動悸とは?原因・症状・対処法から受診の目安まで徹底解説

はじめに

「心臓がドキドキする」「脈が速く感じる」「胸がバクバクする」——このような症状を経験したことはありませんか?これらの症状は「動悸(どうき)」と呼ばれ、多くの方が日常的に経験する非常によくみられる症状です。

動悸は緊張や運動後など、一時的なものであれば特に心配ないケースがほとんどです。しかし、安静時に突然起こる動悸や、他の症状を伴う場合には、心臓をはじめとするさまざまな疾患が隠れている可能性もあります。

本記事では、動悸の定義から原因、症状のタイプ、考えられる疾患、検査・診断方法、対処法、そして医療機関を受診すべき目安まで、幅広く詳しく解説いたします。動悸でお悩みの方、ご自身やご家族の健康管理に役立てたい方はぜひ最後までお読みください。


動悸とは何か?医学的な定義と基本知識

動悸の定義

動悸とは、自分の心臓の拍動(心拍)に敏感になって、不快感や違和感を自覚する状態のことを指します。通常、私たちは自分の心臓の拍動を意識することはほとんどありません。しかし、何らかの原因で心臓が普段より強く拍動したり、速く拍動したり、リズムが乱れたりすると、それを自覚するようになります。

動悸の感じ方は人によってさまざまで、「心臓がドキドキする」「脈が速い」「脈が飛ぶ」「心臓がドクンと強く打つ」「胸がざわざわする」など、多様な表現で訴えられます。重要なのは、動悸は主観的な感覚であり、実際に心臓に異常がなくても感じることがある一方で、重大な不整脈が起きていても全く自覚しないケースもあるということです。

正常な心拍と動悸の関係

健康な成人の安静時の心拍数は、通常1分間に60〜100回程度で、規則正しいリズムで拍動しています。心臓は自らが発する電気信号によって収縮し、この電気信号が一定のタイミングで規則的に流れることで、安定した拍動が維持されています。

動悸を感じるのは、以下のような場合が多いとされています。

心拍数が通常より速くなる(頻脈)場合、1分間に100回以上の拍動が続くと動悸として自覚されやすくなります。逆に心拍数が遅くなる(徐脈)場合も、1分間に50回以下になると、一拍一拍が強く感じられることがあります。また、心臓のリズムが乱れる(不整脈)場合には、脈が飛ぶような感覚や不規則な拍動として自覚されます。


動悸が起こるメカニズム

自律神経と心臓の関係

心臓の拍動は、自律神経によってコントロールされています。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、体をリラックスさせる「副交感神経」の2種類があり、この2つがバランスを取りながら心臓の働きを調整しています。

交感神経が優位になると、心拍数は増加し、心臓の収縮力も強まります。これは、運動時や緊張時、危険を感じたときなどに起こる正常な反応です。一方、副交感神経が優位になると、心拍数は減少し、体はリラックス状態になります。

動悸が起こるメカニズムの一つとして、この自律神経のバランスが崩れることが挙げられます。ストレスや睡眠不足、過労などによって交感神経が過剰に働くと、心臓は必要以上に速く拍動し、動悸として自覚されるようになります。

血流と心拍の調整

動悸が生じるもう一つのメカニズムとして、体が必要とする血液量と心臓が送り出す血液量のバランスがあります。たとえば貧血の場合、血液中のヘモグロビンが減少して酸素運搬能力が低下するため、心臓は酸素不足を補おうと心拍数を増加させます。これが動悸として感じられることがあります。

同様に、発熱時には体温上昇に伴って代謝が亢進し、心拍数が増加します。脱水状態でも循環血液量が減少するため、心臓は代償的に拍動を速めて血圧を維持しようとします。


動悸の3つのタイプ

動悸の感じ方は、大きく以下の3つのタイプに分類されます。

頻脈型(脈が速くなるタイプ)

心臓がドキドキと速く拍動するタイプの動悸です。緊張やストレス、運動後などに一時的に起こることが多いですが、病的な場合は安静時でも1分間に100〜200回以上の頻脈が持続することがあります。

このタイプの動悸を引き起こす代表的な疾患としては、発作性上室頻拍、心房細動、心房粗動、洞性頻脈(甲状腺機能亢進症や貧血に伴うもの)などがあります。

徐脈型(脈が遅くなるタイプ)

心臓の拍動が遅くなり、一拍一拍が強く感じられるタイプです。通常は動悸としてあまり自覚されませんが、極端に脈が遅くなると、めまいやふらつき、失神などを伴うことがあります。

徐脈型の動悸の原因としては、洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈が挙げられます。

期外収縮型(脈が飛ぶタイプ)

一定のリズムの中で、時々脈が飛んだように感じるタイプの動悸です。実際には心臓が一拍余分に打っている(期外収縮)のですが、その後の代償性休止によって次の拍動が強く感じられ、「脈が飛んだ」「ドクンと強く打った」と自覚されます。

期外収縮は健康な人でも起こることが多く、30歳を過ぎた頃から増加する傾向があります。多くは治療を必要としませんが、頻発する場合や他の症状を伴う場合は精査が必要です。


動悸を引き起こす原因

動悸の原因は多岐にわたります。生理的なものから病的なものまで、主な原因を詳しく見ていきましょう。

生理的原因(病気ではないもの)

最も多いのは、生理的な反応として起こる動悸です。

運動や身体活動によって、体が酸素を多く必要とするため、心拍数が増加します。これは正常な反応であり、運動終了後には自然に治まります。

精神的なストレスや緊張、興奮、不安なども動悸の原因となります。緊張すると交感神経が活発になり、心拍数が上昇します。大勢の前でのスピーチや重要な試験の前などに動悸を感じた経験がある方も多いでしょう。

カフェインやアルコール、ニコチンなどの嗜好品も自律神経を刺激し、動悸を引き起こすことがあります。コーヒーや紅茶、エナジードリンクの過剰摂取後に動悸を感じる場合は、これらが原因である可能性があります。

睡眠不足や過労、発熱なども自律神経のバランスを乱し、動悸の原因となります。

循環器疾患(心臓・血管の病気)

動悸の原因として最も重要なのが、心臓や血管の疾患です。

不整脈は、心臓の電気信号の異常によってリズムが乱れる状態です。不整脈には多くの種類があり、治療が不要な軽度のものから、生命を脅かす重篤なものまでさまざまです。動悸の原因となる代表的な不整脈として、心房細動、心房粗動、発作性上室頻拍、心室期外収縮、心室頻拍などがあります。

心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなる状態です。心臓は低下した機能を補うために心拍数を上げようとするため、動悸が生じます。心不全では、動悸に加えて息切れ、足のむくみ、倦怠感などの症状を伴うことが多いです。

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患でも、動悸が症状として現れることがあります。これらの疾患では、胸痛や圧迫感を伴うことが多く、早急な治療が必要です。

心臓弁膜症は、心臓の弁に異常が生じ、血液の流れが妨げられる疾患です。心臓に負担がかかることで動悸が生じることがあります。

甲状腺疾患

甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)は、動悸を引き起こす重要な原因の一つです。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、全身の代謝が亢進し、心臓も活発に拍動するようになります。

甲状腺機能亢進症では、動悸のほかに、手の震え、多汗、体重減少、疲れやすさ、睡眠障害、首の腫れ(甲状腺腫)などの症状を伴うことが特徴です。20〜30代の女性に多く見られる疾患ですが、男性でも発症します。

貧血

貧血は、血液中のヘモグロビンが減少し、体の隅々まで酸素を運ぶ能力が低下した状態です。心臓は酸素不足を補うために心拍数を増加させるため、動悸が生じます。

貧血による動悸は、特に運動時や階段を上るときなど、体が酸素を多く必要とする場面で顕著になります。動悸のほかに、めまい、立ちくらみ、倦怠感、顔色不良などの症状を伴うことが多いです。

女性では月経による鉄欠乏性貧血が多く、子宮筋腫や不正出血による慢性的な出血も原因となります。

低血糖

血糖値が正常より低下した状態(通常50mg/dL以下)を低血糖といいます。低血糖になると、体は危険を感知して交感神経を活性化させ、動悸、冷や汗、手足の震え、空腹感などの症状が現れます。

低血糖は、糖尿病の治療薬(インスリンや経口血糖降下薬)の効きすぎ、食事の遅れや欠食、過度の運動などが原因で起こることが多いです。重症化すると意識障害を起こすこともあるため、注意が必要です。

更年期障害

女性の更年期(一般的に45〜55歳頃)には、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少します。エストロゲンの減少は、自律神経のバランスを乱し、動悸を引き起こす原因となります。

更年期に伴う動悸は、ホットフラッシュ(顔ののぼせ、ほてり、発汗)、不眠、イライラ、不安感などの他の更年期症状を伴うことが多いです。これらの症状が日常生活に支障をきたす場合は「更年期障害」と診断され、治療の対象となります。

近年では、男性にも更年期障害(加齢性腺機能低下症)があることが知られており、男性ホルモン(テストステロン)の減少によって動悸などの症状が現れることがあります。

精神的疾患(パニック障害・不安障害)

パニック障害は、突然の激しい動悸、息苦しさ、発汗、震え、めまいなどの発作(パニック発作)を繰り返す疾患です。発作時には「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖感に襲われることが特徴です。

パニック発作は、心臓や肺などに器質的な異常がないにもかかわらず起こります。これは、脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)の機能異常が関与していると考えられています。

全般性不安障害や社会不安障害などの不安障害でも、不安や緊張に伴って動悸が生じることがあります。これらの疾患では、適切な治療(薬物療法や認知行動療法)により症状の改善が期待できます。

薬の副作用

一部の薬剤は、副作用として動悸を引き起こすことがあります。気管支喘息の治療に用いる気管支拡張薬、低血圧や狭心症の治療に用いる血管拡張薬、一部の抗うつ薬などが知られています。

また、高血圧や不整脈の治療薬を突然中止した場合にも、リバウンド現象として動悸が起こることがあります。薬の服用開始後や変更後に動悸を感じた場合は、自己判断で中止せず、主治医に相談することが大切です。


注意すべき不整脈の種類

不整脈には多くの種類がありますが、動悸の原因となる代表的なものについて解説します。

心房細動

心房細動は、不整脈の中でも最も頻度が高い疾患の一つです。心房が1分間に300〜600回という非常に速い頻度で不規則に興奮し、細かく震えるような状態になります。その結果、心臓全体としては不規則なリズムで拍動するようになり、動悸やめまい、息切れなどの症状が現れます。

心房細動の最も重大な合併症は脳梗塞です。心房が正常に収縮しなくなると、心臓内に血液がよどみ、血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が脳に飛ぶと脳梗塞を引き起こします。心房細動患者の脳梗塞発症率は、非罹患者の約5倍とされています。

心房細動は加齢とともに増加し、国内で約100万人の患者がいると推定されています。高血圧、糖尿病、心臓弁膜症、甲状腺機能亢進症なども危険因子となります。

発作性上室頻拍

発作性上室頻拍は、心臓の上部(心房や房室結節付近)で異常な電気回路が形成され、突然脈が速くなる不整脈です。発作時には1分間に150〜250回もの頻脈となり、激しい動悸を感じます。

多くの場合、発作は突然始まり、突然終わります。発作中は動悸のほかに、息苦しさ、胸の不快感、めまいなどを伴うことがあります。治療法としては、薬物療法やカテーテルアブレーション(カテーテルを用いて異常な電気回路を焼灼する治療)があります。

心室期外収縮

心室期外収縮は、心室から本来のタイミングより早く電気信号が発生し、脈が飛んだように感じる不整脈です。不整脈の中で最も頻度が高く、健康な人でも日常的に起こっています。

心室期外収縮の多くは治療を必要としません。しかし、心筋梗塞や心筋症などの心疾患が原因で起こっている場合や、非常に頻発する場合は、より危険な不整脈に移行する可能性があるため、精査が必要です。

心室頻拍・心室細動

心室頻拍は、心室から連続して異常な電気信号が発生し、非常に速い脈(1分間に100回以上)が続く不整脈です。心室細動は、心室が無秩序に興奮して震え、心臓が血液を送り出せなくなる状態です。

これらは生命を脅かす危険な不整脈であり、心室細動は心臓が原因の突然死の約8割を占めるとされています。心室細動が起こると数秒で意識を失い、適切な処置(心肺蘇生やAED)がなければ死に至ります。


動悸の検査・診断方法

動悸の原因を特定するためには、さまざまな検査が行われます。

問診と身体診察

まず、医師は詳しい問診を行います。どのような動悸か(速い、遅い、不規則など)、いつ起こるか(安静時、運動時、特定の状況下など)、どのくらい続くか、他に症状はあるか、既往歴や服薬歴などについて確認します。

動悸を感じたときに自分で脈を測り、その状況を記録しておくと診断に役立ちます。手首の親指側にある橈骨動脈に人差し指・中指・薬指を当て、1分間の脈拍数とリズムの規則性を確認する方法が一般的です。

身体診察では、バイタルサイン(脈拍、血圧、体温)の確認、心臓や肺の聴診、甲状腺の触診などが行われます。

心電図検査

心電図検査は、動悸の原因を調べる最も基本的な検査です。心臓の電気的活動を体表面の電極で検出し、波形として記録します。不整脈の有無や種類、心筋梗塞の痕跡などを確認できます。

ただし、通常の心電図検査(12誘導心電図)は検査時点の短い時間しか記録できないため、発作的に起こる不整脈を捉えられないことがあります。

ホルター心電図(24時間心電図)

ホルター心電図は、小型の記録装置を装着して24時間連続で心電図を記録する検査です。日常生活を送りながら検査できるため、通常の心電図検査では捉えられない一過性の不整脈を検出できます。

検査中は、行動記録(食事、運動、就寝、症状の有無など)を付けることで、症状と心電図変化の関連を確認できます。入浴以外は通常通りの生活が可能です。

さらに長期間の記録が必要な場合は、1〜2週間装着できるイベントモニターや、皮下に埋め込んで2年以上記録できる植込み型ループレコーダーが使用されることもあります。

心臓超音波検査(心エコー)

心臓超音波検査は、超音波を用いて心臓の形態や動きをリアルタイムで観察する検査です。心臓の大きさ、壁の厚さ、弁の状態、収縮力、血液の流れなどを評価できます。

不整脈の背景に心筋症や弁膜症などの心疾患がないかを確認するために行われます。痛みがなく、放射線も使用しないため、安全に受けられる検査です。

血液検査

血液検査では、動悸の原因となる疾患の有無を調べます。貧血の有無(ヘモグロビン値)、甲状腺機能(甲状腺ホルモン値)、電解質異常(カリウム、カルシウムなど)、心不全の指標(BNP、NT-proBNP)、血糖値などが測定されます。

運動負荷心電図

運動負荷心電図は、運動をして心臓に負担をかけた状態での心電図変化を観察する検査です。トレッドミル(ベルトコンベア上を歩く)や自転車エルゴメーターを用いて行われます。

安静時には現れない不整脈や、労作時に起こる狭心症の診断に有用です。また、運動耐容能(どの程度の運動に耐えられるか)の評価にも用いられます。


動悸が起きたときの対処法

動悸を感じたときの具体的な対処法について解説します。

急性期の対処(動悸が起きたとき)

動悸を感じたら、まずは楽な姿勢をとって安静にしましょう。座ったり横になったりして、体をリラックスさせます。

深呼吸は自律神経を整えるのに効果的です。鼻からゆっくり息を吸い、お腹を膨らませるようにして(腹式呼吸)、口からゆっくり息を吐きます。これを数回繰り返すことで、副交感神経が優位になり、心拍数が落ち着くことがあります。

一部の上室性頻拍では、息こらえ(深く息を吸って数秒止める)や冷水で顔を冷やすなどの迷走神経刺激法で発作が停止することがあります。ただし、これらは医師の指導のもとで行うべきです。

多くの場合、動悸は数分から30分程度で自然に治まります。治まった後は、いつ・どのような状況で起きたか、どのくらい続いたかを記録しておくと、受診時に役立ちます。

生活習慣の改善

動悸を予防し、再発を防ぐためには、生活習慣の見直しが重要です。

規則正しい生活リズムを心がけましょう。毎日同じ時間に起床・就寝し、十分な睡眠時間を確保することで、自律神経のバランスが整います。

ストレスは動悸の大きな原因となります。趣味やリラックスできる活動を見つけ、ストレスを適度に発散する時間を作りましょう。

カフェイン(コーヒー、紅茶、エナジードリンクなど)やアルコールの過剰摂取は控えめにしましょう。特にカフェインは交感神経を刺激するため、動悸を誘発しやすくなります。

禁煙も重要です。ニコチンは血管を収縮させ、心拍数を上昇させる作用があります。

バランスの良い食事を心がけ、塩分や脂肪分の過剰摂取を避けましょう。適度な運動習慣も、心臓機能の維持と自律神経の調整に役立ちます。

動悸を悪化させる要因の回避

動悸を誘発・悪化させる要因を把握し、避けることも大切です。

自分にとって動悸を引き起こしやすい状況(特定の食べ物、飲み物、行動など)があれば、それを記録して把握し、できるだけ避けるようにしましょう。

過労や睡眠不足は動悸を悪化させます。仕事や活動のペースを調整し、十分な休息を取ることが大切です。


医療機関を受診すべき目安

動悸は多くの場合、一時的で心配のないものですが、以下のような場合は医療機関を受診することをお勧めします。

早めに受診すべき場合

安静にしていても頻繁に動悸が起こる場合、動悸の持続時間が長くなってきた場合、動悸に伴ってめまいやふらつきがある場合、息切れや息苦しさを伴う場合、胸の痛みや圧迫感を伴う場合、足のむくみがある場合、体重の急激な変化(増加または減少)がある場合、発汗や手の震えを伴う場合などは、何らかの疾患が隠れている可能性があるため、早めに受診しましょう。

緊急受診・救急車を呼ぶべき場合

以下の症状がある場合は、緊急性が高いため、すぐに救急車を呼ぶか救急外来を受診してください。

動悸とともに激しい胸痛がある場合、呼吸困難や窒息感がある場合、意識が朦朧とする・失神した場合、冷や汗が止まらない場合、顔面蒼白やチアノーゼ(唇や爪が青紫色になる)がある場合は、心筋梗塞などの重篤な疾患の可能性があり、一刻を争う事態かもしれません。

何科を受診すべきか

動悸で受診する場合、まずは内科または循環器内科を受診することをお勧めします。循環器内科では、心臓に関する専門的な検査と診断が可能です。

心臓に問題がないと判断された場合は、症状に応じて他の診療科に紹介されることがあります。甲状腺疾患が疑われる場合は内分泌内科、貧血が疑われる場合は血液内科、更年期障害が疑われる場合は婦人科、精神的な原因が疑われる場合は心療内科や精神科などです。

かかりつけ医がいる場合は、まずそこに相談するのもよいでしょう。


動悸の治療法

動悸の治療は、その原因によって異なります。

生活指導

軽度の動悸や、生活習慣に起因する動悸の場合は、まず生活指導が行われます。規則正しい生活、十分な睡眠、ストレス管理、カフェイン・アルコールの制限、禁煙などの指導が中心となります。

薬物療法

不整脈に対しては、抗不整脈薬が使用されます。不整脈の種類や患者の状態に応じて、適切な薬剤が選択されます。心房細動の場合は、脳梗塞予防のための抗凝固薬が併用されることが多いです。

甲状腺機能亢進症に対しては、甲状腺ホルモンの産生を抑える薬が使用されます。貧血に対しては、原因に応じて鉄剤などの補充療法が行われます。

更年期障害に対しては、ホルモン補充療法や漢方薬などが用いられます。パニック障害や不安障害に対しては、抗うつ薬(SSRI)や抗不安薬が使用されます。

非薬物療法

一部の不整脈に対しては、カテーテルアブレーションが有効です。これは、カテーテル(細い管)を血管から心臓内に挿入し、不整脈の原因となる異常な電気回路を焼灼して治療する方法です。心房細動や発作性上室頻拍などに対して高い治療効果が報告されています。

徐脈性不整脈で症状がある場合は、ペースメーカーの植込みが行われることがあります。

心室細動などの致死性不整脈のリスクが高い患者には、植込み型除細動器(ICD)が適応となることがあります。

パニック障害に対しては、薬物療法と併せて認知行動療法が有効です。


自宅でできる脈のセルフチェック

動悸が気になる方は、日頃から自分の脈を確認する習慣をつけておくとよいでしょう。

脈の測り方

手首の内側、親指の付け根に近い部分(橈骨動脈)に、反対の手の人差し指・中指・薬指を当てます。骨のすぐ内側で脈が触れる場所を探し、15秒間の拍動数を数えて4倍するか、1分間そのまま数えます。

脈を測る際は、以下の点をチェックしましょう。1分間の脈拍数(正常は60〜100回)、リズムは規則的か不規則か、脈が飛ぶ感じはないか、脈の強さは一定かなどです。

スマートウォッチの活用

最近では、スマートウォッチ(ウェアラブルデバイス)にも心拍測定や不整脈検出機能が搭載されているものがあります。特に心房細動の検出については、一定の精度があると報告されています。

ただし、これらはあくまで参考情報であり、医療機関での検査に代わるものではありません。異常が検出された場合は、必ず医療機関を受診して正式な検査を受けてください。


まとめ

動悸は、心臓の拍動を不快に感じる非常に一般的な症状です。多くの場合は一時的なものであり、心配する必要はありませんが、中には重大な疾患が隠れていることもあります。

動悸を感じたら、まずは安静にして深呼吸を行い、様子を見ましょう。症状が頻繁に起こる場合や、胸痛、息切れ、めまいなどの他の症状を伴う場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

日常生活では、規則正しい生活、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理、カフェインやアルコールの制限などを心がけることで、動悸の予防につながります。


参考文献

  1. 一般社団法人日本循環器学会「不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン(2022年改訂版)」 https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/
  2. 一般社団法人日本循環器学会・一般社団法人日本不整脈心電学会「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf
  3. 国立循環器病研究センター「不整脈」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/arrhythmia/
  4. 社会福祉法人恩賜財団済生会「動悸」 https://www.saiseikai.or.jp/medical/symptom/palpitation/
  5. MSDマニュアル家庭版「動悸」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/06-心臓と血管の病気/心臓と血管の病気の症状/動悸
  6. 厚生労働省 e-ヘルスネット「運動負荷心電図」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-013.html
  7. 公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会「自律神経失調による症状」 https://www.meno-sg.net/health/menopause/307/

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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