デリケートゾーンに「しこり」や「できもの」を見つけて、不安を感じている方は少なくありません。「これは何だろう?」「悪い病気ではないだろうか?」と心配になり、インターネットで画像を検索して調べようとする方も多いのではないでしょうか。
デリケートゾーンにできるしこりの中でも比較的多いのが「粉瘤(ふんりゅう)」です。粉瘤は皮膚の下にできる良性の腫瘍であり、適切な治療を受ければ完治が期待できます。しかし、放置すると徐々に大きくなったり、炎症を起こして痛みや腫れを生じたりすることがあるため、早めの対処が重要です。
この記事では、デリケートゾーンにできる粉瘤について、その症状や原因、画像で確認する際の注意点、そして治療法まで詳しく解説します。デリケートゾーンの粉瘤でお悩みの方、また「これは粉瘤なのだろうか?」と疑問をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。

目次
- 粉瘤(アテローム)とは何か
- デリケートゾーンに粉瘤ができやすい理由
- デリケートゾーンの粉瘤の症状と特徴
- 粉瘤の画像を検索する際の注意点
- 粉瘤と間違えやすい他の疾患との見分け方
- デリケートゾーンの粉瘤を放置するとどうなるか
- 粉瘤の治療法と手術について
- 粉瘤手術の費用と保険適用について
- デリケートゾーンの粉瘤に関するよくある質問
- まとめ
1. 粉瘤(アテローム)とは何か
粉瘤とは、皮膚の内側に袋状の構造物ができ、本来であれば皮膚から剥がれ落ちるはずの角質(垢)や皮脂が、その袋の中にたまってできた良性の腫瘍です。医学的には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」と呼ばれることもあり、「アテローム」「アテローマ」という名称でも知られています。
日本皮膚科学会の解説によると、粉瘤は皮膚科医が最も診察する機会の多い皮膚腫瘍の一つであり、俗に「脂肪のかたまり」と呼ばれることもありますが、実際には脂肪細胞が増殖してできる脂肪腫とは全く異なるものです。粉瘤の中身は脂肪ではなく、角質や皮脂などの老廃物であり、独特の臭いを放つことがあります。
粉瘤の基本的な構造
粉瘤は、皮膚の表皮成分が何らかの原因で皮膚の下に入り込み、袋状の組織(嚢腫壁)を形成することで発生します。この袋の内側からは、通常の皮膚と同様に角質や皮脂が分泌され続けますが、外に排出されることがないため、時間とともに少しずつ大きくなっていきます。
粉瘤の特徴的な構造として、しばしば腫瘍の中央に「へそ」と呼ばれる黒い点(開口部)が見られることがあります。これは皮膚表面と粉瘤内部をつなぐ部分であり、粉瘤を見分ける際の重要なポイントの一つとなります。
粉瘤ができる原因
粉瘤ができる原因は、実ははっきりとわかっていないケースがほとんどです。ただし、以下のような要因が関係していると考えられています。
まず、外傷や打撲によって皮膚の表皮成分が真皮内に入り込むことで発生する場合があります。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因となることもありますが、このようなケースは比較的まれです。さらに、毛穴の詰まりや皮膚のターンオーバーの乱れが引き金となることもあると考えられています。
体質的に粉瘤ができやすい人もおり、一度粉瘤ができた方は、別の部位にも粉瘤が発生することがあります。また、粉瘤は年齢や性別に関係なく、体のどこにでもできる可能性がありますが、特に顔、首、背中、耳の後ろなどにできやすい傾向があります。
2. デリケートゾーンに粉瘤ができやすい理由
デリケートゾーン(陰部・外陰部)は、実は粉瘤が比較的できやすい部位の一つです。これにはいくつかの理由があります。
皮膚が薄く敏感であること
デリケートゾーンは、体の中でも特に皮膚が薄く敏感な部位です。角質層が非常に薄く、外部刺激に対するバリア機能が弱いため、ちょっとした摩擦や圧迫でもダメージを受けやすいという特徴があります。このような構造的な特徴が、粉瘤の発生リスクを高める要因の一つとなっています。
皮膚が薄いということは、炎症が起きた際に広がりやすいことも意味します。粉瘤が炎症を起こすと、デリケートゾーンでは特に腫れが強くなりやすく、痛みも激しくなる傾向があります。
摩擦や物理的刺激が多いこと
デリケートゾーンは、日常生活の中で様々な物理的刺激にさらされています。下着との摩擦、歩行時の皮膚同士の接触、タイトな衣服による圧迫、長時間の座位による圧力、自転車やバイクの乗車による刺激など、慢性的かつ軽度な刺激が繰り返し加わりやすい環境にあります。
このような摩擦や刺激の積み重ねが、毛穴の周囲に炎症を起こしやすくし、皮膚の下に老廃物が閉じ込められるような状態を作り出します。これが袋状の嚢腫を形成し、粉瘤へと進行する原因となることがあります。
分泌物や皮脂が多いこと
女性のデリケートゾーンは、分泌腺が多く、汗や皮脂の分泌が活発な部位です。男性と比べて皮膚の老廃物が蓄積しやすく、しこりもできやすい環境にあります。また、女性は内股で歩く傾向が強いため、下着の摩擦による影響も加わり、さらに角質が肥厚して老廃物がたまりやすくなります。
汗をかきやすい環境や蒸れやすい状態が続くと、毛穴が詰まりやすくなり、粉瘤が発生するリスクが高まります。特に生理用品を使用している期間は、蒸れや摩擦が増加するため注意が必要です。
ムダ毛処理による影響
デリケートゾーンのムダ毛処理(カミソリ、毛抜き、脱毛など)による小さな傷が、粉瘤の発生につながることがあります。自己処理などで傷をつけてしまうと、そこから細菌が入り込んだり、皮膚の表皮成分が真皮内に入り込んだりすることで、粉瘤が形成されることがあります。
3. デリケートゾーンの粉瘤の症状と特徴
デリケートゾーンにできる粉瘤には、いくつかの特徴的な症状があります。以下に主な症状を詳しく解説します。
初期症状:しこりとして気づくことが多い
デリケートゾーンにできた粉瘤は、多くの場合、皮膚の下にできる「硬いしこり」として自覚されます。触れるとコリコリとした感触があり、内部に何かが詰まっているような感触を感じます。
初期の粉瘤は数ミリ程度の大きさで、痛みやかゆみなどの自覚症状がないことがほとんどです。皮膚表面の色も通常と変わらないか、やや白みがかっている程度で、見た目にはあまり目立ちません。このため、入浴時や着替えの際にたまたま触って気づくというケースが多いです。
特徴的な「黒い点」(開口部)
粉瘤の大きな特徴として、しこりの中央に小さな黒い点(開口部)が見られることがあります。これは粉瘤特有の構造であり、皮膚の表面とつながった部分です。ただし、すべての粉瘤にこの黒い点があるわけではなく、見られない場合もあります。
この開口部を強く圧迫すると、白色から黄色がかったペースト状の内容物が出てくることがありますが、独特の悪臭を放つことが特徴です。ただし、自分で圧迫して内容物を出すことは、炎症や感染のリスクを高めるため避けるべきです。
徐々に大きくなる性質
粉瘤は自然に治癒することがなく、放置すると徐々に大きくなっていきます。初期は数ミリ程度ですが、時間の経過とともに1センチ、2センチと成長し、まれに5センチ以上になることもあります。
大きくなるスピードは個人差がありますが、数か月から数年かけてゆっくりと成長していくことが一般的です。大きくなればなるほど、手術の傷跡も大きくなるため、小さいうちに治療することが推奨されています。
炎症を起こした場合の症状(炎症性粉瘤)
粉瘤は、細菌感染や袋の破裂によって炎症を起こすことがあります。これを「炎症性粉瘤」と呼び、以下のような症状が現れます。
炎症を起こすと、粉瘤が赤く腫れ上がり、熱を持ちます。痛みが強くなり、特にデリケートゾーンでは歩行やトイレのたびに苦痛を感じたり、座ることが困難になったりすることもあります。さらに進行すると、膿がたまって黄色っぽくなり、最終的には皮膚が破れて膿が排出されることもあります。
炎症性粉瘤は、通常の粉瘤よりも治療が複雑になり、傷跡も残りやすくなります。「少し痛いだけだから」と放置せず、早めに医療機関を受診することが重要です。
独特の臭い
粉瘤の内容物には、嫌気性菌のプロピオニバクテリウムが増殖することがあり、この菌によって産生されるプロピオン酸がとても強い悪臭の原因となります。特に炎症を起こしている場合や、内容物が外に出た場合には、強い臭いを感じることがあります。
この臭いは粉瘤に特有のものであり、ニキビなど他の皮膚トラブルとは異なる特徴です。臭いが気になるようになった場合は、粉瘤が進行しているサインと考え、早めに受診することをお勧めします。
4. 粉瘤の画像を検索する際の注意点
デリケートゾーンにしこりやできものを見つけた際、「粉瘤かどうか画像で確認したい」と思い、インターネットで検索する方は多いでしょう。しかし、画像検索にはいくつかの注意点があります。
画像だけでは正確な診断はできない
インターネット上には多くの粉瘤の画像が公開されていますが、これらを見て自己診断することには大きなリスクがあります。粉瘤は、ニキビ、脂肪腫、おでき(毛嚢炎)、バルトリン腺嚢胞、尖圭コンジローマ、性器ヘルペスなど、様々な疾患と外見が似ている場合があります。
特にデリケートゾーンのできものは、性感染症の可能性も含めて様々な疾患を考慮する必要があり、画像だけで判断することは非常に危険です。日本皮膚科学会も「皮膚腫瘍の自己診断は非常に危険である」と警告しており、必ず皮膚科専門医の診察を受けることを推奨しています。
画像検索で見るべきポイント
それでも参考として画像を確認したい場合は、以下のポイントに注目してみてください。ただし、これはあくまで受診の参考程度とし、最終的な診断は必ず医師に委ねてください。
粉瘤の一般的な外観としては、皮膚の下に半球状のしこりがあり、皮膚表面はなめらかで、中央付近に黒い点(開口部)が見られることがあります。初期段階では皮膚の色は正常か、やや白みがかっている程度です。
炎症を起こした粉瘤(炎症性粉瘤)の画像では、患部が赤く腫れ上がり、周囲の皮膚も赤みを帯びていることが多いです。膿がたまっている場合は、黄色っぽく見える部分があることもあります。
信頼性の高い情報源を選ぶ
インターネットで粉瘤について調べる際は、情報源の信頼性に注意してください。日本皮膚科学会や日本形成外科学会などの公的な学会のウェブサイト、大学病院の公式サイト、厚生労働省の関連ページなどは、医学的に正確な情報を提供しています。
一方、個人のブログや口コミサイト、匿名の掲示板などの情報は、必ずしも正確とは限りません。特に治療法や自己処置に関する情報は、誤った方法を実践すると症状を悪化させる可能性があるため、注意が必要です。
画像を見て自己処置をしないこと
画像を見て「これは粉瘤だ」と自己判断し、自分で潰したり、針で穴を開けて内容物を出そうとしたりすることは絶対に避けてください。粉瘤を自分で処置すると、以下のようなリスクがあります。
まず、細菌感染を起こして炎症が悪化する可能性があります。袋が破れて内容物が周囲の組織に散らばると、膿皮症という状態になり、治療がより困難になります。また、不適切な処置による傷跡が残ることもあります。さらに、そもそも粉瘤ではなく別の疾患だった場合、適切な治療の機会を逃してしまう恐れもあります。
5. 粉瘤と間違えやすい他の疾患との見分け方
デリケートゾーンにできるしこりやできものは、粉瘤以外にも様々な疾患が考えられます。ここでは、粉瘤と間違えやすい代表的な疾患との違いを解説します。
ニキビとの違い
ニキビは、毛穴に皮脂が詰まり、アクネ菌の繁殖によって炎症を起こした状態です。粉瘤とニキビは発生の原因や治療法が全く異なります。
ニキビは、どんなに悪化しても数ミリ程度の大きさにしかなりませんが、粉瘤は放置すると数センチ以上に大きくなることがあります。また、ニキビは市販の外用薬でも治すことができますが、粉瘤は薬では治りません。
粉瘤は皮膚の奥に袋状の構造を持っているため、一時的に小さくなっても袋が残っていれば再発します。また、粉瘤の内容物は独特の悪臭を放ちますが、ニキビにはこのような臭いはありません。
ニキビは主に10代から30代の顔、背中、胸などにできやすいですが、粉瘤は年齢に関係なく体中のどこにでもできます。ニキビは複数同時にできることが多いですが、粉瘤は通常1つか2つ程度です。
脂肪腫との違い
脂肪腫は、脂肪細胞が増殖してできる良性腫瘍です。粉瘤と同じく皮膚の下にしこりができるため、混同されやすいですが、全く異なるものです。
最も大きな違いは、しこりの硬さと動き方です。脂肪腫は脂肪でできているため触ると柔らかく、ゴムのような弾力があります。また、周囲の組織と被膜で分かれているため、指で押すと皮膚と関係なくしこりが動きます。一方、粉瘤は比較的硬いしこりで、皮膚の一部が袋状になったものなので、皮膚と一緒に動きます。
粉瘤は放置すると炎症を起こして腫れることがありますが、脂肪腫は炎症を起こすことはほとんどありません。また、粉瘤には中央に黒い点(開口部)が見られることがありますが、脂肪腫にはこのような構造はありません。
おでき(せつ・毛嚢炎)との違い
おでき(医学的には「せつ」または「毛嚢炎」)は、毛穴に黄色ブドウ球菌などの細菌が感染して起こる皮膚の感染症です。炎症を起こした粉瘤と外見が似ていることがありますが、発生の仕組みが異なります。
おできは細菌感染が原因であり、初期の段階から痛みを感じることが多いです。一方、粉瘤は袋状の構造物に老廃物がたまったものであり、炎症を起こすまでは痛みがないのが一般的です。
また、おできは突然発生しますが、粉瘤のしこりは以前から存在していたものが炎症を起こして腫れるという経過をたどります。治療法も異なり、おできは軽度であれば抗生剤の内服や外用で治療できる場合がありますが、粉瘤は手術で袋ごと摘出しないと根治できません。
バルトリン腺嚢胞・膿瘍との違い
女性のデリケートゾーンにできるしこりとして、バルトリン腺嚢胞やバルトリン腺膿瘍も考えられます。バルトリン腺は腟口の左右に位置する分泌腺で、その開口部が閉塞すると粘液がたまって嚢胞ができます。
バルトリン腺嚢胞は腟口の横(小陰唇の付け根付近)にできるという位置の特徴があります。嚢胞の段階では痛みがないことが多いですが、細菌感染を起こすとバルトリン腺膿瘍となり、強い痛みや腫れ、発熱を伴うことがあります。
粉瘤はデリケートゾーンのどこにでもできる可能性がありますが、バルトリン腺嚢胞は発生部位が限定されているため、位置である程度見分けることができます。
尖圭コンジローマとの違い
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の6型や11型が原因で発生する性感染症です。デリケートゾーンにイボ状のできものが複数できるのが特徴です。
尖圭コンジローマのイボは、カリフラワーや鶏のトサカに例えられる形状をしており、粉瘤のような半球状のしこりとは外見が異なります。また、尖圭コンジローマは複数のイボが発生することが多いですが、粉瘤は通常1つか2つ程度です。
尖圭コンジローマは性行為によって感染するため、性的接触の有無も重要な情報となります。疑わしい場合は、婦人科または皮膚科を受診してください。
性器ヘルペスとの違い
性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(主にHSV2型)の感染によって発生する性感染症です。デリケートゾーンに水疱(水ぶくれ)や潰瘍ができ、痛みやかゆみを伴います。
性器ヘルペスは、小さな水疱が複数できて、それが破れて潰瘍になるという経過をたどります。粉瘤のような硬いしこりとは明らかに異なる外観です。また、性器ヘルペスは初感染時に強い痛みを伴うことが多く、発熱や倦怠感などの全身症状が出ることもあります。
自己判断せず医師の診察を受けることの重要性
上記のように、デリケートゾーンにできるしこりやできものには様々な疾患が考えられます。外見だけで正確に判断することは、医療の専門家であっても難しい場合があります。
特にデリケートゾーンは恥ずかしさから受診をためらう方も多いですが、早期発見・早期治療が重要です。自己判断で放置したり、誤った自己処置をしたりすると、症状が悪化したり、適切な治療の機会を逃したりする可能性があります。
「これは何だろう?」と思ったら、躊躇せずに皮膚科、形成外科、または婦人科を受診してください。医師は視診や触診に加え、必要に応じて超音波検査(エコー)などを行い、正確な診断をつけます。
6. デリケートゾーンの粉瘤を放置するとどうなるか
デリケートゾーンにできた粉瘤を「痛くないから」「恥ずかしいから」と放置してしまう方は少なくありません。しかし、粉瘤を放置することには様々なリスクがあります。
徐々に大きくなる
粉瘤は自然に治癒することがなく、放置すると時間とともに少しずつ大きくなっていきます。袋の中に角質や皮脂が蓄積し続けるためです。
小さな粉瘤であれば、手術の傷跡も小さく済み、治療も比較的簡単です。しかし、大きくなってしまうと、手術の傷跡も大きくなり、治療に時間がかかることがあります。デリケートゾーンは特に傷跡が気になる部位でもあるため、小さいうちに治療することが望ましいです。
炎症を起こすリスク
粉瘤を放置していると、いつ炎症を起こすかわかりません。細菌感染や袋の破裂によって、突然赤く腫れ上がり、強い痛みを伴う炎症性粉瘤になることがあります。
特にデリケートゾーンは、下着との摩擦や生理用品による刺激、蒸れなどによって炎症を起こしやすい環境にあります。炎症を起こすと、「今まで何ともなかったしこりが、突然赤く腫れて痛くなった」という状態になり、日常生活にも支障をきたします。
炎症時の治療は複雑になる
粉瘤が炎症を起こしている状態では、すぐに袋ごと摘出する手術を行うことが難しくなります。炎症によって袋がもろくなっているため、手術をしても袋を完全に取り除くことが困難だからです。
炎症性粉瘤の場合は、まず皮膚を切開して膿を出す処置(切開排膿)を行い、抗生剤で炎症を抑えます。その後、炎症が落ち着いて傷が治ってから、改めて残った袋を摘出する手術を行います。つまり、炎症を起こしていない状態で治療するよりも、時間と手間がかかることになります。
傷跡が残りやすくなる
炎症を繰り返した粉瘤は、周囲の組織との癒着が強くなり、手術が複雑になります。また、炎症による皮膚のダメージで、手術後の傷跡が目立ちやすくなることがあります。
デリケートゾーンは人目につきにくい部位ではありますが、傷跡が気になる方もいらっしゃいます。傷跡を最小限に抑えるためにも、炎症を起こす前の早い段階で治療することが重要です。
悪性化の可能性(まれ)
粉瘤の大部分は良性腫瘍ですが、非常にまれに悪性化することがあります。特に長期間放置していた粉瘤や、炎症を繰り返している粉瘤では、有棘細胞がんや基底細胞がんが発生したという報告があります。
悪性化の可能性は極めて低いですが、腫瘍が急速に大きくなったり、表面がただれたり潰瘍ができたりした場合は、早急に医療機関を受診してください。手術で摘出した組織は病理検査に出して、良性か悪性かを確認することが一般的です。
7. 粉瘤の治療法と手術について
粉瘤の根本的な治療は、袋ごと完全に取り除く外科手術しかありません。飲み薬や塗り薬で粉瘤が消えることはありません。ここでは、粉瘤の治療法について詳しく解説します。
薬では治らない理由
粉瘤は、皮膚の下にできた袋状の構造物に老廃物がたまったものです。抗生剤の内服や外用薬は、炎症を一時的に抑えることはできますが、袋そのものを消すことはできません。
袋が残っている限り、内容物は再びたまり続けます。そのため、一時的に小さくなったとしても、時間が経てば再び大きくなります。粉瘤を根治するためには、手術で袋ごと摘出することが必要です。
手術の種類
粉瘤の手術には、主に以下の2つの方法があります。どちらの方法を選択するかは、粉瘤の大きさ、場所、炎症の有無、過去の治療歴などを考慮して医師が判断します。
切開法(紡錘形切除法)
切開法は、粉瘤の真上の皮膚を紡錘形(葉っぱ型)に切開し、袋ごと一塊として摘出する方法です。従来から行われている標準的な手術法であり、再発率が低いことが特徴です。
切開法では、粉瘤の大きさに応じた長さの皮膚を切開するため、くりぬき法に比べて傷跡が大きくなることがあります。しかし、袋を破らずに完全に摘出できるため、再発のリスクが低く、炎症を起こした粉瘤や大きな粉瘤にも対応可能です。手術後は傷口を縫合し、1週間から2週間後に抜糸を行います。
くりぬき法(へそ抜き法)
くりぬき法は、トレパン(ディスポーザブルパンチ)という直径4ミリ程度の円筒状の器具を使い、粉瘤の中央に小さな穴を開けて摘出する方法です。穴から内容物を揉み出し、その後に袋を引き抜きます。
くりぬき法の利点は、切開範囲が小さく傷跡が目立ちにくいこと、手術時間が短いことです。基本的に傷口は縫合せず、開放創として自然に治癒させます。
ただし、くりぬき法にはいくつかの制限があります。日本皮膚科学会によると、手のひらや足の裏の粉瘤、炎症を繰り返して周囲の組織との癒着が強い粉瘤には適応となりません。また、袋を完全に摘出できない場合があり、切開法に比べて再発率がやや高いという指摘もあります。
手術の流れ
粉瘤の手術は、多くの場合、局所麻酔による日帰り手術で行われます。一般的な流れは以下の通りです。
まず、医師が診察を行い、粉瘤の状態(大きさ、場所、炎症の有無など)を確認します。超音波検査(エコー)を行うこともあります。診断後、手術の方法や注意点について説明を受け、同意書にサインします。
手術当日は、粉瘤の周囲にマーキングを行い、局所麻酔を注射します。麻酔が十分に効いていることを確認してから手術を開始します。手術中の痛みはほとんどありません。手術時間は、粉瘤の大きさや状態によりますが、一般的に5分から30分程度です。
手術後は、ガーゼで傷口を保護します。当日は入浴や飲酒、激しい運動を控える必要があります。翌日からはシャワーを浴びることができることが多いですが、医師の指示に従ってください。
術後1週間から2週間後に再診があり、傷の状態を確認します。縫合した場合は抜糸を行います。また、摘出した組織は病理検査に出し、その結果を後日説明されます。
炎症を起こしている場合の治療
粉瘤が炎症を起こして赤く腫れ、痛みがある場合は、すぐに袋ごと摘出する手術を行うことが難しい場合があります。炎症によって袋がもろくなっているため、完全に摘出できず再発リスクが高まるからです。
炎症性粉瘤の場合は、まず切開排膿という処置を行います。局所麻酔をして腫れている部分の皮膚を切開し、たまった膿や内容物を排出させます。これにより、痛みや腫れは大幅に改善します。
切開排膿後は、傷口を開けたまま軟膏処置を続け、2週間から3週間程度かけて傷が塞がるのを待ちます。炎症が完全に落ち着いたら、残った袋を摘出する手術を改めて行います。
デリケートゾーンの粉瘤手術における配慮
デリケートゾーンの粉瘤手術では、患者さんの羞恥心への配慮が重要です。多くのクリニックでは、女性患者さんに対しては女性医師が担当したり、プライバシーに配慮した診察環境を整えたりしています。
受診をためらっている方も多いかもしれませんが、デリケートゾーンの粉瘤は決して珍しい病気ではありません。「勇気を出して受診してよかった」という声も多く聞かれます。恥ずかしがらずに、早めに専門医に相談してください。
8. 粉瘤手術の費用と保険適用について
粉瘤の手術費用は、多くの方が気になるポイントです。ここでは、粉瘤手術の費用の目安と保険適用について解説します。
粉瘤手術は保険適用される
粉瘤の治療は、診察、検査、手術、病理検査など、一連の医療行為すべてが健康保険の適用対象となります。そのため、3割負担(または1割負担)で治療を受けることができます。
これは全国の保険医療機関で共通のルールであり、粉瘤手術を行っているクリニックであれば、基本的に保険診療で対応してもらえます。
手術費用の目安
粉瘤手術の費用は、手術部位が「露出部」か「非露出部」か、また粉瘤の大きさによって異なります。厚生労働省が定める診療報酬点数表に基づいて算定されます。
露出部とは、頭、顔、首、肘から手先まで、膝から足先までの部位を指します。非露出部とは、胸、腹、背中、上腕、太ももなど、露出部以外の部位を指します。デリケートゾーンは非露出部に該当します。
3割負担の場合の手術費用(手技料のみ)の目安は以下の通りです。非露出部で3センチ未満の場合、おおよそ4,000円から5,000円程度です。非露出部で3センチ以上6センチ未満の場合、おおよそ10,000円から12,000円程度です。非露出部で6センチ以上の場合、おおよそ12,000円から15,000円程度です。
ただし、実際の会計では、手術費用に加えて初診料または再診料、処方箋料、検査費用(超音波検査など)、病理検査費用(通常3,000円程度)などが加算されます。全体として、3割負担で10,000円から20,000円程度になることが多いです。
民間の医療保険の給付金
民間の医療保険や共済組合の医療保険・医療特約に加入している場合、契約内容によっては手術給付金を受け取れることがあります。粉瘤手術の場合、術式名は「皮膚・皮下腫瘍摘出術」となります。
給付金の対象となるかどうかは、加入している保険の契約内容によって異なります。手術を受ける前に、保険会社に確認しておくことをお勧めします。給付金申請には診断書などの書類が必要になることもあるため、早めに確認しておくと安心です。
費用を抑えるためのポイント
粉瘤の手術費用をできるだけ抑えるためには、小さいうちに治療することが重要です。粉瘤が大きくなるほど手術費用も高くなりますし、炎症を起こすと複数回の通院や処置が必要になり、総額が増えることがあります。
また、粉瘤かどうかはっきりしない段階で受診し、医師の診察を受けることも大切です。早期に正確な診断を受けることで、適切な治療計画を立てることができます。

9. デリケートゾーンの粉瘤に関するよくある質問
デリケートゾーンの粉瘤について、患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
デリケートゾーンの粉瘤は、皮膚科、形成外科、または婦人科で診察・治療を受けることができます。粉瘤の手術を多く行っているのは皮膚科と形成外科です。
女性の方で、婦人科疾患との鑑別が必要な場合や、婦人科のかかりつけ医がいる場合は、まず婦人科を受診することも選択肢の一つです。必要に応じて、適切な診療科を紹介してもらえます。
粉瘤を自分で潰すことは絶対に避けてください。自分で圧迫して内容物を出しても、袋は残っているため再び内容物がたまります。それだけでなく、細菌感染を起こして炎症が悪化したり、袋が破れて内容物が周囲に散らばり、治療が困難になったりするリスクがあります。
インターネット上には自己処置の体験談もありますが、非常に危険な行為です。粉瘤に気づいたら、自分で何かしようとせず、医療機関を受診してください。
Q3. 粉瘤の手術は痛いですか?
粉瘤の手術は局所麻酔で行われるため、手術中の痛みはほとんどありません。局所麻酔を注射する際にチクッとした痛みを感じることがありますが、極細の針を使用するなど、痛みを軽減する工夫がされています。
手術後、麻酔が切れると痛みを感じることがありますが、痛み止めの薬が処方されます。多くの患者さんは、手術当日の夜に1回痛み止めを使用する程度で、1回も使用しなかったという方も少なくありません。
Q4. 手術後はすぐに日常生活に戻れますか?
粉瘤の日帰り手術後は、当日から軽い日常生活に戻ることができます。ただし、手術当日は入浴、飲酒、激しい運動を控える必要があります。
翌日からはシャワーを浴びることができることが多いですが、傷口を湯船につけることは抜糸まで避けてください。デリケートゾーンの手術後は、激しい運動や長時間の自転車乗車などは、傷が完全に治るまで控えることが望ましいです。
具体的な注意事項は、手術を行った医師から説明がありますので、指示に従ってください。
Q5. 粉瘤の手術後、傷跡は残りますか?
粉瘤の手術後、ある程度の傷跡は残りますが、時間とともに目立たなくなっていきます。傷跡の大きさは、粉瘤の大きさや手術方法によって異なります。
小さな粉瘤であれば、くりぬき法で傷跡を最小限に抑えることも可能です。傷跡は通常、3か月から6か月かけて徐々に目立たなくなります。
傷跡が気になる方は、手術前に医師に相談してください。傷跡をできるだけ目立たなくするための配慮や、術後のケア方法についてアドバイスを受けることができます。
Q6. 粉瘤は再発することがありますか?
粉瘤の手術で袋を完全に摘出できれば、同じ場所での再発はほとんどありません。ただし、袋の一部が残ってしまった場合は、再発する可能性があります。
また、体質的に粉瘤ができやすい方は、別の場所に新たな粉瘤ができることがあります。これは元の粉瘤の再発ではなく、新規発生です。
Q7. 粉瘤を予防する方法はありますか?
残念ながら、粉瘤を確実に予防する方法は現時点では確立されていません。粉瘤ができる原因が完全には解明されていないためです。
ただし、以下のようなことを心がけることで、リスクを軽減できる可能性があります。肌を清潔に保つこと、摩擦の少ない下着を選ぶこと、ムダ毛処理の際に傷をつけないよう注意すること、皮膚のターンオーバーを正常に保つためのスキンケアを行うことなどが挙げられます。
また、しこりに気づいたら早めに受診し、小さいうちに治療することが、炎症や傷跡の拡大を防ぐことにつながります。
10. まとめ
デリケートゾーンにできる粉瘤について、症状、原因、画像確認の注意点、他の疾患との見分け方、治療法まで詳しく解説しました。
粉瘤は皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂がたまる良性の腫瘍です。デリケートゾーンは皮膚が薄く、摩擦や分泌物が多いため、粉瘤ができやすい環境にあります。
粉瘤の特徴的な症状として、皮膚の下の硬いしこり、中央の黒い点(開口部)、独特の臭い、放置すると徐々に大きくなることなどがあります。炎症を起こすと、赤く腫れて強い痛みを伴います。
インターネットで画像を検索して自己判断することは危険です。粉瘤に似た疾患は多く、正確な診断には医師の診察が必要です。また、自分で潰したり針で穴を開けたりする自己処置は、炎症悪化や感染のリスクがあるため絶対に避けてください。
粉瘤は薬では治らず、根本的な治療には手術が必要です。手術は健康保険が適用され、多くの場合、局所麻酔による日帰り手術で対応可能です。小さいうちに治療すれば、傷跡も小さく、費用も抑えられます。
デリケートゾーンの粉瘤は恥ずかしさから受診をためらう方も多いですが、決して珍しい病気ではありません。炎症を起こす前の早い段階で治療することが、傷跡を最小限に抑え、スムーズな治癒につながります。気になるしこりやできものがあれば、躊躇せずに専門医にご相談ください。
アイシークリニック新宿院では、デリケートゾーンの粉瘤治療にも対応しております。女性医師による診察・手術も可能ですので、お気軽にご相談ください。
参考文献
- アテローム(粉瘤)Q&A – 公益社団法人日本皮膚科学会
- 粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)- 一般社団法人日本形成外科学会
- 粉瘤(ふんりゅう)- 兵庫医科大学病院 みんなの医療ガイド
- 一般公開ガイドライン – 公益社団法人日本皮膚科学会
図表:粉瘤の症状まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | アテローム、表皮嚢腫 |
| 性質 | 良性の皮膚腫瘍 |
| 好発部位 | 顔、首、背中、耳の後ろ、デリケートゾーン |
| 初期症状 | 皮膚の下の硬いしこり、痛みなし |
| 特徴的な所見 | 中央の黒い点(開口部)、独特の臭い |
| 経過 | 放置すると徐々に大きくなる |
| 炎症時の症状 | 赤み、腫れ、痛み、膿 |
| 治療法 | 外科的手術(くりぬき法または切開法) |
| 保険適用 | あり(3割または1割負担) |
| 受診科 | 皮膚科、形成外科、婦人科 |
図表:粉瘤と間違えやすい疾患の比較
| 疾患名 | 特徴 | 粉瘤との違い |
|---|---|---|
| ニキビ | 毛穴の詰まりと炎症 | 数ミリ程度の大きさ、市販薬で治る、悪臭なし |
| 脂肪腫 | 脂肪細胞の良性腫瘍 | 柔らかい、皮膚と別に動く、炎症起こさない |
| おでき(毛嚢炎) | 細菌感染による炎症 | 突然発症、初期から痛い、抗生剤で治ることも |
| バルトリン腺嚢胞 | 分泌腺の閉塞 | 発生部位が限定的(腟口横) |
| 尖圭コンジローマ | HPV感染症 | イボ状、複数発生、性感染 |
| 性器ヘルペス | ヘルペスウイルス感染 | 水疱から潰瘍へ、強い痛み |
図表:粉瘤手術の費用目安(3割負担の場合)
| 部位・サイズ | 手術費用(手技料のみ)の目安 |
|---|---|
| 非露出部・3cm未満 | 約4,000〜5,000円 |
| 非露出部・3cm以上6cm未満 | 約10,000〜12,000円 |
| 非露出部・6cm以上 | 約12,000〜15,000円 |
※実際の会計では、初診料、処方料、検査費用、病理検査費用などが加算されます。 ※デリケートゾーンは非露出部に該当します。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務