12月も油断禁物!秋の花粉症の原因・症状・治療法を医師が徹底解説


はじめに

「花粉症は春だけのもの」と思っていませんか?実は11月に入っても花粉症の症状に悩まされる方は少なくありません。秋から冬にかけての時期に、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった症状が続いている方は、秋の花粉症の可能性があります。

花粉症患者のうち、約10〜15%は秋に症状がみられるとされており、決して珍しい病態ではありません。特に12月は、秋の花粉飛散が終盤を迎える一方で、翌春に向けたスギ花粉の「狂い咲き」が観測されることもあり、複合的な要因でアレルギー症状が出やすい時期といえます。

本記事では、12月に花粉症の症状が出る原因、主な症状と風邪との見分け方、そして効果的な治療法と対策について、医学的な観点から詳しく解説します。毎年この時期に原因不明の鼻炎症状にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。


目次

  1. 花粉症とは何か
  2. 12月に花粉症が起こる原因
  3. 秋の花粉症の主な症状
  4. 花粉症と風邪の見分け方
  5. 秋の花粉症で注意すべき合併症
  6. 花粉症の検査方法
  7. 花粉症の治療法
  8. 日常生活でできるセルフケア・予防対策
  9. 医療機関を受診すべきタイミング
  10. まとめ

1. 花粉症とは何か

花粉症の定義と発症メカニズム

花粉症とは、植物の花粉が原因で引き起こされるアレルギー性疾患であり、医学的には「季節性アレルギー性鼻炎」または「季節性アレルギー性結膜炎」と呼ばれます。スギやヒノキ、ブタクサ、ヨモギなどの植物の花粉が鼻や目の粘膜に付着することで、免疫反応が過剰に働き、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどの症状が現れます。

花粉症の発症メカニズムは、IgE抗体を介した即時型アレルギー反応(I型アレルギー)に分類されます。花粉が体内に侵入すると、免疫システムがこれを「異物」と認識し、排除するためのIgE抗体を産生します。このIgE抗体は「マスト細胞」(肥満細胞)に結合し、次に同じ花粉が侵入した際に化学物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)を放出します。これらの物質が鼻や目の神経や血管を刺激することで、アレルギー症状が引き起こされるのです。

花粉症の有病率

日本における花粉症の有病率は年々増加傾向にあります。2019年に行われた全国疫学調査では、約38.8%の方がスギ花粉症を有していることが報告されました。また、東京都が2016年に実施した調査では、都民のスギ花粉症推定有病率は48.8%に達しており、まさに「国民病」といえる状況です。

近年では花粉症発症の低年齢化も進んでおり、10代以下の小児でも15%近くが花粉症を発症しているというデータもあります。さらに、複数の花粉に反応する方や、花粉症と通年性アレルギー性鼻炎を併発している方も増えており、ほぼ一年中症状に悩まされるケースも珍しくありません。


2. 12月に花粉症が起こる原因

秋の花粉の種類と飛散時期

12月に花粉症の症状が出る主な原因は、秋に飛散する雑草花粉と、一部地域で観測されるスギ花粉の「狂い咲き」です。

秋の花粉症の原因となる代表的な植物には、以下のものがあります。

(1)ブタクサ(キク科)

ブタクサは、日本で最初に報告された花粉症の原因植物です。8月から10月にかけて黄色い花を咲かせ、主に河川敷や空き地、道端などに自生しています。関東地方では8月下旬から10月にかけてピークを迎えますが、地域や気候条件によっては11月頃まで飛散が続くことがあります。

ブタクサ花粉の特徴として、粒子がスギ花粉の約半分程度と小さく、気管支の奥まで入り込みやすい点が挙げられます。そのため、鼻や目の症状だけでなく、喘息様の咳症状を引き起こすこともあります。

(2)ヨモギ(キク科)

ヨモギは食用や薬用としても知られる植物ですが、8月中旬から10月にかけて花粉を飛散させます。道端や土手、公園など、私たちの生活圏内に広く分布しており、気づかないうちに花粉に接触している可能性があります。

(3)カナムグラ(アサ科)

カナムグラは8月下旬から11月にかけて花粉を飛散させる植物で、秋の花粉症シーズンの後半まで症状の原因となることがあります。つる性の植物で、道端や空き地、垣根などに絡みついて生育しています。

スギ花粉の「狂い咲き」

春の花粉症の代表であるスギですが、実は秋にも少量の花粉が飛散することがあります。これは「狂い咲き」と呼ばれる現象で、秋の気温が異常に高い場合に、本来は休眠に入るべき雄花が季節外れに開花してしまうことで起こります。

通常、スギの雄花は6月から10月にかけて形成され、11月上旬には休眠状態に入ります。そして冬の寒さを経て、翌年の春に花粉を飛散させます。しかし、近年の地球温暖化の影響もあり、10月から12月にかけてわずかながらスギ花粉が観測される年があります。北海道を除く地域では、11月をピークとしてこの現象が確認されており、スギ花粉症の方は秋にも症状が出る可能性があることを念頭に置いておく必要があります。

秋の花粉と春の花粉の違い

秋の花粉症と春の花粉症では、いくつかの重要な違いがあります。

まず、原因となる植物の違いです。春はスギやヒノキなどの樹木花粉が主な原因ですが、秋はブタクサやヨモギなどの雑草花粉が中心となります。

次に、花粉の飛散距離の違いです。春のスギ花粉は数十キロメートルから数百キロメートルにわたって飛散しますが、秋の雑草花粉は数十メートルから数百メートル程度と限定的です。これは、雑草は樹木に比べて背が低く、風に乗って遠くまで花粉を飛ばすことができないためです。

この特性を利用すれば、秋の花粉症は原因植物の自生地を避けることで、ある程度症状を軽減できる可能性があります。

12月特有のアレルギー要因

12月は花粉以外にも、アレルギー症状を悪化させる要因が重なりやすい時期です。

(1)ダニアレルゲンの増加

夏に繁殖したダニのフンや死骸が、秋になって乾燥し、空気中に浮遊しやすくなります。12月は室内のダニアレルゲン濃度が年間で最も高くなる時期であり、花粉症とダニアレルギーを併発している方は症状が悪化しやすくなります。

(2)気温の低下と乾燥

12月は朝晩の冷え込みが厳しくなり、空気も乾燥してきます。乾燥した空気は鼻や喉の粘膜を刺激し、アレルギー症状を悪化させる要因となります。

(3)寒暖差アレルギー

12月は一日の気温差が大きくなりやすく、「寒暖差アレルギー」(医学的には「血管運動性鼻炎」)を発症する方もいます。これは花粉症とは異なり、明確なアレルゲンが存在しないものの、気温差が鼻の粘膜を刺激することで、くしゃみや鼻水などの症状が現れる状態です。特に気温差が7度以上になると発症しやすいとされています。


3. 秋の花粉症の主な症状

鼻の三大症状

花粉症の鼻症状として代表的なものは、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの三つです。

くしゃみは花粉が鼻の粘膜に付着した際に、これを体外に排出しようとする反応です。花粉症のくしゃみは連続して何度も出るのが特徴で、発作のように止まらなくなることもあります。特に朝起きた時や、花粉の飛散量が多い日中に症状が強くなる傾向があります。

鼻水は、鼻の粘膜から分泌される粘液が増加することで起こります。花粉症の鼻水は透明でサラサラとした水様性であることが特徴で、何気なくうつむいただけで鼻水が垂れてくるほど大量に出ることもあります。

鼻づまりは、鼻の粘膜が炎症を起こして腫れ上がり、空気の通り道が狭くなることで起こります。両側の鼻が詰まることも多く、口呼吸を余儀なくされると、喉の乾燥や口臭、睡眠の質の低下などを招くことがあります。

目の三大症状

目に現れる花粉症の症状として代表的なものは、かゆみ、充血、涙です。

目のかゆみは、花粉が結膜(まぶたの裏側と白目を覆う粘膜)に付着し、アレルギー反応を引き起こすことで生じます。かゆみのあまり目をこすってしまうと、症状が悪化したり、角膜を傷つけたりする恐れがあるため注意が必要です。

充血は、目の血管が拡張することで起こります。白目が赤く見えるだけでなく、ゴロゴロとした異物感や、目やにが出ることもあります。

涙が止まらないのも花粉症の特徴的な症状です。これは花粉を洗い流そうとする体の防御反応ですが、日常生活に支障をきたすほど涙が出続けることもあります。

秋の花粉症特有の症状

秋の花粉症では、春の花粉症と比べて、喉や咳の症状が前面に出やすいという特徴があります。

これは、秋の花粉(特にブタクサ)がスギ花粉に比べて粒子が小さく、気管支の奥まで入り込みやすいためです。喉のイガイガ感や違和感、乾いた咳などの症状が出ることがあり、場合によっては喘息のような症状を引き起こすこともあります。

また、秋は風邪やインフルエンザが流行し始める時期でもあるため、花粉症の症状を風邪と勘違いしてしまう方も少なくありません。症状が長引く場合は、花粉症の可能性も考慮して医療機関を受診することをおすすめします。

その他の全身症状

花粉症は鼻や目だけでなく、全身にさまざまな症状を引き起こすことがあります。

体のだるさや倦怠感、頭痛や頭重感は、鼻づまりによる酸素不足や睡眠の質の低下が原因で起こることがあります。また、花粉症の症状そのものがストレスとなり、集中力の低下やイライラ感、食欲不振などを招くこともあります。

まれに微熱が出ることもありますが、花粉症で高熱が出ることはほとんどありません。高熱がある場合は、風邪やインフルエンザなど他の疾患を疑う必要があります。

皮膚症状として、顔や首などに湿疹やかゆみが出ることもあります。これは花粉が皮膚に付着することで起こる「花粉皮膚炎」の可能性があります。


4. 花粉症と風邪の見分け方

症状の違い

11月は花粉症と風邪の両方が起こりやすい時期であり、症状が似ているため混同しやすいという問題があります。しかし、いくつかのポイントを確認することで、ある程度の鑑別が可能です。

(1)くしゃみの出方

花粉症のくしゃみは連続して何度も出るのが特徴です。家から外に出て数分以内にくしゃみが連発する場合は、花粉症の可能性が高いといえます。一方、風邪のくしゃみは単発で、連続して出ることはあまりありません。

(2)鼻水の性状

花粉症の鼻水は透明でサラサラとした水様性であるのに対し、風邪の鼻水は粘り気があり、黄色っぽい色をしていることが多いです。鼻をかんだ後に鼻水の状態をチェックしてみましょう。

(3)発熱の有無

花粉症で熱が出ることはまれで、出たとしても微熱程度です。高熱(38度以上)がある場合は、風邪やインフルエンザなどの感染症を疑う必要があります。

(4)目のかゆみ

目のかゆみは花粉症に特徴的な症状です。風邪では目に症状が出ることはほとんどないため、目のかゆみがあれば花粉症の可能性が高くなります。

(5)症状の持続期間

風邪の症状は通常、数日から1週間程度で自然に改善します。一方、花粉症は原因となる花粉が飛散している間は症状が続きます。2週間以上症状が続く場合は、花粉症を強く疑いましょう。

(6)天候との関連

花粉症は晴れた日や風が強い日に症状が悪化し、雨の日は症状が軽くなる傾向があります。風邪では天候による症状の変動はほとんどありません。

花粉症と風邪の比較表

項目花粉症風邪
くしゃみ連続して出る単発
鼻水透明・サラサラ黄色っぽい・粘り気がある
鼻づまり両側が詰まることが多い片側が詰まることが多い
発熱なし(あっても微熱)あり(高熱になることも)
目のかゆみありほとんどなし
喉の痛みイガイガ感程度強い痛み
全身症状軽度倦怠感・関節痛など
症状の持続花粉飛散中は続く数日〜1週間

5. 秋の花粉症で注意すべき合併症

花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)

花粉症の方が注意すべき合併症の一つに、「花粉-食物アレルギー症候群」(PFAS: Pollen-Food Allergy Syndrome)があります。これは、花粉症の方が特定の果物や野菜を食べた際に、口や喉にアレルギー症状が出る病態です。

PFASは、花粉に含まれるアレルゲン(タンパク質)と、果物や野菜に含まれるアレルゲンの構造が似ているために起こります。花粉に感作された(体がアレルギー反応を起こすようになった)方の免疫システムが、似た構造を持つ食物のアレルゲンにも反応してしまうのです。これを「交差反応」といいます。

秋の花粉症で特に注意が必要なのは、ブタクサ花粉とウリ科の果物(メロン、スイカなど)の交差反応です。ブタクサ花粉症の方がこれらの果物を食べると、唇や口の中にかゆみやピリピリ感、イガイガ感が出ることがあります。

PFASの症状は口腔内に限局することが多いですが、まれに腹痛や下痢、蕁麻疹、呼吸困難などの全身症状に発展することもあります。非常にまれですが、アナフィラキシーショックを起こす可能性もあるため、症状が出た場合は無理に食べ続けないことが大切です。

なお、PFASの原因となるアレルゲンの多くは熱に弱いため、加熱調理することで症状を起こさずに食べられる場合があります。

主な花粉と交差反応を起こしやすい食物の組み合わせは以下の通りです。

原因花粉交差反応を起こしやすい食物
ブタクサメロン、スイカ、バナナ、キュウリ
ヨモギセロリ、ニンジン、マンゴー
スギトマト
シラカンバリンゴ、モモ、サクランボ、大豆(豆乳)

気管支喘息との関連

秋の花粉症は、気管支喘息を悪化させる要因となることがあります。特にブタクサ花粉は粒子が小さいため、気管支の奥まで入り込みやすく、喘息の発作を引き起こす可能性があります。

喘息のある方は、秋の花粉シーズンには特に注意が必要です。呼吸時にヒューヒュー、ゼイゼイといった喘鳴(ぜんめい)が聞こえる場合や、夜間や早朝に咳や息苦しさが悪化する場合は、早めに医療機関を受診してください。

副鼻腔炎(蓄膿症)

花粉症による鼻の炎症が長引くと、副鼻腔(鼻の周囲にある空洞)にも炎症が波及し、副鼻腔炎(蓄膿症)を合併することがあります。

副鼻腔炎を合併すると、鼻づまりが悪化するだけでなく、頬や額の痛み、黄色や緑色の膿性鼻水、嗅覚の低下、発熱などの症状が出ることがあります。これらの症状がある場合は、耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。


6. 花粉症の検査方法

血液検査(特異的IgE抗体検査)

花粉症の診断に最もよく用いられるのが、血液検査による特異的IgE抗体検査です。この検査では、特定のアレルゲン(スギ花粉、ヒノキ花粉、ブタクサ花粉など)に対するIgE抗体の量を測定します。

検査結果はクラス0からクラス6までの7段階で表され、数値が高いほどそのアレルゲンに対する感作(体がアレルギー反応を起こす準備ができている状態)が強いことを示します。

代表的な検査キットとしては、39種類のアレルゲンを一度に調べられる「Viewアレルギー39」や、指先から少量の血液を採取して8種類のアレルゲンを約20分で調べられる「イムノキャップラピッド」などがあります。

ただし、IgE抗体検査の結果が陽性であっても、必ずしも症状が出るとは限りません。あくまで診断の参考であり、最終的な診断は症状の時期や経過と合わせて総合的に判断されます。

参考:日本アレルギー学会

血中総IgE値測定

血中総IgE値測定は、体内にあるIgE抗体の総量を調べる検査です。アレルギー体質の有無や程度を推測するのに役立ちます。

一般的に、成人の基準値は170 IU/ml以下とされています。この値が高い場合はアレルギー疾患のリスクが高いことを示唆しますが、総IgE値が高いからといって必ずしもアレルギー症状が出るわけではありません。

皮膚テスト

皮膚テストは、皮膚にアレルゲンを少量付けて反応を見る検査です。代表的なものにプリックテストがあります。

プリックテストでは、前腕の皮膚にアレルゲンを滴下し、専用の針で軽く刺して皮膚内に入れます。アレルギーがある場合は、15分程度で発赤や膨疹(蚊に刺されたような腫れ)が現れます。

鼻汁好酸球検査

鼻汁好酸球検査は、鼻水に含まれる好酸球(白血球の一種でアレルギー反応に関与する細胞)の量を調べる検査です。

花粉症などのアレルギー性鼻炎では、鼻汁中の好酸球が増加します。この検査は花粉症と感染性の鼻炎を区別するのに有用です。

鼻粘膜誘発テスト

鼻粘膜誘発テストは、鼻の粘膜に原因と考えられる花粉エキスを付けて反応を見る検査です。くしゃみや鼻水、鼻づまりなどの症状が誘発されれば、その花粉に対するアレルギーがあると判断できます。


7. 花粉症の治療法

薬物療法(対症療法)

花粉症の治療の中心となるのが、症状を抑える薬物療法です。症状の種類や程度に応じて、以下のような薬が使用されます。

(1)抗ヒスタミン薬

アレルギー反応を引き起こすヒスタミンの働きをブロックする薬で、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどの症状に効果があります。内服薬が中心ですが、点鼻薬や点眼薬もあります。

抗ヒスタミン薬には第一世代と第二世代があります。第一世代は効果が強い反面、眠気などの副作用が出やすいのが特徴です。現在は眠気の少ない第二世代抗ヒスタミン薬が主流となっており、日常生活への影響を最小限に抑えながら症状をコントロールできます。

(2)抗ロイコトリエン薬

ロイコトリエンは血管を拡張させる作用があり、鼻づまりの原因となる化学物質です。抗ロイコトリエン薬はこの物質の働きを抑え、特に鼻づまりの症状に効果を発揮します。

(3)ステロイド点鼻薬

鼻の粘膜に直接噴霧するステロイド薬で、強い抗炎症作用により、鼻の三大症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)すべてに効果があります。局所投与のため全身への副作用が少なく、花粉症治療の重要な選択肢となっています。

(4)点眼薬

目のかゆみや充血などの症状には、抗ヒスタミン成分や抗アレルギー成分を含む点眼薬が使用されます。症状が強い場合は、ステロイドを含む点眼薬が処方されることもありますが、眼圧上昇などの副作用があるため、眼科での管理が必要です。

初期療法(予防的治療)

花粉症では、症状が出る前から薬を服用し始める「初期療法」が効果的です。花粉の飛散開始時期の1〜2週間前から抗ヒスタミン薬などを服用し始めることで、鼻の粘膜が過敏になるのを抑え、シーズン中の症状を軽くすることができます。

毎年同じ時期に花粉症の症状が出る方は、過去の経験をもとに、症状が出始める前から治療を開始することをおすすめします。

舌下免疫療法(根治療法)

舌下免疫療法は、花粉症を根本的に改善することを目指す治療法です。原因となるアレルゲン(スギ花粉またはダニ)のエキスを含む錠剤を毎日舌の下に置き、少しずつ体をアレルゲンに慣らしていくことで、アレルギー反応を起こしにくい体質に変えていきます。

この治療法は3年から5年の継続が必要ですが、適切に治療を行った患者さんの約80%が効果を実感しており、約30%の方は内服薬が不要になるとされています。従来の対症療法とは異なり、花粉症を根本から改善できる唯一の治療法といえます。

現在、日本で舌下免疫療法が保険適用となっているのは、スギ花粉症とダニアレルギー性鼻炎の2種類です。スギ花粉症の場合、花粉の飛散がない6月から11月下旬頃が治療開始の適正時期となります。つまり、11月は来シーズンに向けて舌下免疫療法を開始するのに最適な時期といえます。

参考:鳥居薬品 舌下免疫療法専門サイト

治療法の選択

花粉症の治療法は、症状の種類や程度、生活スタイル、患者さんの希望などを考慮して選択されます。軽症の場合は市販薬で対応できることもありますが、症状が重い場合や市販薬で効果が不十分な場合は、医療機関を受診して適切な治療を受けることをおすすめします。

特に、毎年つらい症状に悩まされている方や、将来的に薬に頼らずに済むようになりたい方は、舌下免疫療法について医師に相談してみてください。


8. 日常生活でできるセルフケア・予防対策

花粉を避ける対策

花粉症対策の基本は、原因となる花粉をできるだけ体内に入れないことです。以下のような対策が効果的です。

(1)外出時の対策

外出時にはマスクと花粉症用メガネを着用しましょう。マスクは吸い込む花粉の量を6分の1程度に減らす効果があるとされています。顔にフィットするタイプを選び、隙間ができないように装着することがポイントです。

秋の花粉は粒子が小さいものが多いため、通常の花粉対策用マスクでは完全にフィルタリングできない場合があります。症状が重い場合は、PM2.5対応のマスクを選ぶとより効果的です。

また、衣服は花粉が付着しにくい素材を選びましょう。ポリエステルやナイロンなど表面が滑らかな化学繊維がおすすめです。逆に、ウールやフリースなど毛羽立った素材は花粉が付きやすいため、花粉シーズンは避けた方がよいでしょう。

(2)帰宅時の対策

帰宅時には、玄関に入る前に衣服についた花粉を払い落としましょう。衣服用ブラシを使うとより効果的です。帰宅後は、手洗い、うがい、洗顔を行い、体に付着した花粉を落とします。可能であれば入浴して、髪の毛に付いた花粉も洗い流すとよいでしょう。

(3)室内での対策

花粉の飛散量が多い日は、窓を開けての換気は短時間にとどめましょう。室内に入り込んだ花粉は、こまめな掃除で除去します。空気清浄機を24時間稼働させることも効果的です。

洗濯物はできるだけ室内干しにして、外に干す場合は花粉の飛散量が少ない時間帯を選びましょう。取り込む際には、よく払ってから室内に入れることを忘れずに。

(4)秋の花粉症特有の対策

秋の花粉症は、原因となる植物の近くに行かないことが最も効果的な対策です。ブタクサやヨモギは河川敷や空き地、道端などに自生しているため、これらの場所をできるだけ避けるようにしましょう。特に、いつも通る道に原因植物がある場合は、花粉シーズン中だけ別のルートを選ぶことも一つの方法です。

自宅の敷地内にブタクサやヨモギが生えている場合は、花を咲かせる前(8月頃まで)に除草しておくと、飛散する花粉の量を減らすことができます。

生活習慣の改善

免疫機能を正常に保つことは、花粉症の症状を軽減するうえで重要です。以下のような生活習慣を心がけましょう。

(1)十分な睡眠

睡眠不足は免疫機能を低下させ、アレルギー症状を悪化させる要因となります。質の良い睡眠を十分にとることを心がけましょう。鼻づまりで眠りにくい場合は、枕を高くするなどの工夫も有効です。

(2)バランスの良い食事

腸内環境を整えることで、アレルギー症状の緩和が期待できるとされています。発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌など)や食物繊維を積極的に摂取し、腸内の善玉菌を増やしましょう。

また、ポリフェノールを含む食品(緑茶、リンゴ、大豆製品など)やビタミン類を含む野菜、果物、キノコ類なども、アレルギー症状の緩和に役立つとされています。

一方、アルコールや刺激物(辛い食べ物など)は、鼻や喉の粘膜を刺激して症状を悪化させることがあるため、控えめにした方がよいでしょう。

(3)適度な運動

適度な運動は免疫機能を高め、ストレスを軽減する効果があります。ただし、花粉の飛散量が多い日の屋外での運動は避け、室内で行うようにしましょう。

(4)禁煙

タバコの煙は鼻の粘膜を傷つけ、アレルギー症状を悪化させます。喫煙者の方は、これを機に禁煙を検討してみてください。

鼻腔洗浄

鼻腔洗浄(鼻うがい)は、鼻の中に入り込んだ花粉を洗い流す効果的な方法です。市販の鼻腔洗浄液を使用するか、生理食塩水(水1リットルに塩9gを溶かしたもの)で行います。

鼻腔洗浄は1日1〜2回程度行うのが目安です。やりすぎると鼻の粘膜を傷つける恐れがあるため、適度に行いましょう。


9. 医療機関を受診すべきタイミング

以下のような場合は、自己判断で市販薬を使い続けるのではなく、医療機関を受診することをおすすめします。

(1)市販薬で症状が改善しない場合

市販の花粉症薬を使用しても症状が十分にコントロールできない場合は、医療機関でより効果的な薬を処方してもらえる可能性があります。

(2)症状が日常生活に支障をきたす場合

鼻づまりで眠れない、仕事や学業に集中できないなど、症状が日常生活に大きな支障をきたしている場合は、早めに受診しましょう。

(3)咳や喘息様の症状がある場合

咳が長引く場合や、呼吸時にヒューヒュー、ゼイゼイという音がする場合は、喘息の可能性があります。早めに医療機関を受診してください。

(4)高熱がある場合

花粉症で高熱が出ることはまれです。38度以上の発熱がある場合は、風邪やインフルエンザなどの感染症の可能性があるため、医療機関を受診しましょう。

(5)毎年つらい症状に悩まされている場合

毎年花粉症で苦しんでいる方は、舌下免疫療法など根本的な治療法について相談してみることをおすすめします。特に11月は、来シーズンに向けて舌下免疫療法を開始するのに最適な時期です。

何科を受診すべきか

花粉症の症状で受診する診療科は、主な症状によって選ぶとよいでしょう。

鼻の症状が中心の場合は耳鼻咽喉科、目の症状が中心の場合は眼科、咳などの呼吸器症状がある場合は呼吸器内科やアレルギー科を受診するのがおすすめです。迷った場合は、まず内科を受診すれば、適切な診療科を紹介してもらえます。

花粉症が重症の方や、複数のアレルギー疾患を合併している方は、アレルギー専門医がいる医療機関を受診することで、より専門的な診断と治療を受けることができます。


10. まとめ

12月は花粉症の症状が出る可能性がある時期であり、決して油断はできません。秋の花粉症の主な原因は、ブタクサ、ヨモギ、カナムグラなどの雑草花粉と、一部地域で観測されるスギ花粉の「狂い咲き」です。

秋の花粉症は春のものと比べて知名度が低いため、風邪と間違えて適切な対処が遅れてしまうことがあります。透明でサラサラの鼻水、連続するくしゃみ、目のかゆみなどの症状が2週間以上続く場合は、花粉症を疑いましょう。

花粉症の治療は、症状を抑える薬物療法が基本ですが、毎年つらい症状に悩まされている方は、根本的な改善を目指す舌下免疫療法も選択肢の一つです。11月は来シーズンに向けて舌下免疫療法を開始するのに最適な時期でもあります。

日常生活では、マスクや花粉症用メガネの着用、帰宅後の手洗い・うがい・洗顔、室内の掃除など、花粉を避ける対策を徹底することが大切です。また、十分な睡眠やバランスの良い食事など、免疫機能を正常に保つ生活習慣を心がけましょう。

症状がつらい場合や市販薬で改善しない場合は、我慢せずに医療機関を受診してください。適切な診断と治療により、花粉症の症状をコントロールし、快適な日常生活を送ることができます。

参考文献

  1. 日本アレルギー学会「アレルギー疾患診療ガイドライン」 https://www.jsaweb.jp/
  2. 厚生労働省「花粉症環境保健マニュアル2022」 https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/manual.html
  3. 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会「鼻アレルギー診療ガイドライン」 https://www.jiaio.jp/
  4. 環境省「花粉観測システム(はなこさん)」 https://kafun.env.go.jp/
  5. 東京都健康安全研究センター「花粉症一口メモ」 https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/
  6. 鳥居薬品「舌下免疫療法専門サイト」 https://www.torii-alg.jp/slit/
  7. 日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」 https://www.jspaci.jp/

※本記事は医学的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療を行うものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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