手術や怪我のあとに残った傷跡が、いつまでも赤く盛り上がったまま治らない。かゆみや痛みがあって、見た目も気になる——。そのような悩みを抱えている方は、もしかすると「ケロイド」や「肥厚性瘢痕」かもしれません。ケロイドは一般的に難治性とされてきましたが、近年ではレーザー治療をはじめとするさまざまな治療法が開発され、症状の改善が期待できるようになりました。この記事では、ケロイドの原因やメカニズムから、レーザー治療を中心とした最新の治療法、そして新宿エリアで治療を受ける際のポイントまで、専門医の監修のもと詳しく解説します。

目次
- ケロイドとは何か——基本的な知識と症状
- ケロイドと肥厚性瘢痕の違い
- ケロイドができる原因とメカニズム
- ケロイドの好発部位と発症しやすい人の特徴
- ケロイド治療の選択肢——保存的治療から外科的治療まで
- レーザー治療の種類と期待できる効果
- レーザー治療のメリット・デメリット
- 手術療法と放射線治療について
- 治療法の選び方と組み合わせ治療
- 日常生活での注意点とセルフケア
- 新宿でケロイド治療を受ける際のポイント
- まとめ
1. ケロイドとは何か——基本的な知識と症状
ケロイドとは、皮膚が損傷を受けた後に、傷を修復する過程で生じる異常な瘢痕(傷跡)のことです。正常な傷の治癒過程では、傷口がふさがった後、時間の経過とともに赤みが引き、傷跡は白く平坦になっていきます。しかしケロイドの場合、傷が治った後も真皮という皮膚の深い部分で炎症が続き、コラーゲン(膠原線維)が過剰に産生されることで、赤く硬く盛り上がった状態が持続します。
ケロイドの主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
傷跡が赤みを帯びて光沢がある状態が続く。傷の範囲を超えて周囲の正常な皮膚にまで広がっていく。盛り上がりがあり、触ると硬い。強いかゆみや痛みを伴うことがある。自然に消退することはほとんどない。
ケロイドは見た目の問題だけでなく、日常生活に支障をきたすほどのかゆみや痛みを伴うことも多く、患者さんにとって精神的な負担も大きい疾患です。日本医科大学では「精神的悪性疾患」と表現するほど、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼすことが知られています。
ケロイドは放置しても自然に治ることはほとんどなく、むしろ時間の経過とともに大きくなる傾向があります。そのため、早期に適切な治療を開始することが重要とされています。
2. ケロイドと肥厚性瘢痕の違い
ケロイドとよく似た状態に「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」があります。両者は見た目が非常によく似ているため、一般の方が見分けるのは難しいですが、専門的には異なる疾患として区別されています。
肥厚性瘢痕は、傷が赤く盛り上がった状態ですが、その盛り上がりはもともとの傷の範囲内にとどまります。また、数か月から数年という長い期間を経て、徐々に赤みが薄れ、平坦になっていく傾向があります。つまり、肥厚性瘢痕は時間の経過とともに自然に改善することが期待できる状態です。
一方、ケロイドは、もともとの傷の範囲を超えて周囲の正常な皮膚にまで拡大していくという特徴があります。放置しても軽快することはほとんどなく、むしろ成長し続けます。また、激しいかゆみや痛みを伴うことが多く、肥厚性瘢痕よりも症状が強い傾向にあります。
ただし、両者を完全に区別することは臨床的にも組織学的にも難しい場合があり、肥厚性瘢痕とケロイドの中間的な性質を持つ病変も存在します。そのため、実際の診療では両者をまとめて「異常瘢痕」として扱い、それぞれの状態に応じた適切な治療を行うことが一般的です。
重要なのは、これらの症状に気づいたら、できるだけ早く形成外科や皮膚科の専門医を受診することです。早期に治療を開始することで、より良い治療効果が期待できます。
3. ケロイドができる原因とメカニズム
ケロイドがなぜ発生するのか、その詳しいメカニズムは完全には解明されていません。しかし、近年の研究により、いくつかの重要な要因が明らかになってきています。
創傷治癒過程の異常
通常、皮膚に傷ができると、その修復過程は大きく4つの段階を経て進みます。まず血液凝固期で出血が止まり、続いて炎症期で傷の周囲が赤くなります。その後、増殖期で傷が浅くなっていき、最後の再構築期(成熟期)で傷跡が成熟していきます。
正常な場合、これらの過程がスムーズに進むことで傷はきれいに治ります。しかし、何らかの原因で再構築期がうまく進まないと、コラーゲンなどの真皮成分が過剰に産生され続け、ケロイドや肥厚性瘢痕が形成されます。
皮膚にかかる張力(物理的刺激)
近年の研究で最も注目されているのが、皮膚にかかる「張力(テンション)」の影響です。日本医科大学の研究グループは、コンピューターシミュレーションを用いた解析により、ケロイドは引っ張られる方向に大きくなっていくこと、そして張力こそがケロイド拡大の主要な原因であることを突き止めました。
傷跡の部分はコラーゲンが蓄積して硬くなっていますが、この硬い部分が体の動きで引っ張られると、力を逃がせないために隣接する正常な皮膚が強く引っ張られます。その結果、炎症が周囲に拡大していくのです。
この発見は、なぜケロイドが前胸部や肩、関節部など、日常的に動かす機会の多い部位に好発するのかを説明するものでもあります。
炎症の持続
ケロイドの本態は、皮膚の真皮網状層という深い部分で起こる慢性的な炎症です。傷を治すために必要な炎症反応が過剰かつ持続的に続くことで、血管が増生して赤く見え、コラーゲンが過剰に産生されて盛り上がりが生じます。
この持続的な炎症には、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子ベータ)などのサイトカインと呼ばれる炎症性物質が深く関与しています。ケロイドでは、これらのサイトカインが活性を維持し続けることで、線維芽細胞がコラーゲンを作り続ける状態が続きます。
線維芽細胞の異常
ケロイド組織では、線維芽細胞(コラーゲンを産生する細胞)に異常な増殖とアポトーシス(細胞の自然死)の抑制が見られます。研究によると、ケロイド組織ではコラーゲン合成が正常皮膚の約20倍、肥厚性瘢痕の約3倍にも達することが報告されています。
遺伝的要因と全身的要因
ケロイドの発症には遺伝的な素因も関与しています。家族にケロイド体質の方がいる場合、発症リスクが高くなることが知られています。また、人種によっても発症率に差があり、黒人種に最も多く、白人種では比較的少ない傾向にあります。日本人を含む黄色人種はその中間に位置します。
全身的な要因としては、女性ホルモンの影響(妊娠後期に悪化し、授乳中は軽快する傾向)や高血圧、糖尿病なども悪化因子として知られています。また、思春期から若年成人に発症しやすく、高齢になると発症しにくくなるという年齢的な要素もあります。
4. ケロイドの好発部位と発症しやすい人の特徴
好発部位
ケロイドは体のどこにでもできる可能性がありますが、特に発生しやすい部位があります。これらの部位に共通するのは、日常生活で皮膚が引っ張られやすい場所であるという点です。
前胸部は最もケロイドができやすい部位の一つです。呼吸や腕の動きによって常に皮膚が伸展されるため、炎症が持続しやすい環境にあります。帝王切開後の下腹部もよく知られた好発部位で、座ったり立ったりする動作で皮膚が引っ張られることが原因と考えられています。
肩や上腕部、特にBCGの接種痕からケロイドが発生することがあります。肩関節は可動範囲が広く、日常的に動かす機会が多いため、傷跡に張力がかかりやすくなります。
耳たぶはピアスの穴からケロイドが発生することがあり、時には耳が変形するほど大きくなることもあります。顎の下部(下顎角部)はニキビが原因でケロイドが発生しやすい部位です。
一方、下腿や手足、頭部、顔面の下顎角部以外の部分では、ケロイドの発生は比較的まれとされています。
発症しやすい人の特徴
ケロイドになりやすい人には、いくつかの特徴があります。
まず、家族にケロイド体質の方がいる場合は発症リスクが高くなります。両親や兄弟姉妹にケロイドの既往がある方は注意が必要です。
年齢も重要な要因で、小学校高学年から思春期、若年成人に発症しやすいとされています。これは、この時期にホルモンの分泌が活発になることや、免疫系の活動性が高いことが関係していると考えられています。
アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー疾患を持っている方も、ケロイドを発症しやすい傾向にあります。これは、ケロイドの発症・進行にアレルギー反応が関与しているためと考えられています。
また、以前の手術や怪我で傷跡が赤く盛り上がった経験がある方は、同様の反応が繰り返し起こる可能性があります。新たに手術を受ける際には、事前に形成外科医に相談することをお勧めします。
5. ケロイド治療の選択肢——保存的治療から外科的治療まで
ケロイド治療の基本方針として、日本形成外科学会は「保存的治療が第一選択である」という立場を示しています。これは、安易な手術がかえってケロイドを悪化させる危険性があるためです。治療は、患者さんの症状、ケロイドの部位や大きさ、活動性(増大傾向にあるか)などを総合的に判断し、段階的に行われます。
保存的治療
保存的治療には、内服薬、外用薬、貼り薬、注射、圧迫療法などがあります。
内服薬としては、抗アレルギー薬のトラニラスト(商品名:リザベン)が広く使用されています。この薬は、ケロイドや肥厚性瘢痕の組織中にある炎症細胞が放出する化学伝達物質を抑制し、かゆみなどの症状を軽減するとともに、病変自体を沈静化させる効果があります。効果が現れるまでに3か月程度かかることが多く、長期間の内服が必要です。
外用薬としては、ステロイド軟膏が使用されます。抗炎症効果により皮膚線維細胞の増殖を抑制し、赤みやかゆみを軽減します。ただし、長期使用により皮膚の菲薄化(薄くなること)や毛細血管拡張などの副作用が生じることがあるため、医師の指示に従った適切な使用が重要です。
ステロイドテープ(エクラープラスターなど)は、ステロイドの抗炎症作用を利用した貼り薬です。患部に直接貼ることで、局所的に薬効を発揮します。注射に比べると効果が現れるのに時間がかかりますが、痛みがなく、子どもにも使いやすいというメリットがあります。
ステロイド局所注射(ケナコルト注射など)は、ステロイドを使用する保存的治療の中で最も効果的とされています。トリアムシノロンアセトニドという薬剤を病変部に直接注射することで、かゆみや痛みの症状は早い段階で改善が見られます。ただし、色調や盛り上がりの平坦化には数か月以上の継続治療が必要です。注射時に痛みがあること、周囲の皮膚が薄くなる可能性があること、女性では生理不順が生じることがあることなどが注意点として挙げられます。
圧迫療法は、テープやシリコンシート、サポーター、コルセットなどにより創部を安静に保ち、皮膚にかかる張力を軽減する方法です。圧迫により局所の血流量が減少し、炎症が軽減する効果も期待できます。手術後の再発予防にも重要な役割を果たします。
外科的治療
保存的治療で十分な効果が得られない場合や、ケロイドが大きく日常生活に支障をきたしている場合には、外科的治療が検討されます。
ただし、ケロイドを単純に切除するだけでは高い確率で再発し、しばしば元のケロイドより大きくなってしまいます。そのため、現在では手術と術後の放射線治療を組み合わせることが標準的な方法となっています。
手術では、ケロイドを切除した後、形成外科的手技により丁寧に縫合します。ひきつれ(瘢痕拘縮)がある場合にはZ形成術などを追加して、ひきつれを解除します。術後は電子線照射を3〜4日間行い、ケロイドの原因となる線維芽細胞の増殖を抑制することで、再発を予防します。
この組み合わせ治療により、かつては「必ず再発する」とされていたケロイドも、再発率を低く抑えながら完治を目指せるようになりました。
6. レーザー治療の種類と期待できる効果
ケロイドや肥厚性瘢痕に対するレーザー治療は、近年注目を集めている治療法の一つです。レーザー治療の目的は、ケロイドや肥厚性瘢痕の中の血管を破壊したり、コラーゲンの分解を促進させたりすることです。ここでは、ケロイド治療に用いられる主なレーザーの種類とその効果について解説します。
色素レーザー(パルスダイレーザー、Vビーム)
色素レーザーは、ケロイドの赤み改善に最も効果的とされるレーザーです。Vビーム(VビームⅡ、Vビームプリマなど)として知られるこのレーザーは、波長595ナノメートルの光を発振し、血液中のヘモグロビンに選択的に吸収されるという特徴があります。
毛細血管が増生した病変部では、ヘモグロビンがレーザーの光エネルギーを吸収し、熱に変換されることで血管内壁が破壊され、血管が閉塞します。その結果、ケロイドの赤みを軽減させることができます。正常な毛細血管には影響を与えないため、安全性の高い治療法といえます。
色素レーザーによるケロイド治療の特徴として、赤みの改善には効果がありますが、皮膚の盛り上がり自体を平坦化させる効果は限定的です。そのため、盛り上がりが気になる場合には、ステロイド注射など他の治療と併用することが推奨されます。
治療は通常、1〜2か月ごとに繰り返し照射を行います。おおむね5回程度の照射で、傷に伴う不快症状(かゆみ・痛み)が軽減する方が多いとされています。徐々に赤みも改善し、傷の柔らかさやしなやかさが出てきます。
なお、ケロイドに対するレーザー治療は現時点では保険適用外であり、自費診療となります。
Nd:YAGレーザー
Nd:YAGレーザー(エヌディーヤグレーザー)は、より深部まで到達する特性を持つレーザーです。ケロイドや肥厚性瘢痕に対して、非接触モードで照射することにより、炎症の鎮静化や組織の軟化を促す効果が期待できます。
日本医科大学のケロイド外来では、色素レーザーやNd:YAGレーザーなど複数種類のレーザーを設置し、患者さんの症状に応じて部分的に試し、効果がある場合に継続して照射するという方法を採用しています。
フラクショナルレーザー(CO2レーザー、エルビウムヤグレーザー)
フラクショナルレーザーは、皮膚に極めて微細なレーザー光を点状に照射し、皮膚の再生を促す治療法です。皮膚の「入れ替えレーザー」とも呼ばれ、照射部分の皮膚が持つ自然治癒力によって、新しい皮膚の再生が促されます。
ケロイド治療においては、炎症が落ち着いた傷跡に対して使用されることがあります。ケロイド組織を正常な組織に入れ替え、硬くなった組織を柔らかくして盛り上がりを軽減させる効果が期待できます。
ただし、活動性の高いケロイド(増大傾向にあるもの)に対しては、かえって刺激となり悪化させる可能性があるため、使用は慎重に判断される必要があります。
低反応レベルレーザー
低出力・低エネルギーのレーザーで、ケロイドの炎症を鎮静化して進行を食い止め、痛み・かゆみ・赤み・盛り上がりを軽減させる効果があります。皮膚への刺激が少ないため、活動性の高いケロイドにも使用できる可能性があります。
7. レーザー治療のメリット・デメリット
メリット
レーザー治療には、従来の治療法にはないいくつかのメリットがあります。
非侵襲的であることは大きな利点です。手術のように皮膚を切開する必要がないため、新たな傷を作ることなく治療を受けることができます。これは、手術によって新たなケロイドが形成されるリスクを避けられることを意味します。
治療時間が短く、日帰りで受けられることもメリットの一つです。照射自体は数分から十数分程度で終了し、入院の必要はありません。仕事や学校を休む必要が少なく、日常生活への影響を最小限に抑えられます。
ダウンタイムが比較的短いことも特徴です。色素レーザーの場合、照射後に一時的な赤みや腫れ、紫斑(内出血のような状態)が生じることがありますが、通常は1〜2週間程度で軽快します。
他の治療法との併用が容易であることも重要です。ステロイド注射や圧迫療法と組み合わせることで、より高い治療効果が期待できます。
デメリット
一方で、レーザー治療にはいくつかの限界やデメリットもあります。
効果に限界があることは認識しておく必要があります。特に色素レーザーは赤みの改善には効果がありますが、ケロイドの盛り上がりを完全に平坦化することは難しいとされています。盛り上がりの改善には、ステロイド注射など他の治療法との併用が必要です。
複数回の治療が必要であることも特徴です。1回の照射で劇的な改善が得られることは少なく、通常は月に1回程度のペースで5回以上の治療を継続する必要があります。
保険適用外であるため、費用負担が大きくなることがあります。ケロイドに対するレーザー治療は自費診療となり、照射範囲によって料金が異なります。事前に費用の確認をしておくことが重要です。
再発の可能性があることも念頭に置く必要があります。レーザー治療で一時的に症状が改善しても、治療を中止すると再び症状が悪化することがあります。継続的な管理が必要です。
完全に傷を消すことはできないことも理解しておくべき点です。レーザー治療により症状を改善することはできますが、傷跡を完全に消し去ることはできません。あくまでも、赤みや盛り上がり、かゆみなどの症状を軽減し、目立たなくすることが治療の目標となります。
8. 手術療法と放射線治療について
手術療法
ケロイドに対する手術は、かつては「メスを入れると必ず悪化する」と考えられ、禁忌とされてきました。しかし、近年では手術と術後放射線治療を組み合わせることで、再発率を大幅に低減できることが明らかになっています。
手術の方法としては、ケロイド全体を切除する方法と、ケロイドの一部を切除する「ケロイド内切除」があります。ケロイド内切除は、大きなケロイドに対してケロイド同士を縫合することで、まず病変を小さくしてから他の治療を行う方法です。
手術後は、形成外科的手技により丁寧に縫合が行われます。皮膚にかかる張力を減らすため、真皮縫合という深い層での縫合が併用されます。また、ひきつれ(瘢痕拘縮)がある場合には、Z形成術やW形成術などの形成外科的テクニックを用いて、ひきつれを解除します。
放射線治療(電子線照射)
手術後の放射線治療は、ケロイドの再発予防において非常に重要な役割を果たします。形成外科診療ガイドラインでも、ケロイド切除後の放射線治療は有意に再発率を下げると記載されています。
電子線は放射線の一種で、ケロイドの原因となる線維芽細胞の増殖を抑制する効果があります。X線と異なり、電子線は体表面付近に限定して作用し、深部の内臓や骨には達しません。そのため、副作用のリスクを抑えながら治療効果を得ることができます。
照射は術後早期に開始することが推奨されており、多くの施設では術後当日または翌日から照射を開始します。一般的には、1回5グレイで連続4〜5日間、総線量20〜25グレイの照射が行われます。一回の照射にかかる時間はわずか数分で、痛みはありません。
放射線治療による副作用としては、照射部位の色素沈着がありますが、多くの場合は時間の経過とともに(2〜3年程度で)徐々に薄くなっていきます。理論的には放射線による発がんの可能性はゼロではありませんが、ケロイド治療で使用する線量は比較的少量であり、実際にケロイドの放射線治療部位に悪性腫瘍が発生したという報告は極めてまれです。
手術と放射線治療の組み合わせにより、再発率は20〜40%程度まで低下するとされています。ただし、術後も最低3年程度は保存療法を継続し、再発の有無を監視することが重要です。
9. 治療法の選び方と組み合わせ治療
ケロイド治療において重要なのは、単一の治療法に頼るのではなく、複数の治療法を適切に組み合わせて行うことです。患者さん一人ひとりの状態に合わせた、オーダーメイドの治療計画が必要となります。
治療法選択のポイント
治療法を選択する際には、以下のような点を考慮します。
ケロイドの活動性(増大傾向にあるか、安定しているか)は重要な判断材料です。活動性の高いケロイドには、まずステロイド注射などで炎症を鎮静化させ、安定してからレーザー治療や手術を検討するという段階的なアプローチが取られることが多いです。
ケロイドの大きさや部位も治療法選択に影響します。小さなケロイドであれば保存的治療で対応できることがありますが、大きなケロイドや関節をまたぐケロイドでひきつれが生じている場合には、手術が必要になることがあります。
患者さんの年齢や全身状態も考慮されます。小児の場合は放射線治療を避けることが多く、また妊娠中や授乳中の方には使用できない薬剤もあります。
患者さんの希望や生活スタイルも重要です。仕事の関係でダウンタイムが取れない方、長期の通院が難しい方など、それぞれの事情に合わせた治療計画を立てる必要があります。
組み合わせ治療の例
実際の診療では、複数の治療法を組み合わせて行われることが一般的です。
比較的軽症で活動性の低いケロイドに対しては、ステロイドテープと圧迫療法、内服薬(トラニラスト)の組み合わせで対応することがあります。
赤みが目立つケロイドには、まずステロイド注射で盛り上がりを平坦化させてから、色素レーザー(Vビーム)で赤みを改善するという方法が取られることがあります。
大きなケロイドや難治性のケロイドには、手術で切除した後、放射線治療で再発を予防し、さらに術後もステロイドテープや注射、圧迫療法を継続するという集学的治療が行われます。
長期的な視点の重要性
ケロイド治療において忘れてはならないのは、これが長期戦であるということです。どの治療法を選択しても、1〜2回の治療で完治することは稀であり、数か月から数年にわたる継続的な治療と経過観察が必要です。
また、治療によって症状が改善しても、再発のリスクは常に存在します。術後や治療終了後も、定期的な経過観察と適切なセルフケアを続けることが、良好な状態を維持するために重要です。
10. 日常生活での注意点とセルフケア
ケロイドの治療効果を高め、再発を防ぐためには、日常生活での注意点を守ることが非常に重要です。
患部への物理的刺激を避ける
ケロイドは皮膚への物理的刺激によって悪化することがあります。特に、患部が引っ張られるような動きは避けるべきです。
激しい運動、特に胸や腹部のケロイドがある方は、腕を大きく動かす運動や腹筋運動などを控えることが推奨されます。ジムでのトレーニングなども、医師に相談した上で行うようにしましょう。
衣服の摩擦にも注意が必要です。きつい下着や衣服による圧迫や摩擦は、ケロイドを刺激する可能性があります。肌に優しい素材の、ゆったりとした衣服を選ぶことをお勧めします。
患部を掻いたりこすったりしないことも重要です。かゆみがあってもできるだけ掻かないようにし、どうしてもかゆい場合は冷やすなどの方法で対処しましょう。
新たな傷を作らない
ケロイド体質の方は、小さな傷でもケロイドに発展する可能性があります。日常生活で傷を作らないよう注意することが大切です。
ピアスの穴あけは避けることが推奨されます。特に耳たぶはケロイドができやすい部位であり、ピアスによるケロイドは時に非常に大きくなることがあります。
不必要な手術や美容医療は慎重に検討する必要があります。もし手術が必要な場合は、事前に形成外科医に相談し、適切な予防策を講じてもらうことが重要です。
虫刺されやニキビなど、小さな皮膚トラブルも早めに対処することが大切です。特にニキビは顎や胸、背中などにケロイドを引き起こす原因となることがあるため、適切なスキンケアや皮膚科での治療を受けることをお勧めします。
生活習慣の見直し
いくつかの生活習慣がケロイドの悪化に関連していることが知られています。
睡眠不足やストレスは炎症を悪化させる可能性があります。規則正しい生活とストレス管理を心がけましょう。
サウナや長風呂、過度の飲酒は、血流を増加させてケロイドの赤みやかゆみを一時的に悪化させることがあります。完全に禁止する必要はありませんが、頻度を控えることが推奨されます。
高血圧がケロイドの悪化因子であることが知られています。高血圧がある方は、適切な血圧管理を行うことが重要です。
圧迫療法の継続
医師から指示された圧迫療法は、面倒でも継続することが大切です。シリコンシートやサポーター、テープなどによる圧迫は、ケロイドの進行を抑え、手術後の再発を予防する効果があります。
特に手術後は、最低でも3か月から半年、場合によっては1年以上の圧迫療法の継続が推奨されます。
11. 新宿でケロイド治療を受ける際のポイント
新宿エリアでケロイド治療を検討している方に向けて、医療機関選びのポイントをお伝えします。
専門性の確認
ケロイド治療は専門的な知識と技術を必要とする分野です。形成外科専門医や皮膚科専門医が在籍している医療機関を選ぶことが重要です。日本形成外科学会専門医や、瘢痕・ケロイド治療研究会に所属している医師は、この分野のスペシャリストといえます。
治療の選択肢
レーザー治療を希望する場合は、色素レーザー(Vビーム)やその他のレーザー機器を備えている医療機関を選ぶ必要があります。また、レーザー治療だけでなく、ステロイド注射や圧迫療法、必要に応じて手術や放射線治療にも対応できる医療機関であれば、症状に合わせた最適な治療を受けることができます。
カウンセリングの重視
ケロイド治療は長期間にわたることが多いため、治療開始前に十分なカウンセリングを受けることが大切です。治療の目標、期待できる効果と限界、費用、治療期間などについて、納得いくまで説明を受けましょう。
アクセスと通院のしやすさ
新宿は交通アクセスが非常に良いエリアです。ケロイド治療は複数回の通院が必要となることが多いため、通いやすさも医療機関選びの重要なポイントとなります。仕事帰りに通院できる診療時間や、土日診療の有無なども確認しておくとよいでしょう。

12. まとめ
ケロイドは、皮膚の傷が治る過程で生じる異常な瘢痕であり、赤く盛り上がり、かゆみや痛みを伴うことが多い疾患です。かつては「治らない病気」と考えられていましたが、現在ではさまざまな治療法が開発され、適切な治療により症状の改善が期待できるようになりました。
レーザー治療は、ケロイドの赤みを改善するのに効果的な方法であり、特に色素レーザー(Vビーム)は広く用いられています。ただし、レーザー治療だけでケロイドを完治させることは難しく、ステロイド注射や圧迫療法、場合によっては手術と放射線治療を組み合わせた集学的治療が必要となることがあります。
ケロイド治療において最も重要なのは、早期に専門医を受診し、適切な診断と治療を受けることです。また、治療効果を維持し再発を防ぐためには、日常生活での注意点を守り、継続的なセルフケアを行うことが欠かせません。
ケロイドでお悩みの方は、一人で悩まず、まずは形成外科や皮膚科の専門医にご相談ください。
参考文献
- ケロイド Q2 – 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
- ケロイド・肥厚性瘢痕|日本形成外科学会
- ケロイド・傷あと外来 ケロイドの原因・治療を解説|日本医科大学形成外科学教室
- 「ケロイド」と「ケロイド外来」について|日本医科大学武蔵小杉病院
- 瘢痕・ケロイド研究室|日本医科大学形成外科学教室
- ケロイド・肥厚性瘢痕について – 東京大学大学院医学系研究科 形成外科学分野
- ケロイド・肥厚性瘢痕 | 慶應義塾大学医学部 形成外科
- ガイドライン|一般社団法人 日本創傷外科学会
- ケロイド | 大阪医療センター診療ナビ
- ケロイドの電子線照射療法 | 日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務