手の甲の湿疹でお悩みの方へ|原因・症状・治療法を皮膚科医が徹底解説

手の甲に赤みやかゆみ、ブツブツとした湿疹ができてお困りではありませんか。手の甲は日常生活で常に外部刺激にさらされる部位であり、湿疹が生じやすい場所のひとつです。水仕事や洗剤の使用、アルコール消毒の習慣化などにより、近年では季節や職業を問わず、多くの方が手の甲の湿疹に悩まされています。

手の甲の湿疹は「手湿疹」と呼ばれる疾患の一種であり、適切な治療とセルフケアを行うことで症状を改善できる可能性があります。しかし、放置したり誤ったケアを続けたりすると、症状が慢性化して治りにくくなることもあります。

本記事では、手の甲に生じる湿疹の原因から症状の種類、皮膚科での治療法、日常生活での予防法まで、皮膚科医の視点から詳しく解説いたします。手の甲の湿疹でお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。


目次

  1. 手の甲の湿疹とは
  2. 手の甲に湿疹ができる原因
  3. 手湿疹の種類と症状
  4. 手の甲の湿疹と間違えやすい疾患
  5. 皮膚科での診断方法
  6. 手の甲の湿疹の治療法
  7. 日常生活でのセルフケアと予防法
  8. 皮膚科を受診すべき症状
  9. よくあるご質問
  10. まとめ

1. 手の甲の湿疹とは

手の甲の湿疹は、医学的には「手湿疹」と呼ばれる疾患の一部です。手湿疹とは、手の平や指、手の甲などの表面に赤み、腫れ、水ぶくれ、かゆみ、ひび割れなどの症状が生じる炎症性皮膚疾患を指します。

日本皮膚科学会と日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会が策定した「手湿疹診療ガイドライン」によれば、手湿疹は皮膚科医が診療する頻度の高い疾患であり、一般人口の約14.5%が生涯のうちに一度は経験すると報告されています。また、皮膚科を受診する患者さんの20〜35%を占めるほど、非常に頻度の高い疾患です。

手の甲は手の平と比較して皮膚が薄いため、外部からの刺激に対して敏感であり、湿疹が生じやすい特徴があります。特に化学物質によるアレルギー性の手湿疹では、手の甲は好発部位のひとつとして知られています。

手湿疹は男性よりも女性に多い傾向があります。これは女性が家事などの水仕事を行う機会が多いことや、美容師、看護師、調理師など手湿疹を起こしやすい職業に就く割合が高いことが関係しています。また、年齢層としては20〜30歳代と50〜75歳代に多いという調査結果も報告されています。

手湿疹には急性型と慢性型があり、急性型は比較的短期間で治癒することが多いですが、慢性型では症状が長期間続き、日常生活や仕事に大きな支障をきたすことも少なくありません。原因を特定し、その原因との接触を避けることができれば根治が期待できる疾患ですが、原因が特定できない場合や適切な対処がなされない場合には難治化することがあります。

2. 手の甲に湿疹ができる原因

手の甲に湿疹ができる原因は多岐にわたります。大きく分けると「刺激性接触皮膚炎」「アレルギー性接触皮膚炎」「アトピー型手湿疹」の3つに分類されます。それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。

2-1. 刺激性接触皮膚炎

刺激性接触皮膚炎は、手湿疹の約7割を占める最も多いタイプです。皮膚に直接触れた物質の刺激によって炎症が起こるもので、アレルギーとは関係なく、刺激を受ければ誰にでも起こりうる皮膚炎です。

頻繁に水にさらされたり、石鹸、洗剤、消毒用アルコールなどの化学物質に繰り返し触れることで、皮膚の角質層が傷つきバリア機能が低下し、湿疹が生じます。最初は快適に使えていた石鹸やシャンプーでも、毎日使い続けることで徐々に刺激となり、かぶれを起こすこともあります。

刺激性接触皮膚炎の主な原因物質には以下のようなものがあります。

  • 水(頻回の手洗い)
  • 石鹸、ハンドソープ
  • 食器用洗剤、洗濯用洗剤
  • アルコール消毒液
  • シャンプー、ボディソープ
  • 漂白剤、クリーナー
  • 油脂、溶剤
  • 土、砂、ほこり

近年では、新型コロナウイルス感染症対策として手洗いやアルコール消毒の機会が増加したことで、刺激性接触皮膚炎を発症する方が増えています。

2-2. アレルギー性接触皮膚炎

アレルギー性接触皮膚炎は、特定の物質(アレルゲン)に対するアレルギー反応によって生じる皮膚炎です。刺激性接触皮膚炎と異なり、アレルゲンに感作(免疫系が記憶する状態)された人だけに起こります。

アレルギー性接触皮膚炎は、接触してからすぐに症状が出ないことがあります。遅延型のアレルギー反応で皮膚炎が起こり、通常は接触から数時間〜数日後に症状が現れます。手の甲や指、指の間などに症状が出やすく、かゆみが生じたり、小さなブツブツができたりします。

また、刺激性接触皮膚炎よりもかゆみや赤み、水ぶくれの程度が強い傾向にあります。アレルゲンが接触した部分から症状が始まるため、親指や指先、手の甲に発症することが多いです。

主なアレルゲンには以下のようなものがあります。

  • 金属(ニッケル、クロム、コバルト、金など)
  • ゴム製品(天然ゴム、合成ゴム)
  • 化粧品、香水
  • 染毛剤
  • 植物(ウルシ、ギンナン、サクラソウなど)
  • 外用薬(湿布薬、抗生物質軟膏など)
  • 防腐剤
  • 接着剤

日本における調査では、アレルギー性接触皮膚炎の原因として最も多いのは硫酸ニッケル、次いで金チオ硫酸ナトリウム、ウルシオール、パラフェニレンジアミン、塩化コバルトの順となっています。

2-3. アトピー型手湿疹

アトピー性皮膚炎を持つ方に起きやすい手湿疹が、アトピー型手湿疹です。もともと皮膚のバリア機能が低下しているため、外部刺激を受けやすく、手の甲にブツブツなどができたり、かゆくなったりします。

アトピー型手湿疹の特徴として、手の甲の炎症が手の平に比べて強いことが多く、引っ掻いてしまうと症状が悪化しやすく、跡が残ってしまう場合もあります。利き手の症状が強い場合は、日常的に触れるものが原因として考えられることがあります。

2-4. 蛋白質接触皮膚炎

食品などに含まれる蛋白質抗原がアレルゲンである場合には、すぐにアレルギー反応が出て症状が現れます。かゆみや腫れが起きやすく、アレルゲンとの接触を中止すると症状が軽快していきます。原因となるアレルゲンの中で最も多いのは食品で、そのほか動物のフケや尿、花粉なども原因になりえます。

2-5. その他の要因

上記以外にも、以下のような要因が手の甲の湿疹に関与することがあります。

皮膚の乾燥は、手湿疹の発症リスクを高める重要な要因です。乾燥によってバリア機能が低下すると、外部刺激が皮膚内部に侵入しやすくなり、炎症を起こしやすくなります。特に冬場の乾燥した時期や、加齢による皮脂分泌の減少は、手湿疹のリスクを高めます。

また、手湿疹とストレスには直接的な関係はありませんが、かゆみや痛みが続くことで日常生活に支障をきたし、精神的なストレスを感じる方も少なくありません。ストレスが自律神経のバランスを乱し、皮膚のバリア機能に影響を与える可能性も指摘されています。

3. 手湿疹の種類と症状

手湿疹は皮膚の状態によって複数のタイプに分類されます。日本皮膚科学会の手湿疹診療ガイドラインでは、臨床形態により以下の5つに分類されています。それぞれの特徴を理解することで、ご自身の症状に近いタイプを把握しやすくなります。

3-1. 角化型手湿疹

手の平に境界のはっきりした厚い鱗屑(りんせつ:皮膚表面に蓄積した角質)がみられ、時に亀裂を伴います。小水疱や明らかな赤みはみられないことが多いです。同様の病変が足の裏にも見られることがあります。

中年以降の男性に好発し、原因が不明なことが多いタイプです。慢性的に経過し、治療に難渋することもあります。

3-2. 進行性指掌角皮症(しんこうせいししょうかくひしょう)

指先や指の腹(特に利き手)が乾燥して粗くなり、指紋が見えなくなります。さらに悪化すると亀裂を生じます。いわゆる「手荒れ」の典型的なタイプです。

皮膚バリア機能の低下と、繰り返す物理的・化学的刺激が原因と考えられています。水仕事が多い主婦や美容師、飲食店員など、手をよく使う職種の方に多く見られます。

初期症状としては、親指や人差し指を中心に指先が軽くカサついたり、粉っぽくなったりします。指紋が薄くなってツルツルになったら、手荒れが始まっているサインです。進行すると、ほとんど全部の指や手の平に広がり、乾燥して皮がむけたり、炎症を起こして赤くなったりします。

3-3. 貨幣状型手湿疹

主に手の甲に貨幣(コイン)ほどの大きさの円形の湿疹ができ、強いかゆみを感じます。化学薬品などによるアレルギー性接触皮膚炎や、アトピー型手湿疹などで現れることが多い症状です。

湿疹は境界がはっきりしており、赤みを帯びた丘疹(ブツブツ)や小水疱が集まって円形を形成します。かゆみが非常に強いため、掻き壊してしまい、症状が悪化することも少なくありません。

3-4. 再発性水疱型(汗疱型)手湿疹

手の平や足の裏、手足の指の側面に、2〜5mmほどの大きさの水ぶくれが両側性・対称性に多発し、強いかゆみを伴う症状です。小水疱は次第に乾燥して落屑(皮がむける状態)し、周囲に赤みを伴うようになります。

汗の影響もあり、夏に悪化する傾向があります。原因は明らかでないことが多いとされますが、ニッケルなどの金属アレルギーの関与も論じられています。

3-5. 乾燥・亀裂型手湿疹

手の平や指全体の乾燥と亀裂が特徴の慢性手湿疹です。通常、小水疱は伴いません。皮膚のバリア機能の低下が誘因と考えられており、乾燥の影響もあるため、冬に悪化する傾向があります。

亀裂が深くなると出血を伴うこともあり、日常生活に支障をきたすことがあります。また、亀裂部分から細菌が侵入し、二次感染を起こすリスクもあります。

3-6. 手の甲に現れやすい症状のまとめ

手の甲は手の平に比べて皮膚が薄く、バリア機能が低下しやすい部位です。そのため、以下のような症状が現れやすくなります。

初期症状としては、軽い乾燥やカサつき、赤みなどが見られます。進行すると、かゆみを伴う発疹やブツブツ、小水疱が生じます。さらに悪化すると、皮膚が厚くなる苔癬化(たいせんか)や、ひび割れ、出血、ジュクジュクした滲出液を伴う状態になることもあります。

症状は時間とともに変化し、その程度や現れ方は個人差があります。痒み、痛み、熱感、乾燥、ひび割れ、水疱など多岐にわたる症状が組み合わさって現れることが特徴です。

4. 手の甲の湿疹と間違えやすい疾患

手の甲に湿疹のような症状が現れる疾患は手湿疹だけではありません。適切な治療を受けるためには、正確な診断が重要です。ここでは、手湿疹と鑑別(区別)が必要な主な疾患について解説します。

4-1. 手白癬(てはくせん)

いわゆる「手の水虫」です。水虫は足だけでなく手にもできます。手の平の皮膚が厚くなり、鱗屑(皮がむける状態)がみられます。かゆみはないか、あっても強くないのが特徴です。

水を長時間使う仕事に従事する人に多くみられます。手白癬がある人は、足や爪にも白癬(水虫)があることが多いです。

手湿疹と手白癬は見た目が似ていることがありますが、原因が全く異なります。手白癬は白癬菌という真菌(カビ)による感染症であり、ステロイド外用薬を使用すると悪化することがあります。そのため、鱗屑の中に白癬菌がいるかどうかを顕微鏡で調べることが重要です。白癬と診断されれば、抗真菌薬の内服または外用で完全に治癒が可能です。

4-2. 掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)

手の平や足の裏に「膿」を含む水ぶくれが多発する疾患です。膿といっても細菌感染ではなく、無菌性の膿疱が特徴です。

原因として、喫煙や金属アレルギーの関与、また扁桃腺、歯、鼻などの細菌による慢性炎症が関係していることがあります。手湿疹の中でも汗疱型と見た目が似ていますが、治療法が異なるため、正確な診断が必要です。

4-3. 乾癬(かんせん)

乾癬は、皮膚の細胞が過剰に増殖し、赤みのある盛り上がった発疹の上に銀白色の鱗屑が付着する慢性の皮膚疾患です。手にも症状が現れることがあり、特に掌蹠膿疱症との鑑別が重要になります。

乾癬は全身のどこにでも発症する可能性があり、肘、膝、頭皮などにも症状がみられることが多いです。

4-4. 皮膚筋炎(ゴットロン徴候)

手の甲の関節部分(指の付け根や指の関節)に特徴的な赤い紅斑が現れる場合、「皮膚筋炎」という膠原病の一症状である可能性があります。この特徴的な皮膚症状は「ゴットロン徴候」と呼ばれています。

皮膚筋炎は、悪性腫瘍や間質性肺炎を合併しやすいため、早期発見・早期治療が重要です。手の甲の関節部分に限局した紅斑が続く場合は、速やかに皮膚科を受診してください。

4-5. 疥癬(かいせん)

疥癬は、ヒゼンダニというダニの一種が皮膚に寄生して起こる感染症です。強いかゆみを伴い、手首や指の間に特徴的な疥癬トンネルという線状の皮疹がみられます。

家族内感染や施設内感染を起こすことがあり、正確な診断と適切な治療が必要です。

5. 皮膚科での診断方法

手の甲の湿疹で皮膚科を受診すると、以下のような流れで診断が行われます。

5-1. 問診

まず、症状がいつ頃から始まったか、どのような状況で悪化するか、これまでの治療歴、職業、趣味、日常生活で使用している製品、アレルギーの既往歴、家族歴などについて詳しく聞き取ります。

特に、水仕事の頻度、使用している洗剤や石鹸の種類、手袋の使用状況、最近新しく使い始めた製品がないかなどは重要な情報です。また、手以外の部位にも症状がないかを確認します。例えば、耳の後ろや背中にも病変があればシャンプーの影響を疑うなど、全身を観察することで原因を推測できることがあります。

5-2. 視診・触診

皮膚の状態を直接観察し、湿疹の分布、形態、程度などを確認します。手の甲だけでなく、手の平、指、爪、手首、前腕なども含めて全体を観察します。

湿疹の形状や分布パターンから、刺激性接触皮膚炎なのか、アレルギー性接触皮膚炎なのか、あるいは他の疾患なのかを推測します。

5-3. 真菌検査(直接鏡検)

手白癬(手の水虫)との鑑別のため、鱗屑を採取して顕微鏡で白癬菌の有無を確認します。手湿疹と手白癬は見た目が似ていることがあり、治療法が全く異なるため、この検査は非常に重要です。

5-4. パッチテスト

アレルギー性接触皮膚炎が疑われる場合に行われる検査です。原因と考えられる物質やパッチテスト試薬を専用の絆創膏(パッチテストユニット)に付け、背中や腕の外側に2日間貼付します。

パッチテストの判定は複数回行います。貼付した2日後にパッチテストユニットを除去して1回目の判定を実施し、3〜4日後、そして1週間後にも判定を行います。パッチテストの結果により、アレルギーの原因物質を特定することができます。

ジャパニーズスタンダードアレルゲン(JSA)という日本で頻度の高いアレルゲンのセットを用いて検査することが一般的です。

5-5. 血液検査

必要に応じて、アレルギーの有無や膠原病などの全身疾患を調べるために血液検査を行うことがあります。

5-6. 皮膚生検

診断が難しい場合には、皮膚の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる皮膚生検を行うこともあります。

6. 手の甲の湿疹の治療法

手湿疹の治療において最も重要なのは、原因物質を特定し、その接触を避けることです。その上で、症状に応じた外用薬や内服薬による治療を行います。

6-1. 原因物質の除去・回避

洗剤で手荒れを起こす場合は、手袋を使用したり、低刺激性の別の製品に変えたりするようにしましょう。アレルギー性の手湿疹の場合には、検査で推測されたアレルゲンをできるだけ避けて生活することが重要です。

原因物質との接触を完全に断つことができれば、根治が期待できます。しかし、家事や仕事の都合上、完全に避けることが難しい場合も多いのが現実です。そのような場合は、できる限り接触を減らす工夫をしながら、薬物療法を併用します。

6-2. ステロイド外用薬

皮膚の炎症を抑える治療の第一選択薬がステロイド外用薬です。抗炎症作用により、赤み、腫れ、かゆみなどの症状を速やかに改善します。

ステロイド外用薬は、抗炎症作用の強さによって以下の5段階(5ランク)に分類されています。

  • ストロンゲスト(Strongest):最も強い
  • ベリーストロング(Very Strong):とても強い
  • ストロング(Strong):強い
  • ミディアム(Medium):普通
  • ウィーク(Weak):弱い

手の甲や手の平は、他の部位(顔面や陰部など)よりも皮膚が厚く、薬の吸収率が低いため、症状に応じて強めのステロイドを使用することがあります。特に手の平や足の裏は角質層が厚く毛包脂腺系がないため吸収が悪く、ストロンゲストランクの薬剤を使用することもあります。

一方、顔面や陰部は吸収率が高いため、同じ症状でもミディアム以下のランクを使用します。部位によってステロイドの吸収率が大きく異なるため、手に処方されたステロイドを勝手に顔に塗ることは避けてください。

ステロイド外用薬の剤形には軟膏タイプとクリームタイプがあります。軟膏タイプは刺激が少なく、亀裂や傷がある場合にも使いやすいです。クリームタイプはべたつきが少なく使いやすいですが、傷がある場合は刺激を感じることがあります。

水仕事などで定期的に手を洗う必要がある場合は、保湿剤やステロイド剤も洗い流されてしまうため、こまめに塗り直すことが大切です。

6-3. ステロイド外用薬の適切な使用量

ステロイド外用薬の効果を十分に発揮するためには、適切な量を塗布することが重要です。1FTU(フィンガーチップユニット)という単位が目安として使われます。

1FTUとは、大人の人差し指の先端から第一関節までチューブから薬を出した量(チューブの口径が5mm程度の場合は約0.5g)のことで、この量で大人の手のひら2枚分の面積に塗布するのが適量とされています。

べたつきを気にして少量しか塗らない方も多いですが、少なすぎると十分な効果が得られません。「少し多いかな」と感じるくらいの量をしっかり塗布することが大切です。

6-4. 保湿剤

手湿疹の治療において、保湿剤は非常に重要な役割を果たします。保湿剤は皮膚に水分と油分を補給し、弱くなったバリア機能をサポートします。

皮膚科で処方される保湿剤には、ヘパリン類似物質(ヒルドイドなど)、ワセリン、尿素製剤などがあります。症状や部位に応じて適切な保湿剤を選択します。

保湿剤は、手を洗った後や入浴後15分以内に塗布すると効果的です。1日4回以上、こまめに塗り直すことが推奨されています。就寝前には綿の手袋を着用すると、保湿効果がより高まります。

ステロイド外用薬と保湿剤を併用することで、より効果的な治療が期待できます。医師の指示に従って使用してください。

6-5. 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬(内服薬)

かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服薬が処方されることがあります。これらの薬は、かゆみを軽減し、掻き壊しによる症状の悪化を防ぐ効果があります。

掻くことで湿疹は悪化し、悪循環に陥りやすいため、かゆみを早めにコントロールすることが重要です。

6-6. その他の治療法

重症例や難治例では、タクロリムス軟膏(免疫抑制外用薬)や光線療法(紫外線療法)、免疫抑制薬の内服などが検討されることがあります。

また、近年では新しい治療薬の開発も進んでおり、従来の治療で効果が不十分な場合の選択肢が広がっています。

7. 日常生活でのセルフケアと予防法

手の甲の湿疹を予防し、症状を改善するためには、日常生活でのセルフケアが非常に重要です。以下のポイントを参考に、手肌を守る習慣を身につけましょう。

7-1. こまめな保湿

手荒れや手湿疹の予防・改善の基本は保湿です。手を洗った後や水仕事の後は、必ずハンドクリームや保湿剤を塗布しましょう。

保湿剤の選び方としては、以下の成分が含まれているものがおすすめです。

  • セラミド:肌のバリア機能を補強
  • ヘパリン類似物質:保湿効果が高く、肌の水分保持能力を向上
  • ワセリン:肌表面に膜を張り、水分蒸発を防ぐ
  • 尿素:角質を柔らかくし、乾燥を防ぐ
  • シアバター:高い保湿効果
  • グリセリン:角層に水分を与える

水分と油分の両方を補えるタイプの保湿剤を選ぶとより効果的です。ハンドクリームを塗る際は、手の甲だけでなく、指の間や爪の周り、指先までしっかり塗り広げましょう。

就寝前にハンドクリームをたっぷり塗り、綿やシルクの手袋を着用して寝ると、集中的な保湿ケアができます。また、無意識に皮膚を掻きむしることも防げます。

7-2. 刺激物質との接触を避ける

水仕事の際には、ゴム手袋やビニール手袋を着用して、洗剤などが直接手に触れないようにしましょう。ただし、ゴム手袋自体がアレルゲンとなることもあるため、その場合は内側に綿の手袋を着用するか、ポリエチレン製の手袋を使用してください。

洗剤は低刺激性のものを選び、必要以上に濃い濃度で使用しないようにしましょう。また、熱いお湯は皮脂を奪いやすいため、ぬるま湯を使用することをおすすめします。

7-3. 手洗いの工夫

手洗いは感染症予防に重要ですが、頻回の手洗いは手荒れの原因になります。以下の工夫をしてみましょう。

石鹸やハンドソープは低刺激性のものを選びましょう。泡立てネットなどを使用して十分に泡立てることで、少量でもしっかり洗浄できます。すすぎは十分に行い、洗浄剤が残らないようにしましょう。特に指の間の付け根部分は洗浄剤が残りやすいため注意が必要です。

手を拭く際は、ゴシゴシこすらず、清潔なタオルで押さえるように水分を取ります。手洗い後は15分以内に保湿剤を塗布しましょう。

7-4. アルコール消毒の注意点

アルコール消毒液は手指の衛生管理に効果的ですが、アルコール成分は皮膚の水分や油分を奪いやすいため、手荒れの原因になりやすいです。

消毒液の中には保湿成分を配合した製品もあるため、そうした製品を選ぶことで刺激を軽減できます。また、消毒後も保湿剤を塗布する習慣をつけましょう。

手荒れがひどい場合は、石鹸での手洗いとアルコール消毒のバランスを見直すことも必要です。感染症対策を怠らない範囲で、手への負担を減らす工夫を心がけてください。

7-5. 生活環境の整備

室内の湿度を適切に保つことも重要です。特に冬場は暖房により室内が乾燥しやすいため、加湿器を使用するなどして湿度50〜60%程度を維持しましょう。

また、手袋(綿製など)を着用して直接物に触れる機会を減らすことも、刺激を避ける有効な方法です。

7-6. 掻かない工夫

かゆみを感じても、掻き壊してしまうと症状が悪化します。かゆいときは、氷嚢や冷やしタオルで患部を冷やすと、一時的にかゆみが軽減します。爪は短く切り、清潔に保ちましょう。

夜間に無意識に掻いてしまう場合は、綿の手袋を着用して就寝することで、掻き壊しを防ぐことができます。

8. 皮膚科を受診すべき症状

軽度の手荒れであれば、保湿ケアや市販薬で改善することもありますが、以下のような症状がある場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。

8-1. 早めの受診が望ましい症状

以下のような症状がみられる場合は、皮膚科の受診を検討してください。

保湿ケアを続けても改善しない場合は、単なる乾燥ではなく、湿疹や他の皮膚疾患の可能性があります。また、市販薬(ステロイド外用薬など)を5〜6日間使用しても症状が改善しない場合も、医療機関での診察が必要です。

かゆみが強く、日常生活に支障をきたしている場合や、赤み、腫れ、水ぶくれなどの炎症症状が強い場合も受診をおすすめします。

湿疹が広範囲に広がっている場合、ジュクジュクした滲出液や膿が出ている場合は、二次感染を起こしている可能性もあるため、早急な受診が必要です。

8-2. 早期受診のメリット

手湿疹は、早期に適切な治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、早期改善が期待できます。一方、放置したり不適切なケアを続けたりすると、症状が慢性化し、治りにくくなることがあります。

皮膚科では、症状や原因に合わせて適切な薬を処方してもらえるほか、日常生活でのケア方法についても具体的な指導を受けられます。市販薬では効果が得られない場合でも、医療機関でしか処方できない強力な外用薬や内服薬を使用することで、症状の改善が期待できます。

手の甲の湿疹でお悩みの方は、我慢せずに皮膚科を受診してください。

9. よくあるご質問

Q1. 手湿疹は他の人にうつりますか?

A. 手湿疹は感染症ではないため、他の人にうつることはありません。手湿疹の原因は肌のバリア機能の低下や刺激物質・アレルゲンへの反応であり、ウイルスや細菌による感染ではありません。ただし、手白癬(手の水虫)の場合は真菌感染症のため、他の人に感染する可能性があります。

Q2. ステロイド外用薬は長期間使用しても大丈夫ですか?

A. ステロイド外用薬を長期間同じ部位に塗り続けると、皮膚が薄くなる、毛細血管が拡張して赤みが出るなどの局所的な副作用が生じる可能性があります。しかし、医師の指示に従って適切に使用すれば、副作用のリスクを最小限に抑えながら治療効果を得ることができます。
自己判断で使用を中止したり、逆に必要以上に長期間使用したりせず、医師の指導のもとで使用することが大切です。症状が改善しても、急に使用を中止すると再発することがあるため、徐々に減量していく方法(プロアクティブ療法)が推奨されることもあります。

Q3. 手湿疹は完治しますか?

A. 手湿疹の原因を特定し、その原因との接触を避けることができれば、完治が期待できます。ただし、原因が不明な場合や、仕事などの関係で原因物質との接触を完全に避けられない場合は、症状をコントロールしながら長期的に付き合っていく必要があることもあります。
適切な治療とセルフケアを継続することで、症状を最小限に抑え、日常生活への支障を減らすことは十分に可能です。

Q4. 市販のハンドクリームと処方薬の違いは何ですか?

A. 市販のハンドクリームは主に保湿を目的とした製品で、乾燥を防いだり、軽度の手荒れを改善したりする効果があります。一方、皮膚科で処方される薬には、炎症を抑えるステロイド外用薬や、医療用の保湿剤(ヘパリン類似物質など)が含まれます。
湿疹による炎症が起きている場合は、ハンドクリームだけでは改善が難しく、ステロイド外用薬などの治療が必要です。症状に応じて適切な薬を使い分けることが大切です。

Q5. 手湿疹があるときに手洗いやアルコール消毒をしても大丈夫ですか?

A. 感染症対策として手洗いやアルコール消毒は重要ですが、手湿疹がある方にとっては刺激になることがあります。感染症対策を怠らない範囲で、以下の工夫をしてみてください。
低刺激性の石鹸やハンドソープを使用し、保湿成分配合の消毒液を選びましょう。手洗いや消毒後は必ず保湿剤を塗布してください。症状がひどい場合は、皮膚科医に相談して、適切な対処法を確認することをおすすめします。

10. まとめ

手の甲の湿疹(手湿疹)は、多くの方が経験する身近な皮膚トラブルです。原因は刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、アトピー型手湿疹など多岐にわたりますが、適切な診断と治療、日常生活でのセルフケアにより、症状を改善・コントロールすることが可能です。

重要なポイントをまとめると、以下のようになります。

手の甲は皮膚が薄く、外部刺激に敏感なため、湿疹が生じやすい部位です。原因を特定し、その原因との接触を避けることが治療の基本となります。ステロイド外用薬と保湿剤を併用した治療が一般的に行われます。こまめな保湿、刺激物質の回避、手洗い方法の工夫などのセルフケアが重要です。

市販薬で改善しない場合や、症状が強い場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。手の甲の湿疹を放置すると慢性化して治りにくくなることがあるため、気になる症状があれば、お早めにご相談ください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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