粉瘤とニキビの違いとは?見分け方・原因・治療法を皮膚科医が徹底解説

顔や背中にできたしこりやできものを見つけて、「これはニキビだろう」と自己判断していませんか。実は、見た目がよく似た「粉瘤(ふんりゅう)」という全く別の皮膚疾患である可能性があります。

粉瘤とニキビは、発生のメカニズム、原因、治療法がまったく異なります。ニキビは適切なスキンケアや市販薬で改善することもありますが、粉瘤は自然に治ることがなく、放置すると大きくなったり、炎症を起こして痛みや腫れが生じたりすることがあります。

この記事では、粉瘤とニキビの違いを詳しく解説するとともに、両者の見分け方、それぞれの原因や症状、そして適切な治療法についてわかりやすくお伝えします。「なかなか治らないニキビがある」「しこりのようなできものが気になる」という方は、ぜひ最後までお読みください。正しい知識を持つことで、適切な対処法を選択し、肌トラブルの悪化を防ぐことができます。


目次

  1. 粉瘤とは何か
  2. ニキビ(尋常性ざ瘡)とは何か
  3. 粉瘤とニキビの主な違い
  4. 粉瘤とニキビの見分け方
  5. 粉瘤ができる原因
  6. ニキビができる原因
  7. 粉瘤の症状と進行
  8. ニキビの種類と症状
  9. 粉瘤の治療法
  10. ニキビの治療法
  11. 粉瘤・ニキビと間違えやすい他の皮膚疾患
  12. 放置するとどうなるか
  13. 日常生活での予防とケア
  14. 医療機関を受診すべきタイミング
  15. まとめ
  16. 参考文献

1. 粉瘤とは何か

粉瘤は、医学的には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」や「アテローム」とも呼ばれる良性の皮膚腫瘍です。日本皮膚科学会の解説によると、粉瘤は皮膚の内側に袋状の構造物ができ、本来皮膚から剥げ落ちるはずの垢(角質)や皮膚の脂(皮脂)が、その袋の中にたまってしまってできた腫瘍の総称とされています。

この袋状の構造物の中にたまった角質や皮脂は、袋の外には排出されないため、時間とともに少しずつ大きくなっていくという特徴があります。粉瘤は身体のどこにでもできる可能性がありますが、特に顔、首、背中、耳のうしろなどにできやすい傾向があります。

外見上の特徴としては、やや盛り上がった数mmから数cmの半球状のしこりとして現れます。多くの場合、しこりの中央に黒点状の開口部が見られ、これは粉瘤の大きな特徴の一つです。この開口部を強く圧迫すると、臭くてドロドロしたペースト状の物質が出てくることがあります。

慶應義塾大学病院KOMPASの説明では、粉瘤は毛穴の入り口の部分に袋状構造物ができ、その中に古い角質がたまる良性の腫瘍であるとされています。一般的に「しぼうのかたまり」と表現されることもありますが、実際には脂肪ではなく、皮膚から出る垢のかたまりが本体です。

粉瘤は良性腫瘍であるため、基本的に生命を脅かすものではありません。しかし、放置すると次第に大きくなり、ときには10cm以上のサイズになることもあります。また、細菌感染によって炎症を起こすと、赤く腫れ上がり、強い痛みを伴う「炎症性粉瘤」へと進行することがあります。

粉瘤は皮膚科医が最も診察する機会の多い皮膚腫瘍の一つです。男女を問わず、また年齢に関係なく発生する可能性があります。体質的に粉瘤ができやすい方もおり、複数の粉瘤ができるケースもあります。


2. ニキビ(尋常性ざ瘡)とは何か

ニキビは医学的には「尋常性ざ瘡(じんじょうせいざそう)」と呼ばれる皮膚疾患です。日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」によると、ニキビは毛穴(毛包)に皮脂がたまることで起こる慢性的な炎症性疾患とされています。

ニキビの発症メカニズムを簡単に説明すると、まず何らかの原因で毛穴が詰まり、毛穴の中に皮脂がたまります。この段階が「面皰(めんぽう)」と呼ばれる初期のニキビです。その後、皮脂を栄養源としてアクネ菌(Cutibacterium acnes)が増殖し、炎症を引き起こすことで、赤く腫れたニキビへと進行します。

日本では約90%の人がニキビを経験するとされ、平均的な発症年齢は13.3歳と報告されています。思春期に発症することが多いですが、生活習慣の乱れやストレス、ホルモンバランスの変化などにより、成人になってからニキビに悩まされる方も少なくありません。

ニキビは皮脂腺が多い部位にできやすく、特に顔では額、鼻、顎の「Tゾーン」や、頬、口周りの「Uゾーン」に多く発生します。顔以外では、背中や胸など、皮脂腺が発達している部位にもできることがあります。

ニキビの種類は進行度によって分類され、主に以下のようなものがあります。

白ニキビは、毛穴に皮脂や角質がたまり、毛穴が閉じた状態です。皮膚表面がわずかに盛り上がり、白っぽく見えます。

黒ニキビは、毛穴に詰まった皮脂が酸化して黒く変色した状態です。毛穴が開いているため、中心部が黒い点のように見えます。

赤ニキビは、毛穴の中でアクネ菌が増殖し、炎症を起こした状態です。赤く腫れて、触ると痛みを感じることがあります。

黄ニキビ(膿疱性ニキビ)は、炎症がさらに進行し、膿がたまった状態です。ニキビの先端が黄色く見え、膿を持っています。

ニキビは適切な治療を行わないと、炎症が長引いたり繰り返したりすることで、ニキビ跡(瘢痕)として残ってしまうことがあります。そのため、早期に適切な治療を受けることが重要です。


3. 粉瘤とニキビの主な違い

粉瘤とニキビは見た目が似ていることから混同されがちですが、実際には全く異なる疾患です。ここでは、両者の主な違いについて詳しく解説します。

発生のメカニズムの違い

粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物がたまることで形成されます。この袋自体が腫瘍であり、良性の皮膚腫瘍に分類されます。

一方、ニキビは毛穴が詰まることで発生します。毛穴に皮脂がたまり、そこでアクネ菌が増殖して炎症を起こすという、毛穴の感染症・炎症性疾患です。皮膚の下に袋ができるわけではありません。

原因の違い

粉瘤の発生原因ははっきりとわかっていないことが多いです。外傷や刺激、毛穴の詰まり、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染などが原因として挙げられることもありますが、多くの場合は原因不明です。体質的に粉瘤ができやすい方もいます。

ニキビの原因は比較的明確で、皮脂の過剰分泌、毛穴の詰まり(角化異常)、アクネ菌の増殖の3つが主な要因です。ホルモンバランスの変化、ストレス、睡眠不足、食生活の乱れなどが、これらの要因を悪化させることがあります。

発生部位の違い

粉瘤は毛穴の有無にかかわらず、皮膚のある場所であればどこにでも発生する可能性があります。顔、首、背中での発生が約60%を占めるとされていますが、耳たぶ、脇、おしり、鼠径部など、身体のあらゆる部位にできることがあります。

ニキビは皮脂腺のある毛穴にのみ発生します。特に皮脂腺が多い顔(額、鼻、頬、顎)、背中、胸などにできやすいです。

大きさの違い

粉瘤は放置すると徐々に大きくなり、数mmのものから数cm、ときには10cm以上になることもあります。袋の中に老廃物がたまり続けるため、時間とともに成長していきます。

ニキビは炎症がひどくなっても、通常は数mm程度の大きさにとどまります。1cmを超えることはほとんどありません。

自然治癒の可能性の違い

粉瘤は自然に治ることがありません。袋状の構造物を外科的に除去しない限り、根本的な治療はできません。薬を塗っても、袋が残っている限り再発の可能性があります。

ニキビは症状が軽い場合、適切なスキンケアや時間の経過により自然に改善することがあります。また、外用薬や内服薬による治療で治すことが可能です。

好発年齢の違い

粉瘤は年齢に関係なく発生します。子どもから高齢者まで、どの年代でもできる可能性があります。

ニキビは主に10代から30代に多く見られます。特に思春期はホルモンバランスの変化により、皮脂分泌が活発になるため、ニキビができやすくなります。

発生数の違い

粉瘤は基本的に1つや2つ程度できることが多く、1箇所に複数まとまってできることはほとんどありません。全身で見ても3つ程度であることが多いです。

ニキビは1箇所に複数のものがまとまってできることがあります。白ニキビ、黒ニキビ、赤ニキビなど、異なる種類のニキビが混在することも珍しくありません。


4. 粉瘤とニキビの見分け方

粉瘤とニキビは見た目が似ているため、自己判断が難しい場合があります。ここでは、両者を見分けるためのポイントを詳しく解説します。ただし、これらはあくまでも参考であり、正確な診断には医療機関の受診が必要です。

中央の黒い点(開口部)の有無

粉瘤には、しこりの中央付近に「開口部」と呼ばれる黒い点が見られることがあります。これは粉瘤の特徴的なサインの一つで、袋と皮膚表面がつながっている部分です。この開口部では、皮脂が酸化して黒く見えています。

ただし、黒ニキビも毛穴に詰まった皮脂が酸化して中央が黒く見えるため、この点だけでは見分けがつかないこともあります。また、すべての粉瘤に開口部があるわけではなく、開口部が確認できない場合もあります。

大きさと成長

初期の粉瘤は数mm程度でニキビと見分けがつきにくいですが、粉瘤は放置すると徐々に大きくなっていきます。1cm以上に大きくなったしこりがある場合は、粉瘤の可能性が高いと考えられます。

ニキビは炎症が悪化しても数mm程度にとどまり、それ以上大きくなることはほとんどありません。

しこりの触り心地

粉瘤は皮膚の下に存在する塊として感じられ、弾力があり、はっきりとしたしこりとして触れることが多いです。皮膚と一緒に動く特徴があります。

ニキビは皮膚表面の炎症としての盛り上がりが主体であり、粉瘤ほど明確なしこりとしては感じられません。

臭いの有無

粉瘤は内部に老廃物がたまっているため、独特の強い臭気を発することがあります。特に炎症を起こした場合や、内容物が外に出てきた場合には、不快な臭いがします。これは粉瘤を見分ける大きなポイントです。

ニキビを潰した際に出てくる内容物は主に皮脂や膿であり、基本的に強い臭いはしません。

発症の経過

粉瘤は突然できるものではなく、以前から小さなしこりとして存在していたものが徐々に大きくなっていくことが多いです。

ニキビは比較的短期間で発症し、数日から数週間で症状が変化します。

痛みの有無

炎症を起こしていない通常の粉瘤は、触ってもほとんど痛みを感じません。ただし、炎症を起こした炎症性粉瘤は強い痛みを伴います。

炎症性のニキビ(赤ニキビや黄ニキビ)は、触ると痛みを伴うことが多いです。

発生している場所と数

粉瘤が1箇所に1つだけできていて、それが次第に大きくなっている場合は粉瘤の可能性が高いです。

複数のできものが1箇所にまとまってできている場合は、ニキビである可能性が高いと考えられます。

市販薬への反応

ニキビ用の市販薬を使用しても改善しない「治りにくいニキビ」がある場合は、粉瘤の可能性があります。粉瘤は外用薬では治らないため、いくら薬を塗っても改善しません。

これらのポイントを参考にしても判断がつかない場合や、症状が気になる場合は、自己判断せずに皮膚科を受診することをお勧めします。


5. 粉瘤ができる原因

粉瘤がなぜできるのか、その明確な原因はほとんどの場合わかっていません。しかし、いくつかの要因が粉瘤の形成に関与していると考えられています。

毛穴の一部が皮膚の下に入り込む

粉瘤形成の主なメカニズムとして、何らかの原因で皮膚の毛穴の一部がめくれてしまい、皮膚の下に袋状の構造ができることが挙げられます。この袋の中に、本来皮膚から剥がれ落ちるはずの角質や皮脂がたまり、粉瘤として成長していきます。

外傷や刺激

皮膚に傷がついたり、外部からの刺激を繰り返し受けたりすることで、皮膚の構造が変化し、粉瘤ができやすい状態になることがあります。手術後の傷跡や、ピアスの穴の周辺などにできることもあります。

ウイルス感染

手足にできる粉瘤の一部は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因であることがわかっています。ただし、これは粉瘤全体から見ると稀なケースです。

体質的な要因

粉瘤ができやすい体質の方がいます。家族に粉瘤ができやすい人がいる場合、遺伝的な要因が関係している可能性も考えられます。体質的に粉瘤ができやすい方は、複数の粉瘤ができることもあります。

毛穴の詰まり

毛穴が詰まることで、皮脂や角質が正常に排出されなくなり、袋状の構造が形成されることがあります。ただし、粉瘤は毛穴のない部位にもできることがあるため、毛穴の詰まりだけが原因ではありません。

粉瘤は「不潔にしていると粉瘤ができる」と思われがちですが、実際には体質による影響が大きく、清潔にしていても粉瘤はできます。効果的な予防法は現時点では確立されていません。


6. ニキビができる原因

ニキビの発生原因は比較的明確で、主に以下の3つの要因が関与しています。

皮脂の過剰分泌

皮脂腺から分泌される皮脂が過剰になると、毛穴にたまりやすくなります。皮脂分泌は、ホルモンバランス(特に男性ホルモン)、ストレス、食生活、睡眠不足などの影響を受けます。

思春期にはホルモンの分泌が活発になるため、皮脂分泌も増加し、ニキビができやすくなります。また、女性は月経周期によってホルモンバランスが変化するため、生理前にニキビが増えるという方も多いです。

毛穴の詰まり(角化異常)

毛穴の出口にある角質が厚くなり、毛穴がふさがってしまうことを「角化異常」といいます。これにより、皮脂がスムーズに排出されなくなり、毛穴の中にたまっていきます。

毛穴が詰まった状態は「面皰(コメド)」と呼ばれ、これがニキビの初期段階です。白く盛り上がったものを白ニキビ(閉鎖面皰)、毛穴が開いて皮脂が酸化し黒く見えるものを黒ニキビ(開放面皰)といいます。

アクネ菌の増殖

アクネ菌(Cutibacterium acnes)は皮膚に常在する細菌ですが、嫌気性菌であり、酸素を嫌う性質を持っています。毛穴が詰まると酸素が届きにくくなるため、アクネ菌が増殖しやすい環境が作られます。

アクネ菌は皮脂を栄養源として増殖し、炎症を引き起こす物質を産生します。これにより、毛穴の周囲が赤く腫れて炎症を起こし、赤ニキビへと進行します。

その他の悪化要因

ニキビを悪化させる要因として、以下のようなものがあります。

ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、皮脂分泌を促進させることがあります。

睡眠不足は肌のターンオーバーを乱し、古い角質がたまりやすくなります。

食生活において、脂肪分や糖分の多い食事は皮脂分泌を増加させる可能性があります。

不適切なスキンケアとして、洗顔のしすぎや強くこすることは、かえって肌を刺激し、ニキビを悪化させることがあります。

化粧品によっては、毛穴を詰まらせやすいものもあります。

ニキビを手で触ったり潰したりすることは、細菌感染のリスクを高め、炎症を悪化させる原因になります。


7. 粉瘤の症状と進行

粉瘤の症状は、進行段階によって異なります。ここでは、粉瘤がどのように発症し、進行していくかを解説します。

初期段階

粉瘤の初期段階では、触れると小さなしこりがあるように感じられますが、見た目の変化はほとんどありません。多くの場合、痛みやかゆみもなく、自覚されることは少ないです。この段階では、特に日常生活に支障をきたすことはありません。

しこりの成長

粉瘤は袋の中に老廃物がたまり続けるため、時間とともに少しずつ大きくなっていきます。数mmだったものが数cm、場合によっては5cm以上に成長することもあります。非常にまれですが、10cm以上の巨大なサイズになるケースもあります。

大きくなると、やや盛り上がった半球状のドーム型のしこりとして外見上も目立つようになります。しこりの中央には黒点状の開口部が見られることがあります。

臭いの発生

粉瘤の内部には角質や皮脂などの老廃物がたまっています。この内容物は常在菌などによって分解され、独特の不快な臭いを発することがあります。開口部から臭いが漏れ出すこともあり、これが粉瘤に気づくきっかけになることもあります。

炎症性粉瘤への進行

粉瘤の袋の中に細菌が侵入して感染を起こすと、炎症が発生します。この状態を「炎症性粉瘤」または「化膿性粉瘤」といいます。

炎症性粉瘤では、以下のような症状が現れます。

粉瘤が赤く腫れ上がります。強い痛みを感じるようになります。熱を持つことがあります。触ると非常に痛みがあります。膿がたまり、ブヨブヨとした状態になることがあります。

炎症がさらに進行すると、粉瘤が自然に破裂し、臭いのあるドロドロした内容物や膿が排出されることがあります。

慢性化と再発

炎症が治まっても、粉瘤の袋が残っている限り、再び内容物がたまり始めます。炎症を繰り返すこともあり、その都度症状が悪化する可能性があります。


8. ニキビの種類と症状

ニキビは進行度によって分類され、それぞれ異なる症状を示します。ここでは、ニキビの種類と特徴について解説します。

面皰(コメド):ニキビの初期段階

面皰はニキビの初期段階で、毛穴に皮脂や角質がたまった状態です。面皰には、閉鎖面皰(白ニキビ)と開放面皰(黒ニキビ)の2種類があります。

白ニキビ(閉鎖面皰)は、毛穴の出口が閉じた状態で、皮脂や角質がたまっています。皮膚表面がわずかに白く盛り上がって見えます。痛みはなく、肌を触るとざらつきを感じることがあります。

黒ニキビ(開放面皰)は、毛穴の出口が開いた状態で、たまった皮脂が空気に触れて酸化し、黒く変色しています。毛穴の中心に黒い点が見えるのが特徴です。

面皰の段階では炎症は起きておらず、適切なケアを行えば悪化を防ぐことができます。

炎症性丘疹:赤ニキビ

赤ニキビは、面皰の中でアクネ菌が増殖し、炎症を起こした状態です。毛穴とその周囲が赤く腫れ上がり、触ると痛みを感じることがあります。見た目上も目立ちやすく、多くの人がニキビとして認識するのはこの段階です。

赤ニキビは適切な治療を行わないと、さらに悪化する可能性があります。

膿疱(のうほう):黄ニキビ

黄ニキビは、赤ニキビからさらに炎症が進行し、毛穴の中に膿がたまった状態です。ニキビの先端が黄色や白っぽく見え、膿が透けて見えます。触ると痛みがあり、破れると膿が出てきます。

この段階になると、ニキビ跡(瘢痕)として残りやすくなります。

嚢腫・結節:重症ニキビ

嚢腫や結節は、ニキビの重症型です。皮膚の深いところで炎症が起こり、大きく腫れ上がります。硬くしこりのようになることもあります。

この段階では、適切な治療を行わないとひどいニキビ跡が残る可能性が高いため、早急に皮膚科を受診することが重要です。

ニキビ跡(瘢痕)

ニキビの炎症が重度であったり、長引いたり、繰り返したりすると、炎症が治まった後にニキビ跡として残ることがあります。

色素沈着としては、茶色いシミのような跡が残ることがあります。赤み(炎症後紅斑)として、赤みが長期間残ることがあります。萎縮性瘢痕(クレーター)として、皮膚が凹んで跡が残ることがあります。肥厚性瘢痕として、皮膚が盛り上がって跡が残ることがあります。

ニキビ跡を残さないためには、ニキビを早期に適切に治療することが重要です。


9. 粉瘤の治療法

粉瘤は自然に治ることがないため、根本的に治すには外科的な手術が必要です。ここでは、粉瘤の治療法について解説します。

治療が必要な場合

粉瘤は良性腫瘍であるため、炎症を伴わず、痛みなどの自覚症状がなく、外見上も問題がなければ、特に治療をせずに経過観察することも可能です。

しかし、以下のような場合は治療が推奨されます。

外見上気になる場合、大きくなってきた場合、外的刺激を受けやすい場所にあり将来的に炎症や破裂を起こす可能性が高い場合、すでに炎症を起こしている場合などです。

手術による摘出(非炎症時)

炎症を起こしていない粉瘤の根本的な治療は、手術によって袋ごと摘出することです。袋を完全に取り除くことで、再発を防ぐことができます。

紡錘形切除法は、最も一般的な方法です。粉瘤の直上を紡錘形(楕円形)に切開し、袋状構造物(被膜)ごと摘出します。被膜の一部は皮膚と癒着しているため、その部分の皮膚も一緒に切除して再発を防ぎます。切開後は縫合します。巨大なものでなければ、局所麻酔による日帰り手術が可能です。

くり抜き法(へそ抜き法)は、より小さな切開で済む方法です。局所麻酔後、トレパン(ディスポーザブルパンチ)という円筒状のメスを使い、粉瘤の開口部付近に4mm程度の穴をあけ、そこから内容物を押し出した後、袋も取り出します。傷跡が小さくて済むというメリットがありますが、手のひらや足の裏の粉瘤、炎症を繰り返して癒着が強い粉瘤には適しません。また、大きな粉瘤には向いていない場合があります。

炎症性粉瘤の治療

粉瘤に炎症が起きて赤く腫れ、痛みがある場合は、まず炎症を抑える治療が優先されます。

切開排膿は、炎症がひどく膿がたまっている場合に行われます。局所麻酔後、皮膚を切開して膿を外に出し、袋の内部を洗浄します。抗生剤の投薬も行われます。この処置は緊急対応であり、粉瘤の袋は完全には取り除けません。そのため、炎症が落ち着いた後(通常3か月程度)に改めて摘出手術を行うことが推奨されます。

保存的治療として、炎症が軽度な場合は、抗生剤の内服や外用で様子を見ることもあります。

術後の経過

手術後は、抜糸のための通院が必要です。部位によりますが、1週間から2週間後に抜糸を行うことが一般的です。術後は入浴やプールなどを控え、傷口を清潔に保つことが大切です。

傷跡は時間とともに目立たなくなりますが、完全に消えるわけではありません。ケロイド体質の方には、追加の処置が必要になることもあります。


10. ニキビの治療法

ニキビの治療は、日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」に基づいて行われます。症状の程度や種類に応じて、適切な治療法が選択されます。

治療の基本方針

ニキビ治療のポイントは、「面皰(コメド)の継続治療」と「炎症を抑える適切な抗菌療法」の2点です。急性炎症期には抗菌薬などで炎症を早期に改善し、炎症が落ち着いた維持期には面皰治療を継続して再発を予防します。

外用薬による治療

面皰治療薬として、アダパレン(商品名:ディフェリン)は、毛穴の詰まりを改善し、面皰の形成を抑制します。角化異常を正常化する作用があります。過酸化ベンゾイル(商品名:ベピオ)は、アクネ菌に対する殺菌作用と、毛穴の詰まりを改善する作用を併せ持ちます。耐性菌を生じにくいという特徴があります。これらの配合剤として、アダパレンと過酸化ベンゾイルの配合剤(商品名:エピデュオ)もあります。

抗菌薬外用薬として、クリンダマイシン(商品名:ダラシンT)、ナジフロキサシン(商品名:アクアチム)、オゼノキサシン(商品名:ゼビアックス)などがあります。これらはアクネ菌の増殖を抑え、炎症を鎮めます。ただし、長期使用は耐性菌発生のリスクがあるため、炎症が改善したら中止し、面皰治療薬による維持療法に移行します。

内服薬による治療

抗菌薬の内服として、炎症が強い場合や広範囲にニキビがある場合は、抗菌薬(テトラサイクリン系など)を内服することがあります。こちらも長期使用は避け、1〜2か月程度を目安に使用します。

漢方薬として、ホルモンバランスを整える目的で、漢方薬が処方されることもあります。

ビタミン剤として、ビタミンB群などのビタミン剤が補助的に使用されることがあります。

その他の治療

面皰圧出は、器具を使ってニキビの内容物を押し出す処置です。自分で潰すのとは異なり、適切に行われれば跡が残りにくいとされています。

ケミカルピーリングは、保険適用外ですが、酸を用いて古い角質を除去し、毛穴の詰まりを改善する方法です。

治療期間と継続の重要性

ニキビ治療は即効性があるものではなく、効果が現れるまでに時間がかかります。まずは3か月を目標に、根気よく治療を続けることが大切です。面皰治療薬は炎症が改善した後も維持療法として継続することで、ニキビの再発を予防できます。

日常生活でのケア

治療と並行して、適切なスキンケアを行うことも重要です。1日1〜2回、低刺激性の洗顔料で優しく洗顔します。ゴシゴシこすらず、泡で包み込むように洗います。保湿を行い、肌のバリア機能を維持します。ニキビを触ったり潰したりしないようにします。規則正しい生活、バランスの良い食事、十分な睡眠を心がけます。


11. 粉瘤・ニキビと間違えやすい他の皮膚疾患

粉瘤やニキビと見た目が似ている皮膚疾患がいくつかあります。正確な診断には専門医の診察が必要ですが、代表的なものを紹介します。

脂肪腫

脂肪腫は、皮膚の下の皮下組織にできる脂肪細胞の塊で、良性の腫瘍です。粉瘤と同様に触るとしこりとして感じられます。

脂肪腫と粉瘤の違いとして、脂肪腫は粉瘤に比べて柔らかく、指で押すと皮膚と関係なく動きます(粉瘤は皮膚と一緒に動きます)。脂肪腫には粉瘤のような開口部(黒い点)がありません。脂肪腫は炎症を起こすことはほとんどなく、粉瘤のような臭いもありません。

おでき(癤:せつ)

おできは、毛穴に黄色ブドウ球菌などの細菌が感染して起こる感染症です。初期の段階から腫れに厚みがあり、しこりのようになります。

おできと粉瘤・ニキビの違いとして、おできは比較的急に発症し、早い段階から痛みを伴います。粉瘤は以前から存在していたしこりであることが多いのに対し、おでき は突然できます。ニキビはおでき ほど深い部分に炎症が起こりません。

おでき は軽度なら薬で治ることもありますが、膿がたまった場合は切開して膿を出す処置が必要になることがあります。

イボ(疣贅:ゆうぜい)

イボは主にウイルス感染(ヒトパピローマウイルス)や加齢によってできる皮膚の隆起です。

イボと粉瘤・ニキビの違いとして、イボは表面がざらざらしていることが多いです。粉瘤のような袋状の構造はなく、ニキビのような毛穴の炎症でもありません。ウイルス性のイボは他の部位や他の人にうつることがあります。


12. 放置するとどうなるか

粉瘤とニキビ、それぞれを放置した場合にどうなるかを解説します。

粉瘤を放置した場合

粉瘤は自然に治ることがないため、放置するとさまざまな問題が生じる可能性があります。

サイズの増大として、袋の中に老廃物がたまり続けるため、徐々に大きくなります。大きくなればなるほど、手術の傷跡も大きくなる可能性があります。

炎症・化膿として、細菌感染を起こすと炎症性粉瘤となり、赤く腫れ上がり、強い痛みを伴います。膿がたまり、破裂することもあります。

破裂として、粉瘤が破裂すると、臭いのある内容物が出てきます。また、袋の内容物が皮膚の中に散らばると、さらに強い炎症反応を起こすこともあります。

日常生活への支障として、粉瘤ができた場所によっては、衣服との摩擦で痛みを感じたり、外見上気になったりすることがあります。

悪性化として、非常にまれですが、長期間放置された粉瘤や炎症を繰り返した粉瘤から、悪性腫瘍(有棘細胞癌など)が発生したケースが報告されています。

ニキビを放置した場合

ニキビも放置すると悪化し、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。

炎症の悪化として、初期の面皰を放置すると、アクネ菌の増殖により炎症が起こり、赤ニキビ、黄ニキビへと進行します。

ニキビ跡として、炎症が強かったり、長引いたりすると、色素沈着や瘢痕(クレーター)としてニキビ跡が残ってしまいます。一度できた瘢痕を完全に消すことは難しいです。

繰り返しと慢性化として、適切な治療を行わないと、ニキビが繰り返しでき、慢性的な肌トラブルとなることがあります。

精神的な影響として、顔にできたニキビは見た目にも目立つため、自己肯定感の低下やストレスの原因になることがあります。

粉瘤もニキビも、早期に適切な対処をすることで、悪化を防ぎ、より良い状態で治すことができます。


13. 日常生活での予防とケア

粉瘤とニキビ、それぞれの予防とケアについて解説します。

粉瘤の予防について

粉瘤の明確な発生原因がわかっていないため、効果的な予防法は現時点では確立されていません。体質によるところが大きいため、清潔にしていても粉瘤ができることはあります。

できることとしては、皮膚への過度な刺激や外傷を避けること、皮膚を清潔に保つこと、粉瘤ができたら早めに医療機関を受診することなどが挙げられます。

粉瘤らしきしこりを見つけた場合は、自分で触ったり、潰そうとしたりしないでください。細菌感染を起こして炎症性粉瘤になる原因となります。

ニキビの予防とケア

ニキビは日常生活でのケアによって、ある程度予防・改善することができます。

適切な洗顔として、1日1〜2回、低刺激性の洗顔料を使って優しく洗います。ゴシゴシこすったり、洗いすぎたりすると、かえって皮膚を刺激してしまいます。洗顔後はすすぎ残しがないように、しっかり洗い流します。

保湿として、洗顔後は適切な保湿を行い、肌のバリア機能を維持します。乾燥は皮脂の過剰分泌を招くことがあります。ニキビ肌向けのノンコメドジェニック製品(毛穴を詰まらせにくい処方の製品)を選ぶとよいでしょう。

触らない・潰さないとして、ニキビを手で触ったり、自分で潰したりすることは厳禁です。手には細菌がついているため、感染を悪化させる原因になります。また、潰すことでニキビ跡が残りやすくなります。

規則正しい生活として、十分な睡眠をとり、バランスの良い食事を心がけましょう。ストレスをためないことも大切です。脂っこいものや甘いものの過剰摂取は控えましょう。

紫外線対策として、紫外線はニキビを悪化させたり、ニキビ跡を目立たせたりすることがあります。日焼け止めを使用しましょう。

化粧品の選び方として、毛穴を詰まらせにくいノンコメドジェニック処方の化粧品を選びましょう。濃いメイクは毛穴を詰まらせる原因になることがあるため、できるだけ軽めのメイクを心がけます。メイクはきちんと落としましょう。


14. 医療機関を受診すべきタイミング

以下のような場合は、自己判断せずに皮膚科などの医療機関を受診することをお勧めします。

粉瘤を疑う場合

皮膚の下にしこりがあり、徐々に大きくなってきている場合は粉瘤の可能性があります。しこりが赤く腫れて痛みがある場合は、炎症を起こしている可能性があり、早急な対応が必要です。しこりから臭いがする場合も粉瘤の可能性が高いです。「治らないニキビ」がある場合は、実は粉瘤であることも考えられます。

ニキビの場合

市販薬を使っても2か月以上改善しない場合は受診をお勧めします。炎症が強く、痛みを伴う赤ニキビや黄ニキビが多い場合も皮膚科での治療が必要です。ニキビ跡が残り始めている場合は早期治療が重要です。広範囲にニキビが広がっている場合も専門的な治療が必要です。大人になってから急にニキビが悪化した場合は、他の原因(ホルモン異常など)が隠れていることもあります。

受診する診療科

粉瘤やニキビの診察・治療は、皮膚科で受けることができます。粉瘤の手術は皮膚科のほか、形成外科でも行われています。傷跡をより目立たなくしたい場合は、形成外科専門医がいる医療機関を選ぶことも一つの選択肢です。


15. まとめ

この記事では、粉瘤とニキビの違いについて詳しく解説してきました。最後に、重要なポイントをまとめます。

粉瘤とニキビは全く異なる疾患です。粉瘤は皮膚の下にできた袋に老廃物がたまる良性腫瘍であり、ニキビは毛穴の詰まりとアクネ菌の増殖による炎症性疾患です。

見た目の違いとして、粉瘤は徐々に大きくなり数cm以上になることもありますが、ニキビは数mm程度にとどまります。粉瘤には中央に黒い点(開口部)が見られることがあり、独特の臭いを発することもあります。

治療法の違いとして、粉瘤は自然に治ることがなく、根本的には手術で袋ごと摘出する必要があります。ニキビは外用薬・内服薬による治療で改善でき、軽症であれば自然に治ることもあります。

放置のリスクとして、粉瘤を放置すると大きくなったり、炎症を起こしたりします。ニキビを放置すると炎症が悪化し、ニキビ跡が残る原因になります。

自己判断は危険です。自分で粉瘤やニキビを潰すことは、症状を悪化させる原因になります。気になる症状がある場合は、早めに皮膚科を受診しましょう。

「ニキビだと思っていたら実は粉瘤だった」というケースは少なくありません。なかなか治らないできものや、しこりが気になる場合は、自己判断せずに医療機関で適切な診断を受けることをお勧めします。早期に正しい診断を受け、適切な治療を行うことが、肌トラブルを最小限に抑えるための第一歩です。


16. 参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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