冬になると、すねや腰まわりが乾燥してカサカサする、かゆくてたまらない、白い粉が吹いたようになる——そんな症状にお悩みではありませんか。これらの症状は「皮脂欠乏性湿疹」と呼ばれる皮膚トラブルかもしれません。皮脂欠乏性湿疹は、高齢者に多くみられる疾患ですが、近年ではエアコンの使用や過度な洗浄習慣により、若い世代でも発症するケースが増えています。放置すると症状が悪化し、強いかゆみや湿疹が広がる恐れがあるため、早期の対処が大切です。
この記事では、皮脂欠乏性湿疹の原因や症状、治療法、そして日常生活での予防法について詳しく解説します。乾燥肌でお悩みの方、かゆみが気になる方は、ぜひ最後までお読みください。

目次
- 皮脂欠乏性湿疹とは
- 皮脂欠乏性湿疹と皮脂欠乏症の違い
- 皮脂欠乏性湿疹の主な症状
- 皮脂欠乏性湿疹が起こる原因
- 皮脂欠乏性湿疹になりやすい人の特徴
- 皮脂欠乏性湿疹と似た疾患との見分け方
- 皮脂欠乏性湿疹の検査と診断
- 皮脂欠乏性湿疹の治療法
- 日常生活でできる予防法とセルフケア
- 皮膚科を受診すべきタイミング
- よくある質問
- まとめ
皮脂欠乏性湿疹とは
皮脂欠乏性湿疹とは、皮膚の皮脂や水分が減少して乾燥し、それが悪化して炎症や湿疹を引き起こした状態を指します。医学的には「皮脂欠乏性皮膚炎」とも呼ばれ、主に秋から冬にかけて発症しやすい疾患です。
健康な皮膚は、皮脂膜や角質細胞間脂質、天然保湿因子などによって水分が保持されており、外部の刺激から守られています。これを「皮膚のバリア機能」といいます。ところが、加齢や環境の変化、不適切なスキンケアなどによって皮脂や水分が減少すると、このバリア機能が低下します。バリア機能が低下した皮膚は外部からの刺激を受けやすくなり、わずかな刺激でもかゆみや炎症が起こりやすくなります。
日本皮膚科学会が2021年に発表した「皮脂欠乏症診療の手引き」によると、皮脂欠乏症は高齢者に非常に多くみられ、65歳以上の高齢者の7割以上で皮膚の乾燥が認められるとの報告があります。また、糖尿病や慢性腎臓病などの基礎疾患を持つ方、抗がん剤治療や透析治療を受けている方にも発症しやすいことがわかっています。
皮脂欠乏性湿疹と皮脂欠乏症の違い
皮脂欠乏性湿疹を理解するためには、まず「皮脂欠乏症」との違いを知っておくことが重要です。
皮脂欠乏症(乾皮症)とは、皮膚の皮脂や水分が減少して乾燥した状態のことです。皮膚がカサカサしたり、白い粉が吹いたようになったり、細かい鱗屑(りんせつ)が付着したりしますが、この段階では炎症はまだ起きていません。適切な保湿ケアを行えば、湿疹に進行することなく改善できる状態です。
一方、皮脂欠乏性湿疹は、皮脂欠乏症がさらに悪化した状態です。乾燥した皮膚に対してかゆみが生じ、掻いてしまうことで炎症が起こり、赤みやブツブツとした湿疹が出現します。この状態になると、保湿剤だけでは治療が不十分となり、ステロイド外用薬などの抗炎症薬が必要になることが多くなります。
つまり、皮脂欠乏症は皮脂欠乏性湿疹の前段階であり、早期に適切なケアを行うことで湿疹への進行を予防できるということです。
皮脂欠乏性湿疹の主な症状
皮脂欠乏性湿疹の症状は、段階的に進行していきます。それぞれの段階における特徴的な症状を見ていきましょう。
初期症状(皮脂欠乏症の段階)
乾燥の初期段階では、以下のような症状がみられます。
皮膚がカサカサして光沢がなくなります。白い粉を吹いたような外観になり、細かい鱗屑(フケのような皮膚の剥がれ)が付着します。皮膚表面がザラザラした手触りになり、軽いかゆみを感じることもあります。この段階では、まだ炎症は起きておらず、適切な保湿によって改善が期待できます。
中等度の症状
乾燥がさらに進行すると、以下のような症状が現れます。
皮膚にさざ波状や菱形模様の亀裂が生じます。かゆみが強くなり、無意識のうちに掻いてしまうことがあります。掻いた部分に赤みが出始め、皮膚がひび割れてくることもあります。特に膝から下のすねの部分に症状が出やすく、亀甲状(亀の甲羅のような模様)の赤みが特徴的です。
重度の症状(湿疹化した段階)
適切なケアを行わずに放置すると、症状はさらに悪化します。
強いかゆみを伴う湿疹が広がり、赤みのある丘疹(ブツブツした盛り上がり)が出現します。掻き壊してしまうと、ジュクジュクした浸出液が出ることもあります。症状が長期化すると、皮膚が厚く硬くなる苔癬化(たいせんか)や、色素沈着が起こることがあります。さらに悪化すると、「貨幣状湿疹」と呼ばれる硬貨のような円形の湿疹が発生することもあり、この湿疹は非常に強いかゆみを伴います。
好発部位
皮脂欠乏性湿疹は、体の中でも皮脂分泌が少ない部位に発症しやすい傾向があります。特に多いのは以下の部位です。
下腿(すね)が最も好発部位であり、高齢者では膝から下に症状が出やすいとされています。次いで大腿(太もも)、腰回り、背中、上肢(腕)などにも症状が広がることがあります。一方で、皮脂分泌が多い顔面や間擦部(脇の下など)には比較的症状が出にくいとされています。
皮脂欠乏性湿疹が起こる原因
皮脂欠乏性湿疹は、皮膚の乾燥を主な原因として発症します。その乾燥を引き起こす要因は、大きく分けて「生理的要因」「環境要因」「非生理的要因(疾患や医療行為に伴うもの)」の3つに分類されます。
生理的要因
最も一般的な原因は、加齢に伴う皮膚の生理機能の変化です。
年齢を重ねると、皮脂腺や汗腺の機能が低下し、皮脂の分泌量が減少します。また、角質細胞間脂質の主成分であるセラミドや、天然保湿因子の合成量も低下するため、皮膚の水分保持機能が弱くなります。これにより、高齢者では皮膚が乾燥しやすくなり、皮脂欠乏性湿疹のリスクが高まります。
また、乳幼児や小児も皮脂欠乏性湿疹を発症することがあります。これは、皮脂腺や汗腺がまだ十分に発達しておらず、保湿機能が未成熟なためです。
環境要因
日常生活における環境も、皮膚の乾燥に大きく影響します。
空気が乾燥する秋から冬にかけては、皮脂欠乏性湿疹が発症しやすくなります。特に、暖房器具の使用により室内の湿度が低下すると、皮膚から水分が奪われやすくなります。以前は冬に多い疾患とされていましたが、近年では夏でもエアコンの使用により室内が乾燥するため、季節を問わず発症するケースが増えています。
入浴習慣も重要な要因です。熱いお湯での長時間入浴は、皮膚の皮脂を過剰に洗い流してしまいます。また、ナイロンタオルやボディブラシでゴシゴシと強く擦る行為は、角質層を傷つけ、バリア機能を低下させます。洗浄力の強い石鹸やボディソープを毎日使用することも、必要な皮脂まで奪ってしまう原因となります。
紫外線の長期間曝露も、皮膚のバリア機能を低下させる要因の一つです。
非生理的要因(疾患・医療行為に伴うもの)
特定の疾患や医療行為によっても、皮脂欠乏性湿疹が引き起こされることがあります。
アトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚疾患を持つ方は、もともと皮膚のバリア機能が弱いため、皮脂欠乏性湿疹を発症しやすくなります。また、糖尿病の方は多尿により体内の水分が失われやすく、皮膚が乾燥しやすい傾向があります。
慢性腎臓病で透析治療を受けている方も、皮脂欠乏性湿疹のリスクが高いとされています。透析により皮脂腺や汗腺が萎縮し、角層の水分量が低下するためです。透析患者の90%以上に皮脂欠乏症が認められるとの報告もあります。
がん治療に伴う皮膚障害も見逃せません。抗がん剤(特にEGFR阻害薬などの分子標的薬)や放射線治療を受けている方は、治療の副作用として皮膚が乾燥しやすくなります。これらの治療では、皮膚細胞や皮脂腺、汗腺がダメージを受けるため、バリア機能が低下します。
皮脂欠乏性湿疹になりやすい人の特徴
以下のような特徴に当てはまる方は、皮脂欠乏性湿疹を発症しやすい傾向があります。
高齢者
65歳以上の高齢者は、皮脂欠乏性湿疹の最も大きなリスク群です。加齢に伴い皮脂分泌量が減少し、皮膚のバリア機能が低下するため、乾燥しやすくなります。高齢者の7割以上に皮膚の乾燥がみられるとの報告もあり、特に注意が必要です。
乳幼児・小児
乳幼児や小児は、皮脂腺がまだ十分に発達しておらず、皮膚の保湿機能が未成熟です。そのため、成人と比較して皮膚が乾燥しやすく、皮脂欠乏性湿疹を発症することがあります。
アトピー素因がある人
アトピー性皮膚炎の既往がある方や、家族にアトピー性皮膚炎やアレルギー疾患を持つ方がいる場合は、皮膚のバリア機能がもともと弱い傾向があります。そのため、乾燥から湿疹に進行しやすくなります。
基礎疾患がある人
糖尿病、慢性腎臓病(透析患者を含む)、肝障害などの全身性疾患を持つ方は、皮脂欠乏性湿疹のリスクが高くなります。これらの疾患では、体内の水分バランスや代謝機能に影響が生じ、皮膚の乾燥を招きやすくなるためです。
がん治療中の人
抗がん剤治療や放射線治療を受けている方は、治療の副作用として皮膚障害が生じやすくなります。特に分子標的薬による治療では、高い頻度で皮膚の乾燥やかゆみが出現することが知られています。
入浴習慣に問題がある人
熱いお湯に長時間浸かる習慣がある方、ナイロンタオルで強く擦る方、洗浄力の強い石鹸を毎日使用する方は、必要な皮脂まで洗い流してしまい、皮膚が乾燥しやすくなります。
乾燥した環境で生活・仕事をしている人
エアコンや暖房を長時間使用する環境で過ごしている方は、室内の湿度が低下し、皮膚から水分が奪われやすくなります。オフィスワーカーや、空調が効いた建物内で長時間過ごす方は注意が必要です。
皮脂欠乏性湿疹と似た疾患との見分け方
皮脂欠乏性湿疹と似た症状を呈する皮膚疾患はいくつかあります。正確な診断は皮膚科専門医に委ねるべきですが、主な鑑別疾患について知っておくことで、適切な受診のタイミングを判断する助けになります。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の異常とアレルギー反応が関与する慢性の皮膚疾患です。皮脂欠乏性湿疹と同様に皮膚の乾燥やかゆみを伴いますが、アトピー性皮膚炎は顔面や首、肘の内側、膝の裏側など特定の部位に症状が出やすく、左右対称性に発症する傾向があります。また、家族歴やアレルギー素因との関連が強いことも特徴です。
接触皮膚炎(かぶれ)
接触皮膚炎は、特定の物質に触れることで生じるアレルギー反応または刺激反応による湿疹です。金属、化粧品、洗剤、植物など、原因となる物質に触れた部位に限定して症状が出現するのが特徴です。皮脂欠乏性湿疹との違いは、原因物質を特定し除去することで症状が改善する点にあります。
乾癬
乾癬は、皮膚細胞の過剰な増殖により、銀白色の鱗屑を伴う紅斑が生じる慢性の皮膚疾患です。皮脂欠乏性湿疹と似て皮膚がカサカサしますが、乾癬では厚い鱗屑が特徴的で、頭皮や肘、膝などに好発します。また、爪の変形を伴うこともあります。
貨幣状湿疹
貨幣状湿疹は、硬貨のような円形の湿疹が特徴的な疾患です。実は、皮脂欠乏性湿疹が悪化して貨幣状湿疹に移行することもあります。強いかゆみを伴い、掻き壊すと水疱や膿疱が生じることもあります。
白癬(水虫)
足に症状がある場合は、白癬(水虫)との鑑別も重要です。白癬は真菌(カビの一種)による感染症で、足の指の間やかかと、爪などに症状が出ます。皮脂欠乏性湿疹と異なり、抗真菌薬による治療が必要です。
皮脂欠乏性湿疹の検査と診断
皮脂欠乏性湿疹の診断は、主に視診と問診によって行われます。通常、特別な検査は必要ありませんが、症状や経過によっては追加の検査が行われることもあります。
視診
皮膚科医は、皮膚の状態を詳細に観察します。乾燥の程度、鱗屑の有無、亀裂の状態、発赤や湿疹の範囲、掻破痕(掻いた跡)の有無などを確認します。近年では、ダーモスコピー(拡大鏡の一種)を用いて、より詳細な皮膚所見を観察することもあります。
問診
発症時期や経過、かゆみの程度、入浴習慣、使用している石鹸やスキンケア製品、基礎疾患の有無、服用中の薬、生活環境などについて詳しく聞き取りが行われます。これらの情報は、原因の特定や治療方針の決定に重要です。
必要に応じて行われる検査
アトピー性皮膚炎や糖尿病などの基礎疾患が疑われる場合は、血液検査が行われることがあります。白癬(水虫)との鑑別が必要な場合は、皮膚の一部を採取して顕微鏡で真菌の有無を確認する検査(KOH直接鏡検法)が行われます。接触皮膚炎が疑われる場合は、パッチテストでアレルゲンを特定することもあります。
重症度の評価
皮脂欠乏性湿疹の重症度は、主に肉眼的な評価によって判断されます。国際的には「Overall Dry Skin Score(ODS)」という5段階の評価基準が用いられており、鱗屑、粗造さ、発赤、亀裂、湿疹の程度を総合的に評価します。また、かゆみの程度も重症度評価の重要な指標となります。
皮脂欠乏性湿疹の治療法
皮脂欠乏性湿疹の治療は、症状の程度に応じて段階的に行われます。基本は保湿による皮膚のバリア機能の回復であり、炎症がある場合はステロイド外用薬などの抗炎症薬を併用します。
保湿剤による治療
皮脂欠乏性湿疹の治療において、保湿は最も重要な基本治療です。保湿剤は大きく2種類に分類されます。
「モイスチャライザー」は、角質層に直接うるおいを与え、水分保持量を高める働きを持つ保湿剤です。代表的なものとして、ヘパリン類似物質(ヒルドイドなど)や尿素製剤(ケラチナミンなど)があります。これらは皮膚の水分を増加させる効果が高く、様々な剤形(軟膏、クリーム、ローション、フォーム、スプレーなど)があるため、季節や好みに応じて選択できます。
「エモリエント」は、皮膚表面を油膜で覆い、水分の蒸発を防ぐ働きを持つ保湿剤です。白色ワセリンやプロペトなどが代表的です。皮膚を保護する効果は高いですが、べたつきがあり使用感に難があることもあります。
日本皮膚科学会の診療ガイドラインでは、高齢者の皮脂欠乏症に対する保湿剤の使用は「強く推奨」されており、その有効性は科学的に証明されています。
保湿剤の正しい使い方
保湿剤の効果を最大限に発揮するためには、適切な塗り方を理解しておくことが重要です。
塗布量の目安として「FTU(フィンガーチップユニット)」という単位がよく用いられます。これは、チューブから軟膏を成人の示指の先端から第1関節まで押し出した量(約0.5g)のことで、この量で手のひら2枚分の面積に塗ることができます。塗った後に皮膚が少しテカテカ光る程度が適量の目安です。
塗布回数については、1日2回(朝と入浴後)が基本とされています。研究によると、1日1回よりも2回塗った方が高い保湿効果が得られることがわかっています。特に入浴後は皮脂が洗い流されて乾燥しやすいため、できるだけ早く保湿剤を塗ることが推奨されます。
なお、塗布のタイミングについては、入浴後すぐに塗らなければならないわけではありません。研究では、入浴1分後に塗った場合と1時間後に塗った場合で、保湿効果に大きな差はないという結果も報告されています。無理なく継続できるタイミングで塗ることが大切です。
ステロイド外用薬による治療
皮膚に炎症(赤み、かゆみ、湿疹)がみられる場合は、保湿剤だけでは不十分であり、ステロイド外用薬を使用して炎症を抑える治療が必要です。
ステロイド外用薬には5段階の強さ(ランク)があり、症状の程度や発症部位に応じて適切な強さの薬が処方されます。皮膚科医の指示に従って適切に使用すれば、ステロイド外用薬は安全で効果的な治療薬です。一般的に、症状のある部位にのみ塗布し、症状が改善したら徐々に減量していきます。
保湿剤とステロイド外用薬を併用する場合は、まず広い範囲に保湿剤を塗り、その後に湿疹のある部位だけにステロイド外用薬を塗るのが基本です。
抗ヒスタミン薬(内服薬)
かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬の内服が併用されることがあります。抗ヒスタミン薬は、かゆみの原因となるヒスタミンの働きを抑え、かゆみを軽減します。これにより掻き壊しを防ぎ、症状の悪化を予防することができます。
市販薬での対応
症状が軽度の場合や、病院を受診するまでの応急処置として、市販の保湿剤やステロイド外用薬を使用することも一つの選択肢です。ドラッグストアでは、ヘパリン類似物質や尿素を含む保湿剤、また低〜中程度の強さのステロイド外用薬が販売されています。
ただし、市販薬を5〜6日間使用しても症状が改善しない場合や、悪化している場合は、自己判断で使用を続けずに皮膚科を受診することが重要です。
日常生活でできる予防法とセルフケア
皮脂欠乏性湿疹は、日常生活での心がけによって予防・改善することが可能です。特に入浴方法や保湿習慣、室内環境の調整が重要です。
入浴時の注意点
入浴は皮膚を清潔に保つために大切ですが、方法を誤ると皮膚の乾燥を悪化させてしまいます。以下の点に注意しましょう。
お湯の温度は38〜40度程度のぬるめに設定します。熱いお湯は皮脂を過剰に洗い流してしまうため、乾燥を招きます。入浴時間は10分程度を目安とし、長時間の入浴は避けましょう。
体を洗う際は、ナイロンタオルやボディブラシで強くこすることは避けてください。摩擦により角質層が傷つき、バリア機能が低下します。石鹸やボディソープをよく泡立てて、手のひらや柔らかいタオルで優しく洗うようにしましょう。特に乾燥しやすい部位(すね、腰など)への石鹸の使用は最小限に抑えるのが望ましいです。
石鹸やボディソープは、洗浄力が穏やかで低刺激なものを選びましょう。すすぎ残しがあると皮膚への刺激となるため、しっかりと洗い流すことも大切です。
入浴剤を使用する場合は、保湿成分を含む薬用タイプのものがおすすめです。ただし、硫黄を含む入浴剤は皮脂の分泌を抑える作用があるため、皮脂欠乏性湿疹がある方は避けた方がよいでしょう。
入浴後の保湿
入浴後は皮膚から水分が蒸発しやすい状態になっています。入浴後30分経過すると、入浴前よりも皮膚の水分量が減少してしまうという報告もあります。できれば入浴後10分以内に保湿剤を塗ることを習慣にしましょう。
体をタオルで拭く際は、強くこすらず、押し当てるようにして水分を吸い取ります。皮膚が少し湿っている状態で保湿剤を塗ると、効果的に水分を閉じ込めることができます。
室内環境の調整
空気が乾燥すると皮膚も乾燥しやすくなるため、室内の湿度管理が重要です。特に冬場やエアコン使用時は室内が乾燥しやすくなるため、加湿器を使用して適切な湿度(50〜60%程度)を保つようにしましょう。加湿器がない場合は、室内に濡れたタオルを干したり、洗濯物を室内干しにしたりすることでも加湿効果が得られます。
暖房器具については、エアコンやファンヒーターは空気を乾燥させやすいため、加湿と組み合わせて使用することが大切です。電気毛布は体を温めるとかゆみが増すことがあるため、就寝前にスイッチを切ることをおすすめします。
衣類の選び方
衣類による刺激も皮膚に影響を与えます。肌に直接触れる下着や寝間着は、綿などの天然素材で、肌触りの柔らかいものを選びましょう。ウールやナイロンなどの化学繊維は、チクチクした刺激を与えることがあるため注意が必要です。
衣類のゴムがきつすぎると、締め付け部分の皮膚に刺激を与えます。ゆったりとしたサイズを選び、ゴム部分が直接肌に当たらないよう工夫することも大切です。
外出時には、手袋やマフラー、長袖の服などで肌の露出を減らし、冷たく乾燥した外気から皮膚を守りましょう。
食事・生活習慣
バランスの良い食事を心がけることで、健康な皮膚を維持するための栄養素を摂取できます。特にビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、必須脂肪酸などは皮膚の健康維持に重要な栄養素です。
一方で、かゆみを悪化させる可能性がある食品には注意が必要です。アルコールや香辛料の強い食べ物は血行を促進し、かゆみを増強させることがあります。また、ほうれん草、たけのこ、里芋などのアクの強い食品や、トマト、いちご、チョコレートなどは、体内でヒスタミンを放出させやすいとされているため、かゆみが強い時期は控えめにした方がよいかもしれません。
水分補給も忘れずに行いましょう。体内の水分が不足すると皮膚も乾燥しやすくなります。
紫外線対策
長期間にわたる紫外線曝露は、皮膚のバリア機能を低下させる要因となります。外出時には帽子をかぶる、日陰を歩く、日焼け止めを使用するなどの対策を心がけましょう。特に紫外線の強い5月から8月、10時から14時頃は注意が必要です。
日常的な保湿習慣
入浴後だけでなく、日中も乾燥を感じたらこまめに保湿剤を塗ることが効果的です。特に水仕事の前後や手洗い後は、皮脂が失われやすいため保湿を心がけましょう。
乾燥しやすい季節(秋〜冬)には、症状が出る前から予防的に保湿ケアを始めることが大切です。10月頃から保湿剤を塗り始め、毎日継続することで皮脂欠乏性湿疹の発症を予防できます。
皮膚科を受診すべきタイミング
セルフケアで対応できる場合もありますが、以下のような状況では皮膚科を受診することをおすすめします。
市販の保湿剤やステロイド外用薬を5〜6日間使用しても症状が改善しない場合は、他の疾患の可能性や、より強い治療が必要な可能性があります。また、症状が悪化している場合も早めの受診が必要です。
かゆみが強くて眠れない、日常生活に支障をきたすほどの症状がある場合は、適切な治療によって早期の改善を図ることが大切です。掻き壊してしまい、ジュクジュクしている、膿が出ているなどの場合は、細菌感染を起こしている可能性があるため、速やかに受診しましょう。
春から夏になっても症状が軽快しない場合は、皮脂欠乏性湿疹以外の原因(糖尿病、透析、抗がん剤治療など)が関係している可能性があります。このような場合は、原因疾患の治療も含めた対応が必要となります。
症状が広範囲に及ぶ場合や、顔面など目立つ部位に症状がある場合も、専門医の診察を受けることをおすすめします。

よくある質問
皮脂欠乏性湿疹は、適切な治療を行えば症状は改善します。しかし、加齢に伴う皮膚機能の低下や、環境要因は継続するため、治療を中断すると再発することが少なくありません。症状が改善した後も、予防的に保湿ケアを継続することが大切です。
皮脂欠乏性湿疹は、皮脂分泌が少ない部位(すね、腰、腕など)に発症しやすく、皮脂分泌が多い顔面に症状が出ることは比較的少ないとされています。ただし、目の周りや頬など、顔の中でも乾燥しやすい部位には症状が出ることがあります。
Q. 子どもにも皮脂欠乏性湿疹は起こりますか?
はい、乳幼児や小児にも皮脂欠乏性湿疹は起こります。子どもは皮脂腺がまだ十分に発達しておらず、皮膚の保湿機能が未成熟なためです。特に秋から冬にかけて、頬や手足がカサカサしてかゆがる場合は、皮脂欠乏性湿疹の可能性があります。
Q. 皮脂欠乏性湿疹にはどのような保湿剤がよいですか?
症状や季節に応じて使い分けるのがおすすめです。冬場は保護効果の高い軟膏やクリームタイプ、夏場はさっぱりとしたローションタイプが使いやすいでしょう。有効成分としては、ヘパリン類似物質や尿素を含む製品が広く使用されています。どの保湿剤が自分に合っているかわからない場合は、皮膚科で相談することをおすすめします。
Q. 保湿剤はいつ塗るのが効果的ですか?
入浴後の保湿は特に重要です。入浴によって皮脂が洗い流されるため、入浴後は皮膚が乾燥しやすい状態になっています。また、朝の着替え時など、1日2回の保湿が推奨されています。日中も乾燥が気になる場合は、こまめに塗り直すとより効果的です。
Q. ステロイド外用薬は使い続けても大丈夫ですか?
ステロイド外用薬は、皮膚科医の指示に従って適切に使用すれば安全な薬です。症状がある間は指示通りに使用し、症状が改善したら徐々に使用頻度を減らしたり、弱いランクの薬に切り替えたりしていきます。自己判断で急に中止したり、必要以上に使用を避けたりすると、かえって症状が悪化することがあるため、医師の指示を守ることが大切です。
まとめ
皮脂欠乏性湿疹は、皮膚の乾燥が進行して炎症やかゆみを引き起こす疾患です。高齢者に多くみられますが、エアコンの使用や不適切な入浴習慣により、若い世代でも発症するケースが増えています。
予防と早期治療が最も重要です。日常的な保湿ケアを習慣化し、入浴方法や室内環境に気を配ることで、皮脂欠乏性湿疹の発症を予防できます。症状が出てしまった場合は、早めに適切な治療を開始することで、重症化を防ぐことができます。
保湿剤を使用しても改善しない場合や、かゆみが強い場合、湿疹が広がっている場合は、皮膚科を受診して適切な治療を受けることをおすすめします。皮脂欠乏性湿疹は適切な治療で改善が期待できる疾患ですので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。
参考文献
- 皮脂欠乏症診療の手引き 2021(日本皮膚科学会)
- 一般公開ガイドライン(公益社団法人日本皮膚科学会)
- 乾燥肌のかゆみ(皮脂欠乏性湿疹)原因・症状・治療法(池田模範堂)
- 皮脂欠乏性湿疹(乾燥湿疹)の原因・症状・治療法(田辺ファーマ)
- 皮脂欠乏性湿疹(皮膚炎)の原因&対処法(シオノギヘルスケア)
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務