で水いぼを取ることはお勧めしません。市販のピンセットでは適切に処置できず、お子さんに強い痛みを与えてしまうことがあります。また、不衛生な状態で処置を行うと、細菌感染を起こすリスクもあります。水いぼの除去は医療機関で適切な器具と技術をもって行うべきです。
Q5. 水いぼがあるときにステロイド軟膏を塗っても大丈夫ですか?
水いぼの部分にステロイド軟膏を塗ると、局所の免疫が抑制されてウイルスが増殖し、水いぼが悪化する可能性があります。アトピー性皮膚炎などでステロイド軟膏を使用している場合は、水いぼの部分を避けて塗るようにしましょう。詳しくは医師に相談してください。
Q6. 兄弟で一緒にお風呂に入っても大丈夫ですか?
水いぼがあるお子さんと兄弟が一緒にお風呂に入ると、肌と肌の接触やタオルの共用によって感染する可能性があります。できれば入浴は別々にするか、同時に入る場合はタオルを共用しない、直接肌が触れ合わないようにするなどの注意が必要です。
Q7. 水いぼはどのくらいで治りますか?
個人差が大きいですが、治療を行わない場合、健康な子どもでは6か月から3年程度で自然治癒するとされています。ピンセットでの摘除など積極的な治療を行った場合は、潜伏期の水いぼが出てくることを考慮しても、数週間から数か月で治療が完了することが多いです。ただし、アトピー性皮膚炎があるお子さんでは、治療に時間がかかることがあります。
Q8. 水いぼの治療は痛いですか?
ピンセットでの摘除は痛みを伴います。ただし、麻酔テープを事前に貼っておくことで、痛みを大幅に軽減することができます。痛みの感じ方には個人差がありますが、麻酔テープを使用すれば、多くのお子さんがあまり痛みを感じずに処置を受けられます。
13. まとめ
水いぼ(伝染性軟属腫)は、伝染性軟属腫ウイルスによる皮膚感染症で、主に乳幼児から小学校低学年のお子さんに多くみられます。
水いぼの特徴は、1〜5mm程度のドーム状で光沢のある発疹、中央部のくぼみ、周囲の皮膚と同色または白っぽい色などです。通常は痛みやかゆみはありませんが、周囲に湿疹が生じるとかゆみが出ることがあります。
感染経路は主に肌と肌の接触やタオルなどの共用による接触感染です。プールの水では感染しません。
治療法には、経過観察(自然治癒を待つ)、ピンセットによる摘除、麻酔テープを使用した摘除、液体窒素による冷凍凝固療法、外用薬、内服薬などがあります。どの治療法を選択するかは、水いぼの状態、お子さんの年齢や性格、ご家族の希望などを考慮して決定します。
予防の基本は、保湿ケアによって皮膚のバリア機能を正常に保つことです。また、感染者とのタオルの共用を避けることや、水いぼを引っかかないようにすることも大切です。
水いぼは登園・登校を停止する必要のある感染症ではありません。プールへの参加についても、医学的には禁止する必要はないとされていますが、施設によって対応が異なる場合があります。
参考文献
- 日本小児皮膚科学会「みずいぼ」
- 日本皮膚科学会「皮膚の学校感染症とプールに関する統一見解」
- こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)」
- 日本小児科学会「学校、幼稚園、認定こども園、保育所において予防すべき感染症の解説」
- 田辺三菱製薬「ヒフノコトサイト:水いぼ」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務