酒さ様皮膚炎とは?原因・症状・治療法を皮膚科医が徹底解説

「長年使っていた顔の塗り薬をやめたら、急に赤みやブツブツが出てきた」「顔の赤みがなかなか引かず、ほてった感じが続いている」「皮膚が敏感になって、いつもの化粧品がしみる」——このような症状でお悩みではありませんか?

これらの症状は、酒さ様皮膚炎(しゅさようひふえん)のサインかもしれません。酒さ様皮膚炎は、主にステロイド外用薬を顔に長期間使用することで発症する皮膚トラブルです。見た目が「酒さ」という疾患に似ていることからこの名前がつきましたが、原因が明確であるため、適切な治療を行えば改善が期待できる疾患として位置づけられています。

本記事では、酒さ様皮膚炎について、その定義から症状、原因、診断方法、治療法、そして日常生活での注意点まで、皮膚科医の視点から詳しく解説します。顔の赤みやブツブツでお悩みの方、ステロイド薬を長期使用されている方は、ぜひ参考にしてください。


目次

  1. 酒さ様皮膚炎とは
  2. 酒さ様皮膚炎の主な症状
  3. 酒さ様皮膚炎の原因
  4. 酒さ様皮膚炎と酒さの違い
  5. 酒さ様皮膚炎の診断方法
  6. 酒さ様皮膚炎の治療法
  7. リバウンド現象について
  8. 日常生活での注意点とスキンケア
  9. 酒さ様皮膚炎の予防
  10. まとめ

1. 酒さ様皮膚炎とは

酒さ様皮膚炎は、顔面にステロイド外用薬を長期間使用することによって生じる皮膚炎の一種です。英語では「Steroid-induced rosacea(ステロイド誘発性酒さ)」や「Perioral dermatitis(口囲皮膚炎)」と呼ばれています。文字通り「酒さに似た皮膚炎」という意味で、酒さ(しゅさ)という疾患と症状が類似していることからこの名前がつけられました。

この疾患は、主に顔面、特に口の周りや鼻の周辺、頬、額などに発症します。赤みや小さな丘疹(ブツブツ)、時には膿疱(膿を持った発疹)などの症状が現れ、ほてりや灼熱感を伴うことが特徴です。

酒さ様皮膚炎は、原因がステロイド外用薬の長期使用と明確であるため、原因不明の慢性炎症疾患である酒さとは区別されます。適切な治療を行うことで改善が見込める疾患ですが、治療には時間がかかることが多く、根気強く取り組む必要があります。

日本皮膚科学会が2023年に発表した「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン」においても、酒さ様皮膚炎は酒さの類縁疾患として取り上げられており、その診断と治療についての指針が示されています。

2. 酒さ様皮膚炎の主な症状

酒さ様皮膚炎では、ステロイド外用薬を塗っていた部位を中心に、さまざまな症状が現れます。代表的な症状を詳しく見ていきましょう。

顔面の持続的な赤み(紅斑)

酒さ様皮膚炎で最も特徴的な症状の一つが、顔面の持続的な赤みです。ステロイド外用薬を塗布していた部位に一致して赤みが現れ、時に熱感を伴います。赤みは頬や鼻を中心に広がることが多く、左右対称に現れる傾向があります。

丘疹・膿疱(ブツブツ)

ニキビに似た赤い盛り上がり(丘疹)や、膿を持ったブツブツ(膿疱)が発生します。これらは通常のニキビとは異なり、毛穴の詰まり(面皰・コメド)を伴わないことが特徴です。ニキビ治療薬を使用しても改善しにくいため、自己判断での治療は症状を悪化させる可能性があります。

ほてり・灼熱感

顔がほてったり、ヒリヒリとした灼熱感を感じることがあります。特に温度変化や刺激物に触れた際に症状が強くなることがあり、日常生活に支障をきたすこともあります。

皮膚の乾燥・落屑

皮膚が乾燥し、表面がカサカサになったり、細かい皮がむける(落屑)ことがあります。これはステロイドの長期使用によって皮膚のバリア機能が低下したことが原因です。

毛細血管拡張

皮膚の表面に細かい血管が浮き出て見えることがあります。ステロイドの長期使用により皮膚が薄くなり(菲薄化)、その下の毛細血管が透けて見えるようになるためです。

皮膚の敏感化

皮膚が非常に敏感になり、今まで問題なく使用していた化粧品や洗顔料でも、ピリピリとした刺激を感じるようになることがあります。

症状が現れやすい部位

酒さ様皮膚炎の症状は、主に以下の部位に現れやすい傾向があります。

  • 鼻とその周辺
  • 口の周り

特に口の周りに集中して症状が出る場合は「口囲皮膚炎(こういひふえん)」と呼ばれることもあります。目の周りに症状が出る場合もあり、これを「眼囲皮膚炎」と呼ぶことがあります。

3. 酒さ様皮膚炎の原因

酒さ様皮膚炎の主な原因は、ステロイド外用薬の不適切な長期使用です。しかし、発症のメカニズムは単純ではなく、複数の要因が複雑に絡み合っています。

ステロイド外用薬の長期使用

酒さ様皮膚炎の最も重要な原因は、ステロイド外用薬の顔面への長期使用です。もともとは湿疹やアトピー性皮膚炎などの治療目的で処方されたステロイド軟膏を、医師の指示期間を超えて、あるいは自己判断で顔に塗り続けることで発症リスクが高まります。

ステロイドは脂溶性の薬剤であるため、皮脂腺が多い顔面では吸収率が特に高くなります。体に使用するランクの強いステロイドを顔に塗布し続けると、副作用が出やすくなります。

ステロイドによる皮膚への影響

長期間のステロイド使用は、皮膚に以下のような変化をもたらします。

まず、皮膚の細胞増殖が抑制されることで、皮膚が薄くなります(菲薄化)。これにより皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に対して敏感になります。

次に、毛細血管が拡張しやすくなります。ステロイドには血管を収縮させる作用がありますが、長期使用によりこの作用に対する耐性ができ、逆に血管が拡張したままになってしまいます。

また、皮膚の免疫機能にも影響を与え、皮膚常在菌のバランスが崩れやすくなります。

タクロリムス軟膏・デルゴシチニブ軟膏の関与

ステロイド外用薬だけでなく、タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック軟膏)やデルゴシチニブ軟膏(商品名:コレクチム軟膏)といった免疫抑制外用薬の長期使用でも、同様の症状が現れることがあります。これらの薬剤はステロイドほどではありませんが、長期連用により酒さ様皮膚炎を誘発する可能性が報告されています。

ニキビダニ(デモデックス)の増殖

ステロイドやタクロリムスの外用薬を長期使用すると、皮膚の免疫機能が低下し、ニキビダニ(毛包虫、学名:Demodex)が異常増殖することがあります。

ニキビダニは人間の皮膚に常在する微小なダニで、通常は毛穴や皮脂腺に生息し、皮脂や老廃物を分解して皮膚環境のバランスを保つ役割を果たしています。しかし、過剰に増殖すると皮膚のバリア機能を破壊し、炎症や刺激を引き起こして酒さ様皮膚炎の症状を悪化させる原因となります。

皮膚常在菌の変化

ステロイドの長期使用により局所の免疫が低下すると、皮膚常在菌のバランスが崩れ、特定の細菌が増殖しやすくなります。これが炎症を引き起こす要因の一つと考えられています。

自然免疫系の活性化

遺伝的な体質により、TLR2(Toll様受容体2)などの自然免疫系が活性化されやすい人がいます。これにより炎症反応や血管新生が促進され、赤みやほてりなどの症状が出やすくなると考えられています。この機序は酒さと共通しており、酒さ様皮膚炎と酒さは一部同じスペクトラム(連続体)にあると考える専門家もいます。

体質的要因

酒さ様皮膚炎を発症する人の多くは、もともと酒さになりやすい体質を持っているとも言われています。ステロイドの長期使用をしたすべての人が発症するわけではなく、体質的な要因も関係していると考えられています。

4. 酒さ様皮膚炎と酒さの違い

酒さ様皮膚炎と酒さは、症状が非常によく似ているため混同されやすいですが、実は異なる疾患です。両者の違いを正しく理解することは、適切な治療を受けるために重要です。

原因の違い

酒さ様皮膚炎と酒さの最大の違いは、原因が明確かどうかにあります。

酒さ様皮膚炎は、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの長期使用という明確な原因があります。薬剤使用歴を確認することで、ある程度の診断が可能です。

一方、酒さは原因不明の慢性炎症性皮膚疾患です。遺伝的な素因を背景に、紫外線、寒暖差、心理的ストレス、アルコール、香辛料などのさまざまな外的要因が関与すると考えられていますが、明確な原因は特定されていません。

好発年齢・性別

酒さは主に30代から50代の中年期に発症することが多く、特に女性に多い傾向があります。また、白色人種に多く、アジア人では比較的少ないとされてきましたが、近年は日本でも増加傾向にあります。

酒さ様皮膚炎は、ステロイド外用薬を使用している人であれば年齢を問わず発症する可能性がありますが、アトピー性皮膚炎などでステロイドを長期使用している成人女性に多い傾向があります。また、小児でも発症することがあります。

症状の分布

酒さは、主に頬や鼻を中心とした顔面中央部に症状が現れます。典型的には左右対称の赤みや丘疹・膿疱が見られます。

酒さ様皮膚炎は、ステロイド外用薬を塗布していた部位に一致して症状が現れます。特に口の周りや目の周りに症状が集中することが多いのが特徴です。日本皮膚科学会の専門家の見解では、口や目の周りに症状が出ているものを「狭義の酒さ様皮膚炎」として分類すべきとされています。

治療アプローチ

酒さは慢性疾患であり、完治が難しく、長期的な管理が必要です。悪化因子を避けながら、症状のコントロールを目指します。

酒さ様皮膚炎は、原因となるステロイド外用薬を中止し、適切な治療を行うことで改善が期待できます。ただし、ステロイド中止後のリバウンド現象を乗り越える必要があり、完治までには相応の時間がかかります。

臨床所見での見分け方

専門医は、以下のようなポイントで両者を鑑別します。

  • 薬剤使用歴の有無(特にステロイド外用薬)
  • 症状の分布パターン(口囲・眼囲に限局するか、顔面中央部全体か)
  • 症状の経過(薬剤使用との時間的関連)
  • 皮膚の状態(菲薄化や毛細血管拡張の程度)

ただし、両者が混在している場合や、もともと酒さの素因がある人がステロイドで悪化している場合もあり、診断が難しいケースも少なくありません。

5. 酒さ様皮膚炎の診断方法

酒さ様皮膚炎の診断は、主に臨床症状と問診によって行われます。確定診断のための特別な検査はありませんが、類似疾患との鑑別のために各種検査が行われることがあります。

問診

診断において最も重要なのは、詳細な問診です。以下の項目について確認します。

  • ステロイド外用薬の使用歴(種類、強さ、使用期間、使用部位)
  • タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏の使用歴
  • 症状の発症時期と経過
  • 使用していた化粧品やスキンケア製品
  • 生活習慣(食事、睡眠、ストレスなど)
  • アレルギー歴や他の皮膚疾患の既往

ステロイド外用薬を「いつから」「どのくらいの期間」「どの部位に」「どの程度の強さのものを」使用していたかを詳しく聞き取ることで、酒さ様皮膚炎の可能性を判断します。

視診・触診

皮膚科専門医が患部を詳しく観察し、以下の点を確認します。

  • 赤みの分布と程度
  • 丘疹・膿疱の有無と分布
  • 毛細血管拡張の有無
  • 皮膚の厚さ(菲薄化の程度)
  • 面皰(コメド)の有無(ニキビとの鑑別に重要)

ニキビダニ検査

酒さ様皮膚炎の症状の一因としてニキビダニ(デモデックス)の異常増殖が疑われる場合、顕微鏡検査を行うことがあります。皮膚表面から皮脂を採取し、顕微鏡でニキビダニの数を確認します。この検査は皮膚科で簡単に行うことができ、その場で結果がわかります。

ニキビダニが多数検出された場合は、抗寄生虫作用のある薬剤が特に有効である可能性が高くなります。

除外診断

酒さ様皮膚炎と似た症状を呈する他の疾患を除外することも重要です。鑑別すべき疾患には以下のものがあります。

  • 酒さ
  • 脂漏性皮膚炎
  • アトピー性皮膚炎
  • 接触皮膚炎(かぶれ)
  • 尋常性ざ瘡(ニキビ)
  • 毛包虫性ざ瘡

パッチテスト

接触皮膚炎(アレルギー性のかぶれ)が疑われる場合、パッチテストを行うことがあります。化粧品や金属などに対するアレルギー反応の有無を確認します。

皮膚生検

診断が困難な場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合は、皮膚の一部を採取して顕微鏡で組織を観察する皮膚生検が行われることがあります。ただし、酒さ様皮膚炎の診断のために皮膚生検が必要になるケースは多くありません。

血液検査

アレルギーの関与が疑われる場合や、全身状態の評価が必要な場合に血液検査を行うことがあります。

6. 酒さ様皮膚炎の治療法

酒さ様皮膚炎の治療は、原因となるステロイド外用薬を中止することが基本です。しかし、単に薬をやめるだけでなく、症状に応じた適切な治療を組み合わせることが重要です。

原因薬剤の中止

治療の第一歩は、原因となっているステロイド外用薬の使用を中止することです。ただし、急に中止するとリバウンド現象が強く出る可能性があるため、症状や使用期間に応じて、徐々に減量していく方法(漸減法)をとることもあります。

ステロイドの中止方法については、必ず皮膚科専門医と相談のうえで進めてください。自己判断での急な中止は、症状の急激な悪化を招く恐れがあります。

外用薬による治療

メトロニダゾールゲル(ロゼックスゲル)

メトロニダゾールは、2022年5月に酒さに対する効能・効果が追加承認され、日本で保険適用となった外用薬です。欧米では長年、酒さ治療の標準薬として使用されてきた歴史のある薬剤です。

メトロニダゾールには、活性酸素種の生成を抑制する抗炎症作用、免疫細胞の働きを抑える免疫抑制作用、そしてニキビダニや細菌に対する抗菌作用があります。これらの作用により、酒さ様皮膚炎の赤みや丘疹・膿疱の改善が期待できます。

使用方法は1日2回、洗顔後に患部に塗布します。効果が現れるまでに2週間から4週間程度かかることが多く、通常12週間を目安に使用します。副作用は比較的少なく、安全性の高い薬剤として知られています。

その他の外用薬

メトロニダゾール以外にも、状況に応じて以下の外用薬が使用されることがあります。

  • アゼライン酸含有製品:抗炎症作用と抗菌作用を持ち、酒さの補助的治療として使用されます
  • 抗菌外用薬:細菌感染が関与している場合に使用されます
  • 低刺激性の保湿剤:皮膚バリア機能の回復を助けます

内服薬による治療

抗生物質(テトラサイクリン系)

ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生物質が使用されることがあります。これらの薬剤は抗菌作用だけでなく、抗炎症作用も持っており、丘疹・膿疱の改善に効果があります。

日本皮膚科学会のガイドラインでは推奨度は高くないものの、実際の臨床では効果を示すケースが多く報告されています。

漢方薬

体質や症状に応じて、漢方薬が処方されることもあります。漢方治療は西洋医学的治療と併用されることが多く、体質改善を目的として使用されます。

イベルメクチン

ニキビダニの関与が強く疑われる場合、抗寄生虫薬であるイベルメクチンの内服が検討されることがあります。ただし、酒さに対するイベルメクチン内服は保険適用外となります。

自費診療で行われる治療

保険診療で十分な効果が得られない場合、以下のような自費診療による治療が選択肢となることがあります。

イベルメクチンクリーム

ニキビダニの増殖を抑え、炎症を軽減する効果が期待できます。1日1回、患部に塗布します。

レーザー治療・光治療

毛細血管拡張による赤みに対して、色素レーザーやIPL(Intense Pulsed Light)などの光治療が有効な場合があります。これらの治療は、拡張した血管を選択的に処理することで、赤みの改善を図ります。

治療の経過と期間

酒さ様皮膚炎の治療には時間がかかります。一般的に、ステロイド外用薬を使用していた期間の2倍以上の時間が必要とされています。例えば、2年間ステロイドを使用していた場合、完全な回復には4年以上かかる可能性があります。

治療開始後の経過は、おおよそ以下のようになります。

初期(ステロイド中止直後)は、リバウンド現象により一時的に症状が悪化することがあります。この時期は数週間から数か月続くことがあり、患者さんにとって最もつらい時期となります。

中期(数か月後)になると、徐々に症状が安定し始めます。丘疹や膿疱は比較的早く改善する傾向がありますが、赤みの改善には時間がかかります。

後期(半年以降)では、皮膚のバリア機能が回復し、赤みも徐々に軽減していきます。毛細血管拡張は完全には消えないこともありますが、全体的な症状の改善が実感できるようになります。

治療中は定期的に皮膚科を受診し、症状の変化に応じて治療内容を調整していくことが大切です。

7. リバウンド現象について

酒さ様皮膚炎の治療において、最も注意が必要なのがリバウンド現象です。適切に対処することで乗り越えられますが、事前に理解しておくことが重要です。

リバウンド現象とは

リバウンド現象とは、ステロイド外用薬を中止した後に、一時的に症状が急激に悪化する現象です。これは治療がうまくいっていないわけではなく、むしろステロイド依存状態から脱却するために必要な過程です。

長期間ステロイドで抑えられていた炎症反応が、薬の中止により一気に表面化するために起こります。また、ステロイドによって血管収縮作用に依存していた状態から解放されることで、血管が拡張し、赤みが強くなります。

リバウンド現象の症状

リバウンド現象では、以下のような症状が見られます。

  • 顔全体の強い赤み
  • 顔のむくみ(浮腫)
  • 強いほてりや灼熱感
  • 丘疹・膿疱の増加
  • 皮膚の乾燥と落屑(皮がむける)
  • かゆみ
  • 皮膚のピリピリとした痛み

これらの症状は、ステロイド中止後3日目頃から現れ始めることが多いです。

リバウンド現象の期間

リバウンド現象の持続期間は個人差がありますが、一般的に数週間から数か月続くことがあります。ステロイドの使用期間が長かったり、強いランクのステロイドを使用していた場合は、リバウンドが強く出る傾向があります。

また、ステロイドを中止してしばらく時間が経ってから、遅れてリバウンドが起きることもあります。

リバウンド現象への対処法

リバウンド現象を乗り越えるためには、以下のポイントが重要です。

まず、自己判断でステロイドを再開しないことです。症状が辛いからといってステロイドを塗り直すと、一時的に症状は改善しますが、根本的な解決にはならず、むしろステロイド依存を深めることになります。

次に、皮膚科医と密に連携することです。症状の変化を定期的に報告し、必要に応じて対症療法を受けましょう。

また、皮膚を冷やすことで、ほてりや灼熱感を和らげることができます。ただし、氷を直接当てるなど、極端な冷却は避けてください。

さらに、刺激を避けることも大切です。この時期は皮膚が非常に敏感になっているため、化粧品やスキンケア製品の使用を最小限にし、低刺激性のものを選びましょう。

心理的サポートの重要性

リバウンド期間中は、外見の変化により精神的にも大きなストレスを感じることがあります。治療には時間がかかること、リバウンドは回復過程の一部であることを理解し、焦らずに治療を続けることが大切です。

家族や周囲の理解とサポートも重要です。必要に応じて、医師に精神的なサポートについても相談しましょう。

8. 日常生活での注意点とスキンケア

酒さ様皮膚炎の治療効果を高め、再発を防ぐためには、日常生活での適切なケアが欠かせません。

悪化因子を避ける

酒さ様皮膚炎の症状を悪化させる要因を特定し、できるだけ避けることが重要です。

紫外線は皮膚の炎症を悪化させる大きな要因です。外出時は日焼け止めを使用し、帽子や日傘で物理的に紫外線を避けましょう。日焼け止めは低刺激性で、SPF30以上のものを選ぶとよいでしょう。

急激な温度変化も症状を悪化させます。暖房や冷房が効きすぎた環境、熱い飲み物、サウナや長風呂などは避けるようにしましょう。

アルコールや香辛料などの刺激物も悪化因子となることがあります。症状が落ち着くまでは、これらの摂取を控えることをおすすめします。

ストレスも酒さ様皮膚炎の悪化に関係しています。十分な睡眠をとり、自分なりのストレス解消法を見つけて、心身のバランスを保つことが大切です。

スキンケアの基本

酒さ様皮膚炎の方のスキンケアは、「シンプル」がキーワードです。過度なスキンケアは逆効果になることがあります。

洗顔は低刺激性の洗顔料を使用し、ぬるま湯でやさしく洗いましょう。ゴシゴシこすると摩擦で症状が悪化するため、泡で包み込むように洗い、すすぎは丁寧に行います。洗顔後は清潔なタオルで押さえるように水分を拭き取ります。

保湿については、医師によって意見が分かれるところです。過剰な保湿がかえって症状を悪化させることもあるため、必要に応じて低刺激性の保湿剤を最小限に使用するか、一時的に保湿を控える「肌断食」が有効な場合もあります。自分に合った方法を皮膚科医と相談しながら見つけていきましょう。

なお、ヘパリン類似物質(ヒルドイドなど)は血流を促進する作用があるため、酒さ様皮膚炎には適さない場合があります。保湿剤の選択も医師に相談することをおすすめします。

化粧品の選び方

化粧品は低刺激性のものを選び、アルコール、香料、着色料などの刺激成分が含まれていないものを使用しましょう。新しい化粧品を使う際は、まず腕の内側などでパッチテストを行い、問題がないことを確認してから顔に使用してください。

メイクをする場合は、クレンジングで摩擦を加えないよう注意が必要です。拭き取りタイプではなく、洗い流しタイプのクレンジングを使用し、短時間でメイクを落とすようにしましょう。ファンデーションはパウダータイプのものが比較的刺激が少ないとされています。

症状が強い時期は、患部への化粧を控えることも検討してください。

食生活の注意点

バランスのとれた食事を心がけ、皮膚の健康維持に必要なビタミンやミネラルを十分に摂取しましょう。

特に、血糖値を急激に上げるような食事(グリセミック・インデックスが高い食品)は皮脂分泌を活発にし、ニキビダニが繁殖しやすい環境を作るとされています。揚げ物や加工食品、甘いお菓子の過剰摂取は避けましょう。

一方、オメガ3脂肪酸を含む青魚やビタミンCが豊富な野菜・果物は、抗炎症作用が期待できます。

睡眠とストレス管理

十分な睡眠をとることは、皮膚の回復にとって非常に重要です。睡眠不足はホルモンバランスの乱れを引き起こし、皮膚の状態を悪化させる可能性があります。

また、ストレスは酒さ様皮膚炎の悪化因子の一つです。適度な運動やリラクゼーション法を取り入れ、ストレスをためないよう心がけましょう。ただし、激しい運動は体温上昇により症状が悪化することがあるため、軽めの運動にとどめましょう。

長時間のマスク着用

近年、長時間のマスク着用が酒さや酒さ様皮膚炎の悪化因子として報告されています。マスク内の蒸れや摩擦が皮膚に刺激を与えるためです。可能であれば、適度にマスクを外す時間を設けたり、肌に優しい素材のマスクを選んだりする工夫をしましょう。

9. 酒さ様皮膚炎の予防

酒さ様皮膚炎は、ステロイド外用薬の適正使用により、多くの場合予防することができます。

ステロイド外用薬の正しい使用

ステロイド外用薬は、皮膚疾患の治療において非常に有効な薬剤です。適切に使用すれば、副作用を心配する必要はほとんどありません。しかし、誤った使い方を続けると、酒さ様皮膚炎をはじめとするさまざまな副作用を引き起こす可能性があります。

以下の点に注意してステロイド外用薬を使用しましょう。

まず、医師の指示を守ることです。処方された期間と量を守り、自己判断で使用を継続しないでください。症状がよくなったら、医師と相談のうえで使用を終了しましょう。

次に、顔への使用は特に注意が必要です。顔は皮膚が薄くステロイドの吸収率が高いため、体用に処方されたステロイドを顔に塗ることは避けてください。顔用には、顔用として処方された弱めのステロイドを使用しましょう。

また、スキンケア目的での使用は厳禁です。ステロイド外用薬は治療薬であり、美容目的や予防目的で使用するものではありません。症状のない健康な皮膚に塗ることは避けてください。

そして、定期的な受診を心がけましょう。皮膚の状態は変化するため、定期的に皮膚科を受診し、適切な治療を受けることが大切です。長期間の再診なしでの使用は避けてください。

市販薬の使用にも注意

市販のステロイド配合クリームを自己判断で顔に長期使用することも、酒さ様皮膚炎の原因となりえます。市販薬であっても、ステロイドが含まれている場合は長期使用を避け、症状が続く場合は皮膚科を受診しましょう。

早期発見・早期治療

顔に赤みやブツブツが出てきた場合、自己判断でステロイドを塗り続けるのではなく、早めに皮膚科を受診することが大切です。酒さ様皮膚炎は早期に適切な治療を開始することで、より早い回復が期待できます。

10. まとめ

酒さ様皮膚炎は、主にステロイド外用薬の顔面への長期使用によって引き起こされる皮膚トラブルです。顔の赤み、丘疹・膿疱、ほてりなどの症状が特徴で、見た目が酒さに似ていることからこの名前がついています。

原因が明確な疾患であるため、原因となる薬剤を中止し、適切な治療を行うことで改善が期待できます。しかし、治療には時間がかかり、特にステロイド中止後のリバウンド現象は患者さんにとって大きな負担となります。

治療を成功させるためには、専門医の指導のもと、根気強く治療を続けることが重要です。日常生活では、悪化因子を避け、適切なスキンケアを行いながら、皮膚の回復を待ちましょう。

顔の赤みやブツブツでお悩みの方、ステロイド外用薬を長期使用している方は、一度専門医にご相談ください。自己判断での治療は症状を悪化させる可能性があります。専門家の診断を受け、適切な治療を開始することが、症状改善への第一歩です。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

プロフィールを見る

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

プロフィールを見る

電話予約
0120-780-194
1分で入力完了
簡単Web予約