貨幣状湿疹とは?原因・症状・治療法を皮膚科医が詳しく解説

肌に丸いコイン状の湿疹ができて、強いかゆみに悩まされていませんか?それは「貨幣状湿疹(かへいじょうしっしん)」かもしれません。貨幣状湿疹は、その名の通り硬貨(貨幣)のような円形の湿疹が特徴的な皮膚疾患です。特に秋から冬にかけての乾燥する季節に多く見られ、中高年の方に発症しやすい傾向があります。強いかゆみを伴うため日常生活に支障をきたすことも多く、適切な治療を行わないと症状が長引いたり、全身に広がる「自家感作性皮膚炎」へと移行するリスクもあります。本記事では、貨幣状湿疹の原因、症状、診断方法から治療法、日常生活での注意点まで、皮膚科医の視点から詳しく解説いたします。


目次

  1. 貨幣状湿疹とは
  2. 貨幣状湿疹の原因
  3. 貨幣状湿疹の症状と特徴
  4. 貨幣状湿疹の好発部位
  5. 貨幣状湿疹と自家感作性皮膚炎の関係
  6. 貨幣状湿疹の診断方法
  7. 貨幣状湿疹と鑑別が必要な疾患
  8. 貨幣状湿疹の治療法
  9. ステロイド外用薬について
  10. 日常生活での注意点とセルフケア
  11. 保湿ケアの重要性
  12. 貨幣状湿疹の予後と再発予防
  13. 皮膚科を受診するタイミング
  14. まとめ
  15. 参考文献

1. 貨幣状湿疹とは

貨幣状湿疹は、境界線がはっきりした直径1〜5cm程度(場合によっては10cmに及ぶこともあります)の円形または楕円形の湿疹が、単発あるいは複数個できる皮膚の炎症性疾患です。「貨幣状」という名前は、その見た目がコイン(貨幣)に似ていることに由来しています。医学的には「貨幣状皮膚炎」や「円板状湿疹」とも呼ばれることがあります。

この疾患は中高年の方に多く見られますが、若い世代でも発症することがあります。特に皮膚が乾燥しやすい秋から冬にかけて症状が悪化したり、新たに発症するケースが多いのが特徴です。

貨幣状湿疹は適切な治療を受ければ数週間程度で改善することが多い疾患ですが、治療が不十分だったり、患部を掻き壊してしまったりすると、症状が長期化したり悪化したりすることがあります。そのため、早期に正確な診断を受け、適切な治療を継続することが重要です。

2. 貨幣状湿疹の原因

貨幣状湿疹の明確な原因は現在のところ完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。主な誘因として以下のものが挙げられます。

皮膚の乾燥

貨幣状湿疹の発症に最も大きく関わっているとされるのが皮膚の乾燥です。皮膚が乾燥すると、角質層のバリア機能が低下し、外部からの刺激を受けやすくなります。特に加齢に伴って皮脂分泌量が減少する中高年の方は、皮膚が乾燥しやすく、貨幣状湿疹を発症するリスクが高まります。

また、冬場は空気が乾燥しているうえに暖房器具の使用によって室内の湿度がさらに低下するため、皮膚の乾燥が進みやすくなります。これが秋から冬にかけて貨幣状湿疹の発症や悪化が増える理由の一つです。

虫刺されやかぶれ

虫刺され(虫刺症)や接触皮膚炎(かぶれ)をきっかけに貨幣状湿疹が発症することがあります。最初は小さな湿疹だったものが、掻き壊すことによって徐々に円形に広がり、貨幣状湿疹へと移行するケースも見られます。

金属アレルギー

歯科治療で使用される金属(歯科金属)や、アクセサリーに含まれるニッケルなどの金属に対するアレルギー反応が、貨幣状湿疹の発症や悪化に関与している場合があります。金属アレルギーが疑われる場合は、パッチテストによる検査が有用です。

病巣感染

扁桃腺炎、副鼻腔炎、虫歯などの慢性的な感染症(病巣感染)が、貨幣状湿疹の発症や悪化と関連していることがあります。これらの感染巣から細菌や毒素が血流に乗って皮膚に影響を与える可能性が指摘されています。治りにくい貨幣状湿疹の場合、こうした病巣感染の有無を確認することも重要です。

細菌の関与

皮膚に常在する黄色ブドウ球菌などの細菌が、貨幣状湿疹の発症に関与している可能性も指摘されています。湿疹部分に細菌が感染すると、症状が悪化しやすくなります。

アトピー素因

アトピー性皮膚炎の患者さんでは、貨幣状湿疹がアトピー性皮膚炎の症状の一つとして現れることがあります。アトピー素因(花粉症や喘息などのアレルギー体質)を持つ方は、貨幣状湿疹を発症しやすい傾向があります。

その他の要因

ストレス、睡眠不足、過労、不規則な生活習慣なども、皮膚の免疫機能を低下させ、貨幣状湿疹の発症リスクを高める可能性があります。

3. 貨幣状湿疹の症状と特徴

貨幣状湿疹には、いくつかの特徴的な症状があります。

湿疹の形状

最も特徴的なのは、境界線がはっきりとした円形または楕円形の湿疹です。大きさは直径1〜5cm程度のものが多いですが、10cmに達する大きなものもあります。1つだけできる場合もあれば、体のあちこちに複数個(多いときは50個近くになることも)できる場合もあります。

湿疹の色調と見た目

湿疹の色は赤色から茶褐色を呈します。周辺部には小さな水疱(水ぶくれ)を伴うぶつぶつ(丘疹)ができることが多く、中心部は赤みが強くジュクジュクと滲出液が出ていることがあります。時間の経過とともに、かさぶた(痂皮)や鱗屑(うろこ状のくず)が見られるようになります。

強いかゆみ

貨幣状湿疹の大きな特徴として、非常に強いかゆみを伴うことが挙げられます。このかゆみは日中だけでなく夜間も続くことが多く、睡眠を妨げることもあります。かゆみに耐えられずに掻いてしまうと、症状が悪化し、湿疹が広がる原因となります。

症状の経過

貨幣状湿疹は、一時的に症状が落ち着いても再び強いかゆみがぶり返すなど、良くなったり悪くなったりを繰り返す傾向があります。適切な治療を継続しないと慢性化しやすく、数ヶ月から数年にわたって症状が持続することもあります。

症状の広がり

放置したり、不十分な治療のまま過ごしたりすると、隣接した貨幣状湿疹同士がくっついて、より大きな病変を形成することがあります。さらに悪化すると、全身にかゆみを伴う湿疹が広がる「自家感作性皮膚炎」に移行するリスクもあります。

4. 貨幣状湿疹の好発部位

貨幣状湿疹は全身のどこにでも発症する可能性がありますが、特に以下の部位に現れやすいとされています。

下腿(すね)

下腿、特にすねは貨幣状湿疹が最も好発する部位です。下腿は皮脂腺が少なく乾燥しやすい部位であるため、特に発症しやすくなっています。

腕・前腕

腕の伸側(外側)も貨幣状湿疹が発症しやすい部位です。手の甲に発症することもあります。

殿部・腰

お尻や腰周辺にも貨幣状湿疹ができやすいです。衣類との摩擦や蒸れなども影響している可能性があります。

体幹

背中やお腹など体幹部分にも発症することがありますが、四肢に比べると頻度は低めです。

その他の部位

足の甲や手背、大腿部などにも発症することがあります。顔面に発症することは比較的まれです。

5. 貨幣状湿疹と自家感作性皮膚炎の関係

貨幣状湿疹と密接に関連する疾患として「自家感作性皮膚炎」があります。これは貨幣状湿疹を放置したり、不十分な治療を続けたりした場合に起こりうる重要な合併症です。

自家感作性皮膚炎とは

自家感作性皮膚炎は、体のある部位に生じた皮膚の強い炎症(原発巣)が悪化することで、全身に小さな紅斑や丘疹(散布疹)が多発する状態です。原発巣となる疾患として最も頻度が高いのが貨幣状湿疹です。

発症のメカニズム

原発巣である湿疹を掻き壊したり、細菌感染が生じたりすると、皮膚組織から変性したタンパク質や細菌成分などがアレルゲン(アレルギーの原因物質)となります。このアレルゲンが血流に乗って全身に運ばれ、他の部位でもアレルギー反応を起こすことで、全身に湿疹が広がると考えられています。これを「自家感作」と呼び、自分の体の中で作られた物質に対してアレルギー反応を起こしてしまう状態です。

自家感作性皮膚炎の症状

自家感作性皮膚炎では、原発巣の発症から2週間程度で四肢、体幹、顔面、首などに左右対称性に急速に散布疹が現れます。非常に激しいかゆみを伴い、夜も眠れないほどの苦痛を訴える患者さんも少なくありません。発熱や食欲不振などの全身症状を伴うこともあります。

予防の重要性

自家感作性皮膚炎への移行を防ぐためには、貨幣状湿疹の段階でしっかりとした治療を行い、掻き壊しを防ぐことが非常に重要です。中途半端な治療は慢性化や自家感作性皮膚炎への移行を招くため、症状が落ち着いても医師の指示に従って治療を継続することが大切です。

6. 貨幣状湿疹の診断方法

貨幣状湿疹の診断は主に臨床所見に基づいて行われます。

視診による診断

皮膚科医は、湿疹の形状、色調、分布、境界の明瞭さなどを観察することで診断を行います。貨幣状湿疹の特徴的な円形の湿疹と、強いかゆみという症状の組み合わせは、診断の大きな手がかりとなります。

ダーモスコピー検査

必要に応じて、ダーモスコピー(皮膚拡大鏡)を用いた詳細な観察が行われることがあります。これにより、より正確な診断が可能になります。

皮膚生検

他の皮膚疾患との鑑別が難しい場合や、治療に反応しない場合には、患部の組織を一部採取して顕微鏡で調べる皮膚生検が行われることがあります。

真菌検査

貨幣状湿疹と白癬(みずむし)などの真菌感染症は見た目が似ていることがあるため、顕微鏡で真菌の有無を調べる検査が行われることがあります。これにより、適切な治療法を選択することができます。

アレルギー検査

金属アレルギーや接触皮膚炎が疑われる場合には、パッチテスト(貼付試験)が行われます。特に難治性の貨幣状湿疹では、原因となるアレルゲンを特定するためにパッチテストが有用です。

その他の検査

治りにくい貨幣状湿疹では、病巣感染の有無を確認するために歯科受診や耳鼻科受診を勧められることがあります。また、血液検査でアトピー素因の評価やIgE値の測定が行われることもあります。

7. 貨幣状湿疹と鑑別が必要な疾患

貨幣状湿疹は、いくつかの皮膚疾患と見た目が似ていることがあるため、正確な鑑別診断が重要です。

白癬(たむし・みずむし)

体部白癬(たむし)は、真菌(カビ)による感染症で、貨幣状湿疹と似た円形の発疹を形成することがあります。ただし、白癬では辺縁がやや盛り上がり、中央部が治癒傾向を示す特徴的なリング状の外観(環状紅斑)を呈することが多いです。顕微鏡による真菌検査で鑑別が可能です。

尋常性乾癬

乾癬は、皮膚のターンオーバーが異常に速くなることで起こる疾患で、境界明瞭な紅斑と銀白色の鱗屑が特徴です。貨幣状湿疹よりも鱗屑が厚く、肘や膝などの伸側に好発する傾向があります。

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の患者さんでは貨幣状湿疹が症状の一つとして現れることがあります。他のアトピー症状(肘窩・膝窩の湿疹、乾燥肌など)の有無や、家族歴、既往歴などを確認して判断します。

接触皮膚炎(かぶれ)

特定の物質に触れることで起こる接触皮膚炎は、触れた部位に一致して湿疹が現れます。原因物質との接触部位と湿疹の分布の関係を確認することで鑑別します。

うっ滞性皮膚炎

下腿の静脈瘤などによる血流うっ滞が原因で起こる湿疹です。下腿に多発する貨幣状湿疹との鑑別が必要な場合があります。静脈瘤の有無や、浮腫の程度などを確認します。

皮脂欠乏性湿疹(乾皮症)

皮膚の乾燥が進行して起こる湿疹で、貨幣状湿疹の初期段階や軽症例と鑑別が必要なことがあります。皮脂欠乏性湿疹では、皮膚全体がカサカサして細かいひび割れが見られることが多いです。

8. 貨幣状湿疹の治療法

貨幣状湿疹の治療は、炎症を抑えてかゆみを軽減することと、皮膚のバリア機能を回復させることを目標に行われます。

ステロイド外用薬

貨幣状湿疹の治療の中心となるのがステロイド外用薬です。湿疹の炎症を抑え、かゆみを軽減する効果があります。貨幣状湿疹は通常の湿疹よりも治りにくいため、比較的強めのステロイド外用薬が使用されることが多いです。

使用するステロイドの強さは、湿疹の重症度や発症部位、患者さんの年齢などを考慮して決定されます。症状が改善してきたら、徐々に弱いステロイドに変更したり、塗布する頻度を減らしたりしていきます。

密閉療法(ODT療法)

症状が強い場合や通常のステロイド外用薬で十分な効果が得られない場合には、ステロイド外用薬を塗った後に亜鉛華軟膏を塗布したシートで覆う「密閉療法」が行われることがあります。これにより、薬剤の浸透性が高まり、効果が増強されます。

保湿剤

皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を回復させるために保湿剤が使用されます。入浴後など皮膚が清潔な状態のときに全身に塗布することが推奨されます。保湿剤には、ヘパリン類似物質(ヒルドイドなど)、尿素製剤、ワセリンなど様々な種類があります。

抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬

強いかゆみを抑えるために、内服の抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬が処方されることがあります。特に夜間のかゆみで睡眠が妨げられる場合には、鎮静作用のある抗ヒスタミン薬が有効です。

ステロイド内服薬

自家感作性皮膚炎を併発した場合や、湿疹が広範囲に及ぶ重症例では、ステロイドの内服薬が短期間使用されることがあります。

光線療法

難治性の貨幣状湿疹に対しては、紫外線を照射する光線療法(特にナローバンドUVB療法)が行われることがあります。紫外線には炎症を抑える効果があり、外用薬だけでは改善しない場合に検討されます。

免疫抑制薬

まれに、上記の治療で改善しない重症例では、免疫抑制薬の全身投与が検討されることがあります。

病巣感染の治療

虫歯、扁桃腺炎、副鼻腔炎などの病巣感染が貨幣状湿疹の原因として疑われる場合には、それらの治療が優先されることがあります。病巣感染の治療により、貨幣状湿疹の症状が改善することがあります。

9. ステロイド外用薬について

貨幣状湿疹の治療で中心的な役割を果たすステロイド外用薬について、より詳しく解説します。

ステロイド外用薬の作用

ステロイド外用薬には、炎症を抑える作用(抗炎症作用)、かゆみを軽減する作用、免疫反応を抑制する作用があります。これらの作用により、湿疹の赤み、腫れ、かゆみを効果的に改善することができます。

強さのランク分け

ステロイド外用薬は、その作用の強さによって5段階にランク分けされています。

第1群(Strongest/最も強い):デルモベート、ダイアコートなど 第2群(Very Strong/とても強い):アンテベート、マイザー、フルメタなど 第3群(Strong/強い):リンデロンV、ボアラ、メサデルムなど 第4群(Medium/中程度):リドメックス、アルメタ、キンダベートなど 第5群(Weak/弱い):プレドニゾロン軟膏など

貨幣状湿疹では、湿疹の症状が強いことが多いため、第2群や第3群のやや強めのステロイドが使用されることが一般的です。ただし、顔面や陰部など皮膚が薄い部位では、より弱いランクのステロイドが選択されます。

正しい塗り方

ステロイド外用薬の効果を十分に発揮するためには、適切な量を正しく塗ることが重要です。塗る量の目安として「FTU(finger tip unit)」という単位が用いられます。これは、大人の人差し指の先端から第一関節までの長さに軟膏を出した量(約0.5g)で、両手のひら分の面積(体表面積の約2%)に塗布する量に相当します。

塗る際は、湿疹部分だけでなく、その周囲にも薄く広げるように塗布します。こすらずに、やさしく押さえるように塗るのがポイントです。

使用上の注意点

ステロイド外用薬を使用する際には、以下の点に注意が必要です。

医師の指示に従って使用すること。自己判断で使用を中止したり、塗る量を減らしたりしないこと。 長期間の使用は避け、症状が改善したら医師と相談して適切に減量すること。 皮膚感染症がある部位には使用しないこと(感染を悪化させる可能性があります)。 顔面や陰部など皮膚が薄い部位への使用は慎重に行うこと。

副作用について

ステロイド外用薬を適切に使用すれば、副作用を過度に心配する必要はありません。しかし、長期間にわたって強いステロイドを使用し続けると、以下のような局所的な副作用が現れることがあります。

皮膚の菲薄化(皮膚が薄くなること) 毛細血管拡張(皮膚の表面に血管が透けて見える) 皮膚萎縮 ステロイドざ瘡(にきび様の発疹) 多毛 皮膚線条(妊娠線のような筋)

これらの副作用の多くは、ステロイドの使用を中止するか、適切な処置を行うことで回復します。ただし、皮膚線条については完全には元に戻らないとされています。

なお、ステロイド外用薬を適切に使用しても、内服ステロイドのような全身的な副作用(ムーンフェイスや骨粗鬆症など)が起こることは通常ありません。

10. 日常生活での注意点とセルフケア

貨幣状湿疹の症状を悪化させないためには、日常生活での注意が重要です。

掻かないようにする

最も重要なのは、患部を掻かないことです。掻くことで皮膚が傷つき、炎症が悪化するだけでなく、細菌感染のリスクも高まります。また、掻破は自家感作性皮膚炎への移行を促す原因にもなります。

かゆみを感じたときは、掻く代わりに患部を冷やしたり、処方されたかゆみ止めを使用したりすることをお勧めします。また、爪は短く清潔に保ち、就寝時には無意識に掻いてしまうことを防ぐため、綿の手袋を着用するのも有効です。

入浴時の注意

入浴時には以下の点に注意しましょう。

お湯の温度はぬるめ(38〜40℃程度)にする。熱いお湯は皮膚の乾燥を促進し、かゆみを悪化させます。 石鹸やボディソープは刺激の少ないものを選び、使用量は控えめにする。 体を洗うときはゴシゴシこすらず、やさしく洗う。ナイロンタオルなどの刺激の強いものは避ける。 入浴後はすぐに保湿剤を塗布する。入浴後は皮膚が水分を含んでいる状態なので、このタイミングで保湿剤を塗ることで効果的に保湿できます。

衣類の選び方

皮膚への刺激を減らすため、肌に直接触れる衣類は綿などの天然素材で、肌触りの良いものを選びましょう。ウールやナイロンなどの素材は刺激になることがあります。また、締め付けの強い衣類は避け、ゆったりとした服装を心がけてください。

室内環境

室内の湿度を適切に保つことが重要です。特に冬場は暖房器具の使用で室内が乾燥しやすくなるため、加湿器を使用したり、洗濯物を室内に干したりして、湿度50〜60%程度を維持するようにしましょう。

食生活

バランスの取れた食事を心がけ、皮膚の健康を保つために必要な栄養素(ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、タンパク質など)を十分に摂取しましょう。

アルコールや辛い食べ物は体を温め、かゆみを増強させることがあるため、症状が強いときは控えめにすることをお勧めします。

その他の注意点

ストレスや睡眠不足は免疫機能を低下させ、皮膚症状を悪化させることがあります。十分な睡眠をとり、ストレスを溜めないような生活を心がけましょう。 電気毛布やこたつなど、長時間体を温めるものの使用は控えめにしましょう。血行が良くなるとかゆみが増強することがあります。

11. 保湿ケアの重要性

貨幣状湿疹の予防と治療において、保湿ケアは非常に重要な役割を果たします。

皮膚のバリア機能と保湿

皮膚の最外層である角質層には、皮脂膜、角質細胞間脂質(セラミドなど)、天然保湿因子(NMF)という3つの保湿因子が存在しています。これらは協力して皮膚の水分を保持し、外部からの刺激や異物の侵入を防ぐ「バリア機能」を担っています。

皮膚が乾燥すると、このバリア機能が低下し、外部からの刺激を受けやすくなります。また、乾燥によって痒みを感じる神経線維が皮膚表面近くまで伸びてくるため、ちょっとした刺激でもかゆみを感じやすくなります。これがさらなる掻破を招き、症状が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。

保湿剤の種類と選び方

保湿剤には様々な種類があり、それぞれ特徴が異なります。

ヘパリン類似物質製剤(ヒルドイドなど):保湿効果が高く、血行促進作用もあります。医療機関でよく処方される保湿剤です。

尿素製剤(ウレパールなど):尿素には保湿作用とともに、硬くなった角質を柔らかくする作用があります。ただし、傷がある部位に塗るとしみることがあります。

ワセリン:皮膚表面を覆って水分の蒸発を防ぐ作用があります。刺激が少なく、敏感肌の方にも使いやすいです。

セラミド配合製剤:角質細胞間脂質の主成分であるセラミドを補給することで、バリア機能を回復させます。

効果的な保湿剤の使い方

保湿剤の効果を最大限に発揮するためには、以下のポイントを押さえましょう。

入浴後すぐに塗る:入浴後は皮膚が水分を含んでいるため、この水分を閉じ込めるように保湿剤を塗ることで効果的に保湿できます。入浴後5〜10分以内に塗るのが理想的です。

十分な量を塗る:少量では十分な効果が得られません。皮膚がしっとりするまでたっぷりと塗りましょう。

こすらずにやさしく塗る:ゴシゴシとこするのではなく、手のひらで押さえるように塗布します。

毎日継続して使用する:症状が落ち着いた後も、予防のために保湿ケアを継続することが重要です。

保湿剤とステロイド外用薬の使い分け

保湿剤とステロイド外用薬を併用する場合、塗る順番が重要です。一般的には、まず保湿剤を全身に塗布し、その後にステロイド外用薬を湿疹の部分にのみ塗布します。これにより、保湿剤で皮膚全体のバリア機能を補強しつつ、ステロイドで炎症を抑えることができます。

12. 貨幣状湿疹の予後と再発予防

貨幣状湿疹は適切な治療を行えば、多くの場合、数週間から数ヶ月で改善します。しかし、再発しやすい疾患であり、一度治っても同じ場所や別の場所に再び症状が現れることがあります。

再発を防ぐために

再発を予防するためには、症状が治まった後も以下のことを継続することが重要です。

毎日の保湿ケアを継続する:症状が落ち着いても、皮膚の乾燥を防ぐために保湿剤を使い続けましょう。

生活習慣を整える:十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、免疫機能を維持しましょう。

刺激を避ける:皮膚への物理的な刺激(こする、引っ掻くなど)や化学的な刺激(刺激の強い石鹸や洗剤など)を避けましょう。

室内環境を整える:適切な室温と湿度を維持しましょう。

定期的な受診:症状が安定していても、定期的に皮膚科を受診し、皮膚の状態をチェックしてもらうことをお勧めします。

治療の継続

貨幣状湿疹は見た目が良くなっても、皮膚の内部ではまだ炎症が続いていることがあります。自己判断で治療を中止すると再発や悪化の原因となるため、必ず医師の指示に従って治療を継続し、適切なタイミングで減量・中止するようにしましょう。

プロアクティブ療法と呼ばれる、症状が落ち着いた後も週に1〜2回程度ステロイド外用薬を塗り続ける方法が、再発予防に有効とされています。詳しくは主治医にご相談ください。

13. 皮膚科を受診するタイミング

以下のような場合は、早めに皮膚科を受診することをお勧めします。

円形の湿疹が複数できて、強いかゆみがある場合 市販薬を使用しても症状が改善しない場合 湿疹がどんどん広がっている場合 湿疹部分がジュクジュクしたり、黄色い膿が出てきたりする場合(細菌感染の可能性) かゆみがひどくて眠れない場合 全身に小さな湿疹が散らばって出てきた場合(自家感作性皮膚炎の可能性) 原因がわからない湿疹が長期間続いている場合

貨幣状湿疹は、真菌感染症(みずむし)や乾癬など、見た目が似ている他の皮膚疾患と鑑別が必要なことがあります。自己判断で市販薬を使用すると、かえって症状を悪化させてしまうこともあるため、正確な診断を受けることが重要です。

当院では、丁寧な診察と必要に応じた検査により正確な診断を行い、患者様お一人おひとりの症状や生活スタイルに合わせた最適な治療をご提案いたします。貨幣状湿疹やその他の皮膚トラブルでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

14. まとめ

貨幣状湿疹は、円形のコイン状の湿疹と強いかゆみを特徴とする皮膚疾患です。主に皮膚の乾燥がきっかけとなって発症し、秋から冬にかけて中高年の方に多く見られます。

この疾患は適切な治療を行えば改善が期待できますが、治療が不十分だと慢性化したり、自家感作性皮膚炎という全身に湿疹が広がる状態に進行するリスクがあります。そのため、早期に皮膚科を受診して正確な診断を受け、ステロイド外用薬を中心とした適切な治療を継続することが重要です。

また、日常生活では掻かないこと、保湿ケアを継続すること、皮膚への刺激を避けることなどを心がけることで、症状の悪化や再発を予防することができます。

貨幣状湿疹でお悩みの方は、自己判断で市販薬を使い続けるのではなく、専門医による診察を受けることをお勧めします。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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