はじめに
わきから独特のにおいが気になる、制汗剤を使っても効果が感じられない、周囲の目が気になって人と近づくことに抵抗がある―こうした悩みを抱えている方は少なくありません。医学的には「腋臭症」と呼ばれるこの症状は、単なる体質の問題と思われがちですが、実は健康保険が適用される治療対象の疾患として認められています。
本記事では、腋臭症に対する保険適用治療の中心となる「剪除法(せんじょほう)」について、その仕組みから費用、メリット・デメリット、手術の流れまで、患者さんが安心して治療を受けられるよう詳しく解説していきます。

1. ワキガ(腋臭症)とは何か
1-1. 腋臭症の定義と医学的位置づけ
腋臭症は、わきの下から特有の強いにおいを発する疾患です。多くの方が「ワキガ」という呼び方で知っていますが、医学的には正式な疾患名として「腋臭症」という病名が存在します。この疾患は国際疾病分類(ICD-10)においてもL75.0として正式に分類されており、単なる体質や個人の問題ではなく、医療的な治療介入が必要な疾患として位置づけられています。
欧米では体臭があることが一般的で、ワキガは生理的な現象として認識されていますが、日本を含む東アジアでは体臭が少ない民族が多数派であるため、においに対する意識が特に強い傾向があります。このため、日本ではワキガが本人にとって大きなコンプレックスとなり、日常生活や対人関係に支障をきたすケースが少なくありません。
1-2. ワキガの原因となるメカニズム
人間の皮膚には、汗を分泌する「汗腺」と呼ばれる器官が存在します。この汗腺には「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」の2種類があります。
エクリン汗腺は全身の皮膚に広く分布しており、分泌される汗のほとんどが水分で構成されているため、サラサラとした無臭の汗を出します。一方、アポクリン汗腺はわきの下、乳輪、陰部、外耳道など限られた部位にのみ存在し、毛包内に開口しています。このアポクリン汗腺から分泌される汗には、水分だけでなくタンパク質、脂質、脂肪酸などの成分が多く含まれています。
ワキガの原因は、このアポクリン汗腺から分泌された汗が皮膚表面の常在菌によって分解されることで、独特の強いにおいが発生することにあります。つまり、アポクリン汗腺の分泌物そのものではなく、その分解産物がワキガのにおいの正体なのです。
1-3. ワキガの発症に関わる要因
ワキガの発症には、いくつかの要因が関係しています。
第一に遺伝的要因が挙げられます。ワキガは常染色体優性遺伝の形質であり、親がワキガの場合、子どもに遺伝する確率が高まります。両親ともにワキガの場合は約80%、片親の場合でも約50%の確率で子どもに遺伝するといわれています。また、ワキガの方は耳垢が湿っている傾向があり、これもアポクリン汗腺が外耳道にも分布していることによるものです。
第二に性ホルモンの影響があります。アポクリン汗腺は思春期に発達するため、ワキガの症状は思春期以降に始まり、20代でピークを迎えることが多いとされています。性別では、アポクリン汗腺が多い男性の方が重症度が高い傾向にあります。
第三に生活習慣も影響を与えます。食生活の欧米化(高脂肪・高タンパク質の食事)、ストレス、睡眠不足、喫煙や飲酒などが汗腺の働きに影響を与え、においを強める可能性があります。
1-4. ワキガの疫学
日本人におけるワキガの発症率は約10%程度とされており、この比率は欧米人と比較して低くなっています。しかし、においに対する意識が強い日本の文化背景において、たとえ軽度であっても当事者にとっては深刻な悩みとなりやすい特徴があります。
2. 剪除法(皮弁法)とは
2-1. 剪除法の基本原理
剪除法は、別名「皮弁法」「直視下摘除法」「反転剪除法」とも呼ばれ、ワキガ治療の中で最も効果が高く確実な手術方法として広く認められています。この手術法は、わきの下の皮膚を切開し、皮膚を反転させてアポクリン汗腺を直接目で確認しながら、ハサミ(剪刀)を使って一つ一つ丁寧に切除していく方法です。
「剪除」という言葉は「切り取る」という意味で、においの原因となるアポクリン汗腺を直視下で確実に取り除くことができるため、ワキガ治療における根治的な方法として位置づけられています。医師が肉眼で汗腺を確認しながら除去するため、取り残しがほとんどなく、長期追跡調査においても90%以上の患者で高い満足度が報告されています。
2-2. 手術の具体的な手順
剪除法の手術は、一般的に以下のような流れで進められます。
まず、わきの下のしわに沿って2~5cm程度の切開を入れます。クリニックによって切開の長さや本数は異なりますが、多くの場合、片側につき1~2か所の切開が行われます。切開線をしわに沿って入れることで、術後の傷跡を目立ちにくくする工夫がなされています。
次に、切開した部分から皮膚を剥離して反転させます。これにより、皮膚の裏側にあるアポクリン汗腺が直接見えるようになります。医師は専用の照明を使いながら、皮膚の裏面に付着しているアポクリン汗腺を丁寧に観察します。
そして、眼科用の剪刀など専用の器具を使って、アポクリン汗腺を一つ一つ切除していきます。直視下で行うため、汗腺の取り残しを最小限に抑えることができます。同時に、多汗症の原因となるエクリン汗腺もある程度除去されるため、発汗量の軽減効果も期待できます。
最後に、切開した部分を丁寧に縫合します。その際、皮膚の下に血液や滲出液が溜まらないようにドレーン(血を抜く管)を留置することもあります。そして、ガーゼでしっかりと圧迫固定し、包帯で固定して手術は完了となります。
手術時間は、両わき合わせて1~2時間程度が一般的です。また、ほとんどの場合、入院の必要はなく、日帰りで手術を受けることができます。
2-3. 剪除法の治療効果
剪除法によって、においの原因となるアポクリン汗腺の95%以上を除去することが可能とされています。ただし、どのような手術方法であっても、アポクリン汗腺を100%完全に取り切ることはできません。それでも、剪除法を行うことで、においは大幅に軽減され、日常生活上問題ない程度にまで改善することが期待できます。
ある医療機関の手術半年後のアンケート調査によると、においを全く感じなくなった方が70%、手術前と比べてにおいが90%減少した方が25%、80%減少した方が5%という結果が報告されています。このように、剪除法は非常に高い治療効果を持つ手術法といえます。
また、一度手術を行えば、除去されたアポクリン汗腺が再生することはほとんどないため、効果は半永久的に持続します。これが剪除法の大きな特徴であり、他の治療法と比較した際の最大のメリットの一つです。
3. 保険適用について
3-1. 剪除法が保険適用される理由
ワキガ治療には様々な方法がありますが、現在、保険が適用されるのは剪除法(皮弁法)のみです。これは、厚生労働省の診療報酬点数表において「皮下汗腺除去術(K008-1)」として明確に定められており、医学的に必要と判断されれば保険診療の対象となるためです。
この診療報酬点数表によれば、皮弁法の保険点数は6,870点に設定されています。1点が10円に相当するため、片側で68,700円、両側で137,400円が医療機関の診療報酬となります。患者さんが実際に支払う金額は、この金額に保険の自己負担割合を掛けた額となります。
一方、ボトックス注射、ミラドライ、クワドロカット法などの他の治療法は、現在のところ保険適用外となっており、全額自己負担での治療となります。そのため、経済的な負担を抑えながら根本的な治療を受けたい方にとって、剪除法は非常に有効な選択肢となります。
3-2. 保険適用の条件
剪除法で保険診療を受けるためには、いくつかの条件があります。
まず第一に、医師による診察を受け、「腋臭症」という診断を受ける必要があります。これは、においの強さや発汗の程度、生活への支障などを総合的に評価した上で行われます。自己判断や単なる体臭の悩みだけでは保険は適用されません。
第二に、保険適用となるのは「重度の腋臭症」の場合に限られます。具体的には、「悪臭が著しく、他人の就業に支障を生じるほどの事実が明確で、客観的に見て医療の介入が必要」と医師が判断した場合です。この診断は、医師の専門的な判断に基づいて行われます。
においの評価方法としては、ガーゼテストなどが用いられることがあります。わきの下にガーゼを挟んで一定時間経過後、医師がそのガーゼのにおいを確認し、においの程度を判定します。鼻を近づけなくても臭う場合や、鼻を近づけて刺激臭できついと判断された場合は、中等度以上として手術適用となることが多いようです。
ただし、保険適用の基準には客観的な検査方法が確立されているわけではなく、最終的には医師の診察による判断となります。そのため、クリニックによって判断基準にばらつきがあるのが実情です。
3-3. 保険適用での手術費用
保険適用で剪除法を受けた場合の自己負担額は、保険の負担割合によって異なります。
3割負担の方の場合、片わきで約20,000~22,000円、両わきで約41,000~50,000円程度となります。1割負担の方であれば、片わきで約6,870円、両わきで約13,740円程度です。
これらの金額に加えて、術前の血液検査(数千円程度)、初診料・再診料、処方される薬代(抗生物質や痛み止めなど)、術後の通院費用などが別途必要となります。全体で見ても、保険適用の場合は5万円前後で両わきの手術が受けられることになります。
一方、美容外科クリニックなどで自費診療として剪除法を受ける場合、両わきで30万~40万円程度の費用がかかることが一般的です。保険適用と比較すると、約3分の1程度の費用で同じ手術を受けられることになります。
3-4. 医療保険からの給付金について
生命保険会社や共済組合などの医療保険に加入している方は、保険診療で手術を受けた場合に手術給付金を受けられることがあります。
給付の対象となるかどうかは、ご加入の保険契約の内容によります。手術名は「腋臭症手術(K008-1)」となりますので、この手術名で給付対象かどうかを保険会社に確認してください。給付を受けるためには、医師の診断書が必要となります。
給付金の額も契約内容によって異なりますが、場合によっては手術費用と同額、あるいはそれ以上の金額が戻ってくることもあります。ただし、給付を受けるためには本人が手続きを行う必要がありますので、忘れずに申請することが大切です。
4. 剪除法のメリットとデメリット
4-1. メリット
剪除法には、以下のような多くのメリットがあります。
第一に、治療効果の高さが挙げられます。直視下でアポクリン汗腺を確認しながら除去するため、においの除去効果が非常に高く、再発のリスクも低いという特徴があります。現在あるワキガ治療の中で、最も確実性の高い方法といえるでしょう。
第二に、効果の持続性です。一度除去されたアポクリン汗腺は再生しないため、効果は半永久的に持続します。これは、定期的な通院や繰り返しの治療が必要な他の方法と比較した際の大きな利点です。
第三に、保険が適用される点です。医師の診断により重度の腋臭症と判断されれば、健康保険を使って治療を受けることができます。経済的な負担を大幅に軽減できることは、多くの患者さんにとって重要なポイントとなります。
第四に、多汗症の改善効果も期待できる点です。剪除法ではアポクリン汗腺だけでなく、エクリン汗腺もある程度除去されるため、わきの発汗量も減少します。においと同時に汗の量にも悩んでいる方にとっては、一石二鳥の効果が得られます。
4-2. デメリット
一方で、剪除法にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。
第一に、傷跡が残ることです。皮膚を切開する手術である以上、傷跡は避けられません。時間の経過とともに徐々に目立たなくなっていきますが、基本的には一生涯残るものと考えておく必要があります。わきの下という普段は目立ちにくい部位ではありますが、傷跡を気にされる方には手術をお勧めできません。
また、手術の際に皮膚を薄くする必要があるため、術後の皮膚の質感がやや硬く変化する場合があります(なめし革様変化)。個人の体質や術後の安静が守れるかどうかによって、目立った傷跡が残る場合もあります。汗腺をしっかり取るほど、切開した傷以外にも全体的な色素沈着や皮膚の拘縮が残りやすいという傾向もあります。
第二に、術後の安静期間が必要であることです。手術後は1~2週間程度、わきを固定する必要があり、この間は腕を上げる動作が制限されます。そのため、日常生活に一定の支障が出ます。シャンプーをすることも困難で、着替えにも制限が加わります。
さらに、術後の通院が必要です。多くの場合、手術翌日、1週間後(または数日後)の抜糸時、1~2週間後の経過観察時など、複数回の通院が求められます。仕事や学業との両立を考える必要があります。
第三に、片側ずつしか手術できないことが多い点です。両わきを同時に手術すると、両腕の動きが制限されてしまい、日常生活がほぼ不可能になってしまうためです。そのため、片側を手術して回復してから、もう片側を手術するという流れになることが一般的です。これにより、完全に治療が終わるまでに数か月かかることもあります。
第四に、合併症のリスクがあります。どんな小さな手術でも、リスクのない手術というものはありません。術後の出血、感染、皮膚の壊死、血腫の形成、神経障害などの合併症が起こる可能性があります。ただし、術後の注意事項をきちんと守っていただければ、これらのリスクはかなり抑えられます。
4-3. こんな方に剪除法がおすすめ
以上のメリット・デメリットを踏まえると、剪除法は以下のような方に特におすすめです。
- においの根本的な治療を希望される方
- 経済的な負担を抑えたい方
- 長期休暇が取れる方(学生の夏休み、冬休みなど)
- 傷跡が残ることを理解し、受け入れられる方
- 医師の診察で重度の腋臭症と診断された方
逆に、以下のような方には、他の治療法を検討することをお勧めします。
- 傷跡を絶対に残したくない方
- 長期の安静期間が取れない方
- 軽度のワキガで、保険適用の基準を満たさない方
- 糖尿病や肥満などで手術のリスクが高いと判断された方
5. 他の治療法との比較
5-1. ボトックス注射
ボトックス注射は、ボツリヌス毒素をわきの皮膚に注射することで、一時的に汗の分泌を抑える治療法です。
メリットとしては、切らずに治療ができるため傷跡が残らないこと、治療時間が短く(片側5~10分程度)、日常生活への影響が少ないことが挙げられます。一方、デメリットとしては、効果が一時的であること(4~9か月程度)、繰り返しの治療が必要であること、においそのものへの効果は限定的であることなどがあります。
保険適用については、重度の原発性腋窩多汗症に対してのみ保険が使える場合があります。ただし、腋臭症に対するボトックス注射は基本的に保険適用外です。
5-2. ミラドライ
ミラドライは、マイクロ波を用いて汗腺を熱により破壊し、発汗を抑制する治療法です。破壊された汗腺は活動を停止し、その機能は再生しないため、効果は半永久的とされています。
メリットとしては、切らない治療であるため傷跡が残らないこと、ダウンタイムが短いこと、1~2回の治療で効果が得られることなどがあります。デメリットとしては、保険適用外で費用が高額であること(20万~50万円程度)、施術者の技術によって効果に差が出る可能性があること、剪除法と比較すると再発のリスクがやや高いことなどが挙げられます。
原発性腋窩多汗症に対する治療機器として薬事承認を取得していますが、腋臭症に対しては保険適用となりません。
5-3. 外用薬(塩化アルミニウム、エクロックゲル、ラピフォートワイプなど)
外用薬は、軽度から中等度のワキガ症状に対して使用される治療法です。制汗作用や殺菌作用のある成分が含まれており、わきの下の汗や細菌の繁殖を抑えることで、においを軽減します。
メリットとしては、手軽に使用できること、痛みや傷跡がないこと、比較的安価であることが挙げられます。デメリットとしては、効果が一時的で毎日の使用が必要であること、重度の症状には十分な効果が得られにくいこと、人によっては皮膚炎などの副作用が出ることなどがあります。
重度の原発性腋窩多汗症に対してエクロックゲルやラピフォートワイプは保険適用となりますが、腋臭症そのものに対する保険適用はありません。
5-4. 治療法の選択について
どの治療法を選ぶかは、症状の程度、ライフスタイル、予算、治療に求める効果などによって変わってきます。一つの治療法が全ての人に最適というわけではありません。
軽度の症状であれば、まず外用薬やボトックス注射から始めてみるのも良いでしょう。症状が重く、根本的な治療を希望される場合は、剪除法やミラドライが選択肢となります。傷跡を残したくないがコスト面で余裕がある方はミラドライ、費用を抑えたい方は剪除法というように、それぞれの優先順位に応じて選択することが大切です。
重要なのは、信頼できる医療機関で専門医の診察を受け、自分の症状や希望をしっかりと伝えた上で、最適な治療法を一緒に考えていくことです。
6. 手術の流れと術後の経過
6-1. 手術前の準備
剪除法を受けると決めたら、まず医師のカウンセリングを受けます。この際、家族歴や症状を詳しく確認し、においのレベルチェック(ガーゼテストなど)を行います。保険適用となるかどうかの判断もこの時点で行われます。
手術が決定したら、術前の血液検査が必要となります。これは肝機能、腎機能、感染症、止血機能、血糖値、血球などの一般的な術前スクリーニングです。血液検査の結果は3~4日で出るため、手術はその後となります。
手術当日の注意事項としては、わきの毛を事前に剃っておくこと、飲酒を控えること、締め付けの少ない前開きの服装で来院することなどがあります。
6-2. 手術当日
手術は局所麻酔で行われることが多く、意識はある状態で進められます。クリニックによっては、リラックスできるように静脈麻酔を併用することもあります。
手術時間は両わきで1~2時間程度です。手術が終わったら、しっかりとガーゼで圧迫固定し、包帯で固定します。この固定はとても重要で、手術の成功を左右する要因の一つとなります。
ほとんどの場合、入院の必要はなく、当日帰宅できます。ただし、遠方から来院される場合は、術後の安静のため、クリニック周辺で1泊することを勧められることもあります。
6-3. 術後の経過と通院
手術翌日には、一度クリニックを受診してガーゼ交換を行うことが一般的です。この時点で創部の状態を確認し、問題がないかチェックします。
術後3~7日程度は、わきをしっかりと固定しておく必要があります。この期間は腕を上げる動作が制限されるため、シャンプーや着替えなどの日常動作に支障が出ます。できるだけ安静にして、無理な動きを避けることが大切です。
術後1~2週間後に抜糸が行われます。この時点で経過観察も行い、問題がなければ治療は完了となります。ただし、完全にわきを使って良い状態になるまでには、さらに数週間かかることもあります。
術後の注意事項としては、以下のような点が挙げられます。
- 手術後1~2週間は、激しい運動や重い物を持つことを避ける
- シャワーは医師の許可が出るまで控える(通常1週間程度)
- 処方された抗生物質や痛み止めは指示通りに服用する
- 患部を清潔に保つ
- わきを上げる動作を避ける
- 飲酒や喫煙を控える
これらの注意事項を守ることで、合併症のリスクを減らし、良好な治療結果を得ることができます。
6-4. 傷跡の経過
手術直後は、切開線が赤く目立ちます。また、わき全体に色素沈着や内出血が見られることもあります。
術後3か月頃から徐々に傷跡が落ち着き始め、半年から1年程度で傷跡はかなり目立たなくなってきます。ただし、完全に消えることはなく、よく見れば白い線状の傷跡が残ります。
傷跡の残り方は個人差が大きく、体質(ケロイド体質など)、術後の安静の守り方、手術の技術などによって変わってきます。気になる場合は、術後に傷跡治療(レーザー治療、テープ固定、薬の塗布など)を追加で行うこともできます。
7. クリニック選びのポイント
7-1. 形成外科専門医かどうか
剪除法は高い技術を要する手術です。執刀医が日本形成外科学会の専門医であるかどうかは、一つの重要な判断基準となります。形成外科専門医は、皮膚や皮下組織の手術について専門的な訓練を受けており、剪除法についても豊富な経験を持っていることが期待できます。
7-2. 症例数と実績
そのクリニックで年間どれくらいの剪除法を行っているか、実績はどうかといった情報も重要です。経験豊富な医師ほど、手術の技術が高く、合併症のリスクも低くなる傾向があります。
ホームページなどで症例写真や治療実績を公開しているクリニックもあるので、参考にすると良いでしょう。
7-3. 説明の丁寧さ
初回のカウンセリング時に、メリットだけでなくデメリットやリスクについても丁寧に説明してくれるかどうかは、信頼できるクリニックかどうかを判断する上で大切なポイントです。
良いクリニックは、患者さんの質問に対して誠実に答え、十分な時間をかけて説明してくれます。また、無理に手術を勧めることはせず、患者さんの状態や希望に応じて最適な治療法を提案してくれるはずです。
7-4. 保険診療への姿勢
保険適用のクリニックであっても、実際には保険適用と判断されるケースが少なく、結果的に自費診療へ誘導されるケースもあるようです。
信頼できるクリニックは、保険適用の条件を明確に説明し、保険診療での治療を希望する患者さんに対して誠実に対応してくれます。ただし、保険適用には医学的な基準があるため、全ての方が保険診療を受けられるわけではないことも理解しておく必要があります。
7-5. アフターケアの体制
術後のフォローアップ体制がしっかりしているかどうかも重要です。万が一、合併症が起きた場合にも、迅速に対応してくれる体制が整っているクリニックを選びましょう。
また、術後の通院がしやすい立地にあるかどうかも、実際に治療を受ける際には重要な要素となります。

8. よくある質問
手術中は局所麻酔をしっかりと効かせるため、痛みを感じることはほとんどありません。麻酔の注射時にチクッとした痛みはありますが、我慢できる程度です。術後は痛み止めの薬が処方されますので、それを服用することで痛みをコントロールできます。個人差はありますが、多くの方は2~3日で痛みが和らいでいきます。
中学生くらいから手術は可能ですが、体格や本人の意識の程度、手術への理解度などを総合的に判断する必要があります。思春期はアポクリン汗腺が発達途中であるため、手術のタイミングについては医師とよく相談することが大切です。
Q3. 再発することはありますか?
剪除法で除去されたアポクリン汗腺は再生しないため、基本的には再発することはありません。ただし、手術で全ての汗腺を100%除去することはできないため、わずかに残った汗腺からの分泌によって、軽いにおいを感じることはあり得ます。それでも、手術前と比較すれば大幅な改善が得られます。
Q4. 両わきを同時に手術できますか?
両わきを同時に手術すると、両腕の動きが制限されてしまい、日常生活が極めて困難になります。そのため、多くのクリニックでは片側ずつの手術を推奨しています。片側が完全に回復してから、もう片側を手術するという流れが一般的です。
Q5. 手術後、いつから仕事や学校に行けますか?
デスクワークなど、腕をあまり動かさない仕事であれば、数日から1週間程度で復帰できることもあります。ただし、重い物を持つ仕事や腕を大きく動かす仕事の場合は、2~3週間程度の休養が必要となります。学生の場合、夏休みや冬休みなどの長期休暇を利用して手術を受けることをお勧めします。
Q6. においは完全になくなりますか?
剪除法によって、においは大幅に軽減されます。多くの方が日常生活で気にならない程度まで改善しますが、汗腺を100%除去することはできないため、完全に無臭になるとは限りません。それでも、手術前と比較すれば80~90%以上の改善が期待でき、ほとんどの方が満足される結果が得られます。
9. まとめ
ワキガ(腋臭症)は、医学的に治療が認められている疾患であり、剪除法という保険適用の根治的治療法が存在します。剪除法は、においの原因となるアポクリン汗腺を直接除去する手術で、現在あるワキガ治療の中で最も効果が高く確実な方法として位置づけられています。
保険が適用されれば、両わきで5万円前後という比較的手頃な費用で治療を受けることができます。効果は半永久的に持続し、再発のリスクも低いという大きなメリットがあります。
一方で、傷跡が残ること、術後の安静期間が必要なこと、片側ずつしか手術できないことなど、いくつかのデメリットや制約も存在します。これらのメリット・デメリットをよく理解した上で、自分にとって最適な治療法を選択することが大切です。
ワキガの悩みは、一人で抱え込まずに、まず専門医に相談してみることが解決への第一歩です。適切な診断と治療によって、多くの方がその悩みから解放され、より快適な日常生活を送れるようになっています。
アイシークリニック新宿院では、経験豊富な専門医が、丁寧なカウンセリングと確実な技術で腋臭症治療を行っています。保険適用での治療も行っておりますので、ワキガでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本形成外科学会:腋臭症(わきが)
- 日本皮膚科学会:原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版
- 東邦大学・医中誌:診療ガイドライン情報データベース – 形成外科診療ガイドライン
- しろぼんねっと:K008 腋臭症手術 診療報酬点数表
- 難病情報センター:原発性局所多汗症
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務